menu136 最速竜のお刺身
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今日も是非お召し上がり下さい。
ディッシュの料理は、まだ戦場の傷跡が残るルルイエ湖で行われた。
デラン王から城に持ち帰って食べたらどうだ、と提案を受けたが、ディッシュもアセルスも丁重にお断りする。
魔獣の賞味期限はとても短い。
アセルスがうまくしめたおかげで、腐敗は抑制されているが、いつ食べ頃を失うかはディッシュにも不明だ。
結局、デラン王も残って、ここでスカイドラゴンを食べることになった。
ディッシュは早速、スカイドラゴンの身を食べやすいように切る。
味付けも何もなく、水で洗った大葉の上に切り身を並べていった。
「まずは定番のお刺身からだ」
スカイドラゴンのお刺身である。
大葉の上には、薄桃色の身が並ぶ。
まさに戦場に咲いた大花を思わせた。
食べるのがもったいないと思えるほど、綺麗だ。
「「「おお!!」」」
アセルス、ロドン、グリュンがその美しさに目を奪われる。
ウォンも毛をモフモフにしながら待機していた。
どうやらウォンに味見をしてもらうまでもないらしい。
スカイドラゴンの切り身は、生でも食べられるようだ。
「まずは何も付けずにいってみるか」
ディッシュは箸を持ち上げる。
「ん? ディッシュも食べるのか?」
料理中にディッシュが食べるのは珍しい。
食べるのも忘れて、料理に集中し続けていることが多い。
すると、ディッシュは自分の腹を撫でた。
「俺だって腹が減ってるんだよ。こんな綺麗な切り身を見たら、我慢できねぇよ」
ぐおおおおおお!
ちょっと恥ずかしげに、豪快な腹音を鳴らす。
今回の功労賞はなんと言ってもディッシュだろう。
スカイドラゴンの生態を見抜き、罠まで用意した。
そして魔族との死闘……。
彼がいなければ、今頃ルルイエ王家は魔族に乗っ取られていたかもしれない。
「じゃあ、一緒に食べよう」
「「「「いただきます!」」」」
声が重なる。
それぞれ切り身を口に入れた。
「「「「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」」
瞬間、絶叫する。
かつて戦場だった場所で聞くそれは、まさしく戦士たちの鬨の声に等しい。
今まさに、スカイドラゴンとの実戦を終え、実食が始まったのだ。
「やべー! すっげぇ歯ごたえだ!」
「ああ!! 歯で噛んだ時の絶妙な食感が最高だ」
「味は淡泊だが、上品だし、深みがある」
「ずっと噛んでいると、ほろりとした甘みが顔を出すのもたまらないですね」
ディッシュ、アセルス、ロドン、そしてグリュン。
それぞれは思い思いに、刺身を頬張りながら讃える。
それを遠巻きに見ていたのは、竜騎士たちとデラン王だ。
魔獣――しかもドラゴンを食べるなど見たことも聞いたこともない。
ルルイエ王家名物の鶏竜とは訳が違うのだ。
それでも大葉の中に光る刺身から目が離せない。
ごくりと息を飲む。
脳裏に「おいしそう」という5文字がよぎった。
「デラン王もいかがですか?」
グリュンは切り身を別の大葉に包み、箸と一緒に差し出す。
その姿を見て、周りにはいた竜騎士たちが慌てた。
「グリュン!」
「さすがにそれは……」
「不敬だぞ」
「王がドラゴンなど――」
口々に反対する。
家臣達が反論する横で、デラン王は俄然興味が湧いてきたらしい。
いつしか大葉に包まれた切り身しか視界に入らなくなってしまう。
「待て。食べてみよう」
デラン王がついに決断する。
口やかましい竜騎士たちは、「うっ」と唸り、沈黙した。
王は箸に受け取り、スカイドラゴンの刺身を持ち上げる。
「おお……」
持ってみて初めてわかる。
重いのだ。
スカイドラゴンのおそらく何千分の1の重さであろう。
だが、竜を摘んでいるという気分にさせてくれる。
さらに言えば、身の締まり具合もいい。
デラン王は王ゆえに、それなりに良い料理を日頃食べさせてもらっている。
肉だけではなく、魚介類なども多い。
特に新鮮な魚は好きで、東方より伝わった刺身は特に好きだ。
だからわかる。
どんな魚でも箸でも持てば、くの字に曲がり、くたっとなる。
しかし、スカイドラゴンの刺身は違う。
箸でも持ち上げて、しなびた野菜のようにくたびれることなく、むしろ生き生きとして張りを保っていた。
ますます興味がそそられる。
早く口の中に入れてみたい。
そんな衝動に駆られ、いよいよデラン王は口を開けた。
「王……」
「おやめ下さい」
「それはドラゴン……」
力のない竜騎士たちの声が聞こえる。
皆も見え始めているのだ。
スカイドラゴンの刺身が、とてもおいしそうであることを。
デラン王は舌に載せる。
その瞬間、王の瞼がカッと開いた。
「うまいッッッッッ!!」
両手で箸と料理を掲げ、がに股になりながら、デラン王は絶叫した。
これがスカイドラゴンの刺身か……。
いや、魔獣とは思えない。
淡泊で上品な味わい。
そこにそっと足された甘みが、なかなか小憎い。
そして聞いてはいたが、歯ごたえが最高だ。
確かに魚に似ているが、噛んだの時の歯を持ち上げてくる弾力感に驚かされる。
今まで食べたことがない歯ごたえだった。
「王様、よかったら醤油もどうだ」
「ぬっ! 醤油!! 魚醤ではなくて? あの――?」
ルルイエ王家はカルバニア王国よりも東方に近い。
それ故に、街中には魚醤も売っているが、中には東方から醤油を持って練り歩く行商人の姿も少なくない。
そしてデラン王は、その醤油の大ファンだった。
早速、醤油を付けて食べる。
「むふううううううう!!」
沁みるぅ……。
淡泊なスカイドラゴンの刺身に、チョンと醤油。
それだけで劇的に味が変わる。
醤油独特の塩気が、程良くスカイドラゴンの刺身を包み、その風味を際立たせてくれていた。
醤油好きに刺身はたまらない。
食欲が活性化され、デラン王は差し出されたスカイドラゴンの刺身を、あっという間に平らげてしまった。
その様は、見ていた竜騎士たちも言葉を失うほどだ。
デラン王の食欲もそうだが、主君がおいしそうに食べているのを見て、興味が湧かないものなどいない。
あまつさえ、先ほど戦っていたのだ。
お腹が空いていない竜騎士などいないはずがない。
皆、口を噤み、熱心にデラン王の口の中に消えていくスカイドラゴンの刺身を見つめる。
生唾を飲み込み、空腹を訴えるお腹に自然と手を置いた。
「お前たちもどうだ?」
大葉いっぱいにスカイドラゴンの刺身を持ってきたのはディッシュだった。
竜騎士たちは戸惑う。
「しかし……」
「我々は」
「君を馬鹿に――」
項垂れる。
ルルイエ王家の謁見の間であったことを思い出しているのだろう。
しかし、当のディッシュは瞼を瞬かせるだけだった。
「なんだ、お前ら。まだ気にしてたのか?」
「「「「え?」」」」
「そんなもん俺は聞き飽きてるんだよ。全然気にしてねぇから、食べてくれ。あんたらが食べないと、全部アセルスのお腹に収まって、色々あれが大変なことになっちまうからな」
「でぃ、ディッシュ!! 色々あれとはなななな、なんだ!!」
アセルスは顔を真っ赤にする。
自然と下っ腹を隠した。
その動作を見て、ディッシュは「にししし」と笑う。
「この前、フォンがこっそり教えてくれたぞ。あれが色々やばいって……」
「なっ!!!!」
キュー、と音を立てながら、アセルスから蒸気が上がる。
その反応を見て、ロドンは笑った。
「くはははは! アセルスよ。ちょっと自省した方がいいんじゃないか」
「ロドン殿まで……」
「わ、私はあまり気にしてませんよ。むしろ大いに食べてほしい。アセルス殿は功労者の1人なのですから」
「グリュン殿!!」
ぶわっとアセルスは涙を流す。
そしてまたスカイドラゴンの刺身を摘み始めた。
ディッシュは竜騎士たちに振り返る。
「で? どうする? 食べるか?」
ここまで言われては、竜騎士たちも立つ瀬はない。
据え膳何とやらである。
各々箸を掴むと、スカイドラゴンの刺身を口に入れた。
「うお!」
「うっま!」
「こんなの食べたことねぇぞ!」
「絶品だ!!」
称賛の嵐と驚きが吹き荒れる。
先ほどまで魔獣だの、ドラゴンだのと忌避していた竜騎士とは思えない。
ようやくほっと息を吐き、スカイドラゴンの刺身を食べていた。
その表情を満足そうに、ディッシュは見つめる。
見返せたからではない。
むしろ自分の料理をおいしいと思ってくれることに、ディッシュは素直に嬉しかった。
そんなディッシュをペロペロと舐める神獣がいる。
もちろんウォンだ。
差し出された刺身はすでに食べてしまったらしい。
殻になった大葉の前にちょこんと座る。
目を輝かせていた。
こういう時のウォンの反応は、おかわりではない。
次の料理に期待を寄せている時だ。
さすがはディッシュの相棒である。
どうやらさらなる料理があることを、本能でわかっているらしい。
「わかったよ、ウォン。ちょっと待ってろよ」
ディッシュは火焚きの準備をし、鍋を洗う。
いよいよ次のスカイドラゴンの料理に取りかかるのであった。
そしてお待たせしました!!
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