menu134 ゼロスキルvs魔族
一応、言っておきますが、バトル小説ではありません。
こちらは料理小説になります。
今日もどうぞ召し上がれ。
まさに光だった。
魔族の前で見得を切ったアセルスは異国の土の上を走る。
見ている者すべてが息を飲んだ。
気が付けば、魔族の上を取っている。
その剣の切っ先を、雷光の如く振り下ろした。
「「「とった!!」」」
勝負は一瞬のうちに付いた――かに見えた。
アセルスの剣は魔族の手前で止まる。
何か見えない障壁に当たったかのようだ。
「魔法を使うのかよ!?」
ロドンは頭を抱える。
魔法はスキルと双璧を成す奇跡だ。
人間の中にも、それ相応のスキルを持っているものが使う事ができる。
アリエステルのスキル【全属性習得】や、フレーナの【炎帝】も魔法スキルと言われるものだ。
だが、魔族が発生させている魔法は、スキルなどではない。
ある意味それは本物の魔法――。
魔法とは、魔族が生み出した技術体系なのだ。
アセルスは怯まない。
魔法障壁を張られても、構わず打ち込んでいく。
その無駄な努力を嘲笑うように、魔族の口が裂けていった。
「無駄だ、人間!!」
魔族はふんと力を入れる。
その瞬間、アセルスは塵のように吹き飛ばされた。
中空で姿勢が崩れる。
だが、SSランクの冒険者の反応は凄まじい、
腰を捻り、体勢を整えると、両足で着地した。
「ぼうっとするな! 我らも続くぞ!!」
声を張り上げたのは、グリュンだ。
ホーデンの腹を蹴る。
飛び上がると、他の竜騎士も後に続いた。
空で隊列を組み、地上にいる魔族に急降下する。
槍を掲げ、降下する速度を加味し、投擲した。
複数の槍はまるで砲弾のように魔族に迫る。
が、すべて障壁に跳ね返されてしまった。
「なに!?」
「我らの槍が――」
「効かないのか!?」
グリュンたち――竜騎士達の顔が驚愕に歪む。
すると、魔族は手を振りかざす。
強い魔力の光が、周囲を覆った。
「やらせるか!!」
魔族に向かって、大木を投げつけたのはロドンだ。
【必中】のスキルは質量があるものでも、狙ったものに当たるまで飛び続ける。
大木は真っ直ぐ魔族に向かっていった。
魔法を展開中だったため、その障壁の力が緩む。
ロドンはそこを狙ったのだ。
轟音を立て、大木が魔族にぶつかる。
幹がボロボロに破砕したが、その中から現れた魔族はピンピンしていた。
ニヤリと余裕の表情を浮かべる。
「何ッ!?」
ロドンは思わず仰け反った。
魔力を帯びた手が、そのロドンに向けられる。
「死ね!」
「いや、死ぬのはお前だ」
破砕した幹の破片の隙間から現れたのは、アセルスだ。
一瞬にして魔族との距離を潰す。
障壁が張れないギリギリに迫った。
「何だと!!」
ロドンが木を投げた瞬間、それに紛れてアセルスが走っていたのだ。
「覚悟しろ、魔族!」
再び剣が閃く。
ついに魔族の皮膚に傷を入れた。
だが浅い。
間合いは悪くなかった。
単純にアセルスに魔族の肌を切る膂力が足りなかった。
いや、魔族が硬かったのだ。
「どうした、人間? 我を斬るのではないのか?」
魔族は笑った。
一方で魔族の皮膚の硬質さに、アセルスは驚く。
だが、それでもめげない。
【光速】のアセルスの真骨頂は、単純にしてシンプル。
手数の多さだ。
退くことは考えない。
その間合いを維持したままアセルスは切り続ける。
硬質な音が戦場に響いた。
どんどん魔族の皮膚が切り刻まれている。
魔族からすれば、精々擦り傷程度だが、ダメージはダメージだ。
最初余裕で受けていた魔族の表情が変わる。
「しゃらくさい!!」
そのまま無理矢理魔法を起動した。
その強さに見ていたグリュンはおののく。
固まりそうになった喉を動かし、全員に叫んだ。
「散開! あるいは伏せろ!!」
グリュンはホーデンから降りる。
戦場から離れていたデラン王をかばうように飛びついた。
瞬間、光が弾ける。
側にいたアセルスは転進した。
光が迫る中で、手を伸ばす。
直後、爆音がルルイエ湖に突き刺さった。
轟音は空気を振るわせ、水面を波立たせる。
砂塵が舞い散る中、最初に気付いたのは、戦闘を傍観していたディッシュだ。
「痛ッッッ!」
後頭部を強かにぶつけたらしい。
どうも思考がはっきりしない。
耳鳴りもひどく、キィンという音が続いていた。
その中でディッシュは気付く。
自分に覆い被さっていた人間の姿に。
「アセルス!!」
威力の割には五体無事なことを不思議に思っていたが、どうやらアセルスがかばってくれたようだ。
そのアセルスは気絶していた。
爆風の衝撃をもろに受けたからだろう。
頭から血を流していた。
意識はあるようだが、重傷であることは間違いない。
「ほう。あの瞬間に咄嗟にかばったのか。我の肌に傷を付けるだけあるな、小娘」
砂塵を払い、魔族が現れる。
すでにディッシュの近くに立って、その赤黒い瞳を輝かせていた。
ディッシュは周囲を確認する。
ロドン、グリュン、デラン王――そして竜たちが倒れていた。
意識の有無はここからでは確認できない。
それでも戦闘に耐えうるとはとても思えなかった。
「アセルス、ありがとな。後でいっぱいおいしい飯を食わせてやるよ」
ディッシュはアセルスを慎重に寝かせる。
そしてアセルスを守るように覚悟を決めて立ち上がった。
「ほう……。小僧、まだ我と戦うのか?」
魔族は問う。
殺気と悪意を混ぜ、ディッシュに放つ。
だが、ディッシュは怯まない。
それどころか、笑った。
その堂々とした姿は、先ほどの聖騎士の姿と重なる。
「にししし……。戦う? これは戦争でもなんでもないんだぞ、魔族のおっさん」
「は? 何を言っている?」
「俺は主君を持つ騎士でもねぇし、俺みたいなゼロスキルが、誰かのために戦うなんておこがましいって思うんだ。俺は俺のために戦ってきた。いつだってそうだ。生き残るために戦ってきた。だが、それは戦いじゃない。だから、俺はこういうぞ」
今から俺がお前を狩るんだ。
「ゼロスキル? スキルがないのか、お前。スキルのないお前が! 神から見放されたお前が!! 魔族を狩るだと? 本気で言っているのか? その腰に差した包丁で1本でどうするというのだ?」
「何も武器は包丁1本ではないぜ! たとえば、これとかだな」
ディッシュは何かを魔族に投げつけた。
その不意打ちと言える攻撃に、何かが魔族の頭にヒットする。
さしてダメージはない。
だが、魔族は別の意味でダメージを負うことになる。
「ふん。なんだ、それ――――――」
くっっっさあああああああああああああああああああ!!
魔族は悶絶した。
どれぐらい悶絶したかというと、地面に崩れ落ち、まるで猫が草原でゴロゴロするみたいに転がった。
必死に匂いの元を消し去ろうとするがもう遅い。
匂いが皮膚に染みつき、その度に魔族を刺激した。
「にししし……。ディッシュ特性の匂い爆弾だ」
鼻を摘まんだディッシュは実に楽しそうだ。
その壮絶な匂いは少し離れたディッシュでも感じることができる。
匂いの元にいる魔族では一溜まりもないだろう。
その悪臭はまさに筆舌に尽くしがたい。
腐乱した死骸の出す甘い悪臭。
煮詰めすぎていがいがした果汁。
そこに苦さ100倍のいたんだピーマンを入れても、お釣りが来る。
この世のものとは思えない。
魔法が奇跡なら、この匂いもまた奇跡だろう。
「な、なんだ、この匂い」
思わぬ攻撃に魔族は這いつくばったまま動けなくなっていた。
「にししし……。そいつはダイダラボッチの腐った肉さ」
「だ、ダイダラボッチだと!!」
それはかつてディッシュたちが出会ったSSランクの災害指定魔獣だった。
だが、その肉は独特の風味と旨みを持ち、アセルスたちを唸らせる。
その時に残していた肉を、ディッシュは持ち歩いていたのだ。
「貴様! そんなものをずっと持ち歩いていたのか?」
「ああ。こいつは臭さはともかく、腐ってても食べたいって思うヤツがいるのさ」
「そんな者……。いるはずがない」
「いや、いるぜ……。ほら――」
ディッシュは上を指差した。
大きな影が大空を横切る。
それは小城を1つ抱えることができそうな大竜であった。
それに気付いたのは、魔族だけではない。
グリュンもまた目を覚まし、その大きな竜におののいていた。
やがて譫言のように呟く。
「大竜王ヘルカイト……」
それは滅多に姿を現さない竜の王だった。
その生態、出没時期、何を食しているのかすらわからない。
だが、時折ルルイエ王家領を飛行し、何も奪わず、何も壊すことなく、ただ通過していく。
それ故に、ルルイエ王家の守り神と言われてきた。
ヘルカイトは大きく翼を広げる。
大きく口を開くと、口内が紅蓮に染まった。
「やっば!!」
ディッシュは側にいたアセルスを担ぎ上げる。
ちょうど目を覚ましたロドンの手を引き、その場から逃げた。
グリュンもまた声を張り上げて、竜騎士たちを叩き起こす。
デラン王とともに退避した。
一方、魔族はひたすら立ち尽くしていた。
ただ恐怖のあまり惚けていたわけではない。
動けないのだ。
ヘルカイトには第三の瞳がある。
それは魔眼の一種で、睨まれたものはたちどころに動きを止め、竦んでしまう。
どうやらその効果は、魔族も例外ではないようだ。
「や、やめろ……」
魔族は震えた。
それはおそらく魔族が感じた初めての恐怖であったのだろう。
「や、やめてくれえええええええええ!!」
ヘルカイトは炎息を解き放つ。
そのまま魔族は炎の濁流に呑み込まれていった。
最新作『「ククク……。ヤツは四天王の中でも最弱」という風評被害のせいで追放された死属性四天王は静かに過ごしたい』が、第一部完結しました。
文庫本1冊程度の文量なので、まだ読んでないと言う方は是非この機会に読んでみてください。
日曜日には『叛逆のヴァロウ』のコミカライズ第二話が更新予定です。
ニコニコ静画、pixivコミック、マンガドア他で更新しておりますので、
そちらもよろしくお願いします。







