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ゼロスキルの料理番  作者: 延野正行
第5章
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menu123 竜騎士の来訪と秘密の煎り豆

久しぶりに真剣な話が続きますが、

どうぞ引き続きお召し上がり下さい。

 1番最初に気付いたのは、キャリルだった。

 ヴェーリン家の屋敷の窓を掃除していると、さっと何かが空を横切ったような気がしたのだ。


「灰色燕かしら?」


 春先に現れる鳥類の名前を口にし、空を見上げる。

 だが羽を伸ばした鳥の姿なく、すぐに「気のせいだ」と片づけてしまった。


 振り返ると、主――アセルスが居間でソファに座ったままうたた寝をしている。

 今朝方に魔獣討伐から帰ってきたばかりだ。

 一旦寝て起きたのだが、まだお疲れだったらしい。

 山に行くこともなく、珍しく屋敷でゆっくりしていた。


 こっくりと首を動かす姿を見て、キャリルは破顔する。

 何か肩にかけるものを探して、居間を出た直後、カーテンが大きくなびいた。

 凄まじい風がカーテンのはためく音ともに流れ込んでくる。

 たちまち居間の中はしっちゃかめっちゃかになった。


「な、何事ですの??」


 キャリルは目を回す。

 続いて聞こえてきたのは、ディッシュの声だった。


「おーい。アセルスぅ。いるかー?」


「むっ! ディッシュの声?」


 先ほどの風と音を聞いても、全く反応しなかったアセルスが目を覚ます。

 窓から顔を出すと、そこにいたのは立派な飛竜だった。


「りゅ、竜ですの?」


 キャリルも主と共に顔を出す。

 体高はアセルスの2倍。キャリルなら2・5倍あるだろうか。

 翼を含んだ体幅は、スマートなヴェーリン家の屋敷の幅と同等の長さがあった。


 その横で無邪気に手を広げていたのは、ディッシュだった。

 ウォンの姿はないが、その代わり1人騎士が立っている。

 アセルスの顔を見つけると、直立し頭を下げた。


「でぃ、ディッシュ! と、突然どうしたのだ? それにそっちの御仁は?」


「まあ、ちょっと色々あってよ。話があるんだ。中に入れてもらってもいいか?」


「ディッシュさん! アセルス様はこれでも貴族なんですよ。会いに来るなら、事前に手紙ぐらい送って、アポを取ってもらわないと」


 キャリルは目くじらを立てる。

 むぅと団栗を含んだ栗鼠みたいに、頬を膨らませた。


「わりぃわりぃ。緊急な用件だったんだよ。……手紙ってわけじゃねぇけど、土産は持ってきたから許してくれ」


 ディッシュが掲げたのは、瓢箪のような殻が詰まった袋だった。


「ディッシュの土産!?」


 アセルスの目が輝く。

 溢れてきた涎を慌てて飲み込んだ。

 お腹も元気良く挨拶だ。

 疲労のためか食欲がなかったのだが、ディッシュの土産を見て、たちまち宗旨替えしてしまったらしい。


「よし。ど、どうぞ入ってくれ。そちらの御仁も」


「かたじけない」


「私も今からそちらに降りる」


「アセルス様、恰好をまず改めて下さい」


「ディッシュだから、別にいいのではないか?」


「ディッシュさん、だからでしょ。その髪と恰好で、前に出るのですか?」


 キャリルはジト目で睨んだ。

 その瞳には、ぼさぼさの髪に薄い寝間着を着た主人の姿が映っていた。


「うっ! 確かに! ディッシュ、ちょっと待っててくれ」


「俺はかまわねぇよ」


 アセルスは大慌てで支度するのだった。



 ◆◇◆◇◆



 髪を整えたアセルスが選んだ服は、鎧だった。

 ドレスにしようか、もう少し部屋着っぽくラフなものでもいいのではないか。

 キャリルとの押し問答の末に、結局ディッシュがよく見る鎧姿を選択した。


 四六時中着ている仕事着である。

 屋敷の中で動き回るには違和感があるが、ディッシュの前だと、この恰好が一番落ち着いた。


 それにディッシュの連れが鎧姿だ。

 武装もしている。

 少し用心する必要もあった。


「う~~~~~~~~ん。うまい!!」


 アセルスの嬉しい悲鳴が響く。

 皿の上には炒られた豆が山盛り置かれていた。

 周りの殻は取られ、紅色の薄皮だけが残っている。


 アセルスは薄皮を取らずに、次々と口の中に入れていった。


 ガツンと硬い感触。

 噛み応えの良いボリボリという音が口の中で響く。

 この程良い塩気と、かすかな甘みが食欲をそそる。

 それに何よりも――。


「麦酒がほしくなりますな」


 絶賛したのは、ディッシュの連れ――竜騎士グリュンだ。

 アセルスと同じくボリボリと音を立てて、咀嚼している。


「グリュン殿、わかる! それだな!」


 すでに挨拶は済ませたアセルスは、同好の士を見つけたとばかりに頷く。

 ディッシュのお土産を囲むことによって、あっさり2人は打ち解けていた。


「ところで、ディッシュ殿。この豆はなんですか? こんなに香ばしい炒り豆、初めて食べました」


「ああ、これはス――――」


 ディッシュが説明しようとして、アセルスは慌てて口を塞ぐ。


「もごぉ! もがががが(アセルス! 何をするんだよ)」


「ディッシュ、それは黙っておこう。さすがに、それを人に漏らすのは危険だ」


「もー、ふぉぐふぉぐぐぐぐ(まあ、アセルスがそういうなら)」


「どうしたのですか?」


 さっぱりわからないグリュンは首を傾げる。

 何か得体の知れないものを食べているとわかっても、口に入れるのをやめない。

 この炒り豆には、そんな魔力と魅力を秘めていた。


「いや、こちらの話だ。私が言うのもなんだが、どうぞ遠慮なく食べてくれ」


「アセルスさんのお土産なのに申し訳ない」


 グリュンはそうわかっていても、ついつい手を伸ばしてしまう。


「しかし、まさか噂に名高い【光速】の聖騎士アセルス殿が、ディッシュ殿の知り合いとは……」


「私も驚きました。ルデニア連邦の竜騎士期待のホープ、グリュン・クランレート殿と、ディッシュが知り合いなんて」


「いや、私はたまたま拾ってもらっただけで」


「ご心配なく、私も似たようなものですよ」


 はははは、と少々遠慮がちな笑声が重なる。


 その声を聞いて、側に控えたキャリルは驚いていた。

 アセルスはどちかと言えば、知らない他人に対して警戒感が強い人間である。

 なのに、グリュンとはすぐに打ち解けてしまったのだ。


「(同じ武人同士というのもあるのでしょうが……。でも、やっぱりあの豆のおかげなんでしょうね)」


 キャリルはテーブルに山と盛られた豆を見つめる。


 話は弾み、ようやく本題に入った。


「それで、どうしてルデニア連邦の竜騎士が、カルバニア王国の辺境に?」


 ルデニア連邦はカルバニア王国の南側に位置する国である。

 大小様々な国と諸侯の領地が混在する国で、グリュンはその国の中では比較的大きな領地を持つ、ルルメル王家に仕える竜騎士だと説明した。

 ルルメル王家は、特に竜の育成に力を入れる一族で、ルデニア連邦の中で最大の竜騎士団を抱えている。


 その中でも、グリュンは若手のホープで、アセルスが知るとおり他国にまで名を轟かせる竜の名騎手であった。


 アセルスの質問に、それまで朗らかに会話を楽しんでいたグリュンの顔が、急に神妙なものになる。

 麦酒ではなく、紅茶を1つ口にした後、グリュンはついに口を開いた。


「アセルス殿は、竜騎士が何故存在するか知っていますか?」


「それは――――」



 竜を狩るためですよね。



 アセルスの発言に、ディッシュはピンと眉を上げた。

 実は竜騎士という者に会ったのは、グリュンが初めてだった。

 その存在意義すら知らなかったディッシュは、理由を初めて聞いて興味を持ち、耳を傾ける。


 一方、アセルスの言葉にグリュンは慎重に頷いた。


「この近くでは山が魔獣によって汚染されているように、ルデニア連邦は絶えず空が汚染されており、そのため空を根城とする竜の被害に苦しんでいます」


「へぇ……。それは知らなかった。なんで、空が汚染されているんだ」


「ルデニア連邦が、ゴロモゾス島に近い場所にあるからだ。その大気が南から吹き込んだ風によって流され、ルデニア連邦とその周辺の空を度々汚染するのだと聞いている」


「ゴロモゾス島って確か――――」


「ルーンルッドの創世記で出てくるだろう。有名な島だからな」



 別名『魔族の島』だ。



 アセルスは少し忌々しげにその名前を呼ぶ。

 組んだ手は微かに震えているような気がした。


 ルーンルッドには多くの種族が住んでいるが、その中で魔族はとても危険な種族だ。度々、冒険者たちの前に現れることはあるが、そのほとんどが低級の魔族である。


 本当に危険な魔族は、ゴロモゾス島に住んでおり、周囲を何重にも巡らされた結界に覆われ隔離されていた。


 今も怪しげな儀式や実験をしているらしく、その度に空気が汚染され、その穢れた空気がルーンルッドの南側に位置する国の上空を汚染する。

 穢れた魔力は、魔獣のもっとも好物とするところだ。

 世界中から空の魔獣が集まったものの、その間に淘汰が起こり、結果的に竜が支配することになったという。


「人々は空の魔獣に対抗するために、様々な兵器や魔法を開発しました。その最先鋒が、竜騎士です」


 彼らは飛竜と呼ばれる種を何代にも渡って研究し、人工交配させることによって、人間に従順な飛竜を生み出すことに成功した。

 竜騎士の誕生は空の戦闘を可能にし、人間はやっと竜と対等に戦う戦力を手に入れたのである。


「それで、空の戦士たるあなたが、どうしてここに?」


「前振りが長くなってすみません。実は、助力をお願いしたいのです」


「助力? ですが、私は空の魔物には――――」


「はい。承知しております。それでも、今は藁にもすがる思いなのです」


「一体、何が……」


「数週間前に遡ります。ヤツが、空に現れたのは……」


「ヤツ? それも、竜なのですか?」


「はい。そうです。名はスカイドラゴン……」



 現時点において、世界で一番速いドラゴンです。


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― 新着の感想 ―
[一言] 今回も美味しくいただきました。 アセルスとグリュンが意気投合したのは、炒り豆のおかげですね。ディッシュはどうも腹空かし者を拾う運命になるのかな?ポリポリカリカリでにゃんこ争いですかね。いや~…
[気になる点] 魔骨の素もそこ出身なんだろうか? [一言] スカイ「銅鑼」ゴーン(わっかるかなあ、わっかんねえだろうなあ
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