Special menu 5 ダンジョンのアレ焼肉(5)
コミックス『ゼロスキルの料理番』が重版かかりました。
改めて皆様に感謝申し上げます。
重版分については、2月末前後になるかと思います。
決まり次第、活動報告・Twitterにてご連絡させていただきますので、
よろしくお願いします。
いよいよ他の人間にもミミックタンが振る舞われる。
好評だ。
集まった人々はミミックタンをこれでもかと咀嚼する。
最初は魔獣ミミックを食べるという行為に警戒心を露わにする者が多かったが、口に入れた途端たちまちその味に魅了される。
「この食感が堪んねぇ」
「肉が口の中で溶けていくぞ」
「な、なんじゃこりゃ! 消える! オレの肉はどこへいった!!」
一部戸惑う声もあったが、冒険者やたまたま通りがかった者たちの表情は、どれも満足そうだ。
皿を持った客の前には、様々な調味料が置かれていた。
勿論付けなくても、ミミックタンは最高だ。
だが、味に慣れてくれば、ちょっと食材に悪戯をしたくなるものである。
ディッシュが用意した様々な調味料を手に取り、再びミミックタンを口の中に入れた。
その中でも、やはり一際人気なのは『葱塩』だ。
刻んだ葱に、塩胡椒、胡麻油、最後に檸檬汁を垂らす。
薄く切ったタン先に近い部分にのせて、中に包むようにして口に入れた。
「ぬほほほほほほほほほほおおおおおおおお!!」
絶叫である。
コリコリとしたタンの食音。
葱のシャキッとした鋭い音。
まず食べて始まったのは、この二重奏である。
咀嚼すると溢れ出てきたのはミミックタンの肉汁だ。
それが檸檬汁の酸味と混じり合うと、言葉に言い尽くせないハーモニーが広がる。
後味に残る胡麻油の香りが上品で、お腹に確かな満足を与えてくれた。
そして、そこに麦酒を流し込む。
肉の味をすべて洗い流してしまう所行だが、それもまた贅沢の形だ。
スキルによってよく冷やされた麦酒はキンキンで、喉越しもキレキレである。
やや肉汁と脂に溢れた口内をスッキリさせてくれた。
やがてキュッと上ってくる酒精の感覚。
さらに辛いものを求めて、ミミックタンに向かって箸が動く。
贅沢の永久機関である。
酒が入ると、欲しくなるのは辛みだ。
葱塩は申し分ないが、あと一声がほしい。
こんな時に、ディッシュが勧めたのはミソ料理だった。
「ディッシュ、これは?」
酒精が入り、ちょっと赤くなったアセルスが調味料の1つに手をかかる。
「さすがアセルスだな。そいつを見つけたのか」
「見たところ、ミソのようだが……。この和えてるものはなんだ」
「青唐辛子だよ」
「青唐辛子!? う、うまいのか?」
「うまいぞぉ。百聞は一口にしかずだ。食べてみろよ」
アセルスはディッシュに勧められ、決心する。
やや厚めのタン中を、中心に赤身を少し残して焼くと、青唐辛子ミソ(?)を巻いた。
ふわりと漂ってきたのは、またもや胡麻のいい香りである。
おそらく胡麻油をミソの中に垂らしたのだろう。
ごくり、とアセルスは唾を飲み込む。
あれだけ食べたのに、お腹が小さく嘶いた。
今度は自らの舌に肉を載せる。
ミミックタンの肉汁を丁寧に舐め取るように、ゆっくりと咀嚼した。
そして、その瞬間はやってくる。
「からっっっっ!!」
辛い!
いや、それでもうまい。
ミミックタンの肉汁の後に、この頭頂を突き破りそうな辛みが溜まらない。
もちろんミソの甘みも健在。
辛みと甘み、さらに肉汁の旨みが混じり合う。
見事な三重奏を奏でては、アセルスの身体を射貫く。
辛みに囚われた身体は、もっと寄越せと合唱を始めた。
強烈な辛みは両刃の剣だ。
食欲が増進され、ついつい青唐辛子ミソに手を伸ばしてしまう。
さらに悪魔的なのは、お酒と合うことだ。
麦酒よし。
蒸留酒よし。
醸造酒にも合う!
アセルスが選択したのは麦酒だ。
辛みに侵略された口の中に、冷えた麦酒を流し込む。
シュワッとした鋭いキレが、辛みと戦いを始める。
キンッ! キンッ! という剣戟の音が口の中から聞こえてきそうだ。
両者が生み出す決死の刺激に、また食べたくなるし、飲みたくなる。
まさに悪魔的な永久機関だった。
「よーし……。ミミックのタンはこんなもんかな」
ディッシュは包丁を拭き上げる。
その言い方に、アセルスは少し引っかかった。
包丁を持ったまま再びミミックが入っていた宝箱に近づくディッシュの後についていく。
そこには、ウォンが待ち構えていた。
「ウォンが何故、ここに?」
アセルスは訝しむ。
本来であれば、アセルスと同じくミミックタンに舌鼓を打っているはずである。
「ウォン、お前の勘もすげぇえなあ。俺がそろそろ調理すると思って待ってたのか?」
ディッシュはすでにモフモフになったウォンに飛びつく。
モフモフになった銀の体毛を撫でてやると、気持ち良さそうに唸り上げた。
そして、催促するようにディッシュの顔を舐める。
「わかったよ、ちょっと待ってろ」
「え? ちょっと待て、ディッシュ」
包丁を構えるディッシュを見て、アセルスは慌てて止めた。
「まだ何かあるのか? ミミックはタンだけではないのか?」
「うん? タンだけなんて、俺は一言も言ってないぞ」
「え? じゃあ……」
「にししし……。ここからが本番といってもいいだろうな」
そして、ディッシュはミミックの箱の蓋を再び開くのだった。
情勢として書店に行きにくい状況ではありますが、
重版分が店頭に並びましたら、よろしくお願いします。
ネット販売も復活すると思いますので、
そちらも是非ご利用下さい。
※ コミカライズ版のネット配信ですが、
めちゃコミの方でも読めるようになりました。
こちらの方もよろしくお願いします。







