menu114 おいしい昇格クエスト
本年もよろしくお願いします。
新たな年の始まりと同じく、5章の始まりです。
どんどん新たな
本日もどうぞ召し上がれ。
いつも通り、ギルドの一室でアセルス、フレーナ、エリーザベトは、次のクエストを受けるべく、フォンと打ち合わせをしていた。
アセルス達Sランク冒険者が受けるクエストは、どれも危険なものだ。
情報がはっきりしていないこともあるので、入念な打ち合わせが必要なのである。
その打ち合わせも終わり、今からフレーナとエリーザベトとともに、ネココ亭に行って焼き魚定食でも食べようかと話していた矢先、アセルスはフォンに呼び止められた。
2人だけで話があるらしい。
そんなに時間は取らないというので、フレーナとエリーザベトを先に行かせアセルスは再びソファに腰掛け、フォンと向かい合った。
「すみません、アセルスさん」
「かまわんよ、フォン。お前にはいつも良くしてもらってるからな。ところで、用件はなんだ?」
「実はこれなのですが……」
フォンは書類を見せる。
文字が書かれ、その一番上には『昇格クエスト』と書かれていた。
昇格クエストというのは、上位の冒険者が考えたクエストを、ランク下位の冒険者がクリアするというものである。
たいていの場合抜き打ちで行われ、クリアできるまでクエストが『昇格クエスト』であるということは伝えられれない。
「昇格クエストか。懐かしいなあ」
アセルスも目を細める。
最強のスキル【光速】を持つアセルスとて、最初からSSランクだったわけではない。多少の優遇はあったが、コツコツと昇格クエストをこなし、今や国すら認めるSSランクとなったのだ。
「私にこれを渡したということは、そのクエストを私に考えてほしいということだな」
「その通りです。忙しいとは思ったのですが……」
『昇格クエスト』はクエストを考えた冒険者が監督役となって、進んでいく。
査定をするのも、その冒険者だ。
下位冒険者に見つからないようについて行き、その力量を見定めなければならない。
当然、給金がギルドから支払われるが、拘束時間は長い。
上位の冒険者は総じて暇ではないので、いくら金をもらっても応じないという冒険者は少なくない。
フォンは話を続ける。
「その……。今回、昇格クエストを受ける冒険者の名前を見てもらえば、受けてもらえるんじゃないかと」
「名前?」
アセルスは再び書類に目を通す。
そこには見知った名前が載っていた。
「なんだ、ランクとヘレネイじゃないか。それに…………ディッシュ!!」
「はい。ディッシュさんも今回FランクからEランクになる昇格クエストを受ける対象になってるんです」
「思ったよりも速いな。私はもっとずっと後だと」
「月一ぐらいでいいとは言っていたのですが、思ったよりも精力的にクエストをこなしてくれていて。今回、昇格クエストを受けることになったんですよ」
「そう言えば、最近は『長老』にいないことも多いな」
「お受けいただけないでしょうか?」
「いいだろう。私で良ければ、応じよう」
「ありがとうございます。それで、昇格クエストの内容はどうしましょうか?」
「それは決めてある」
アセルスはニヤリと笑うのだった。
◆◇◆◇◆
「私たちに個別依頼!!」
素っ頓狂な声をギルドの中で響かせたのは、ヘレネイだった。
その後ろには相棒のランク、さらにディッシュとウォンが立っている。
ランクもまたヘレネイと同じく驚いていたが、いまだギルドのシステムを良く理解していないディッシュは首を傾げ、さらによくわかっていないウォンは「はっはっはっ」と舌を出して、ふらりと尻尾を振った。
3人と1匹がいるのは、ギルドの中央ホールだ。
周りには多くの冒険者がいて、依頼書を見たり、冒険者同士で情報交換を行っていた。
ギルドの中で1番騒がしい場所なのだが、今1番騒がしいのは、カウンターの受付嬢に向かって身を乗り出すヘレネイである。
「ホントですか? 間違いない?」
「はい。ヘレネイ・ヘンネベル、ランク・ディーツェ、そしてディッシュ・マックホーンに個別依頼が来ています」
面長の顔のエルフの受付嬢が、ヘレネイに依頼書を見せる。
その依頼書の最上段には、『個別依頼』と書かれていた。
「うそ! 信じられない! まだ私たち駆け出しの冒険者なのに!?」
ヘレネイは興奮を抑えられない。
個別依頼は、ある個人の依頼主が冒険者を指名して依頼するクエストである。
当然、その冒険者の名前を知っていなければならず、ヘレネイたちのような下位ランクの冒険者に個別依頼が来ることは稀なケースだった。
「それっていいことなのか?」
ディッシュが尋ねると、ヘレネイは自分の鼻を高く掲げた。
「そりゃそうよ! 私たちのパーティーが有名になったってことだからね。それになんと言っても、依頼料がいいの。……はあ、良かった! 小さいクエストでも、真面目にこなしてて。見てる人には見てるのね。ありがとう、依頼主の人。いえ、お客様」
まさに夢心地。
ヘレネイは依頼書を抱きしめると、まるでダンスでも踊るかのように、その場でクルクルと回った。
「依頼を受けますか?」
エルフの受付嬢は尋ねる。
「受けます! いいえ! 受けさせて下さい!!」
ははあ、と改めて依頼書を拝受する。
こうして、ヘレネイたちはギルドを出て行くのだった。
◆◇◆◇◆
「これで私たちも、一端の冒険者ね」
ヘレネイの上機嫌は続いていた。
ギルドを出てからも、時々ステップを踏みながら、人の行き交う大通りを進んでいる。
「良かったな、ヘレネイ」
「うぉん!」
ディッシュとウォンもヘレネイたちを祝福する。
「何を他人事みたいに言ってるのよ? 全部、ディッシュ君のおかげでしょ。あなたたちが私たちのパーティーに加わってくれたおかげで、運気が向いてきたと言っても過言じゃないんだから」
「そうなのか?」
「そうなのよ。ねっ! ランク」
ヘレネイは相棒のランクの腕に掴む。
そのランクはというと、依頼書を見て、難しい顔をしていた。
ポリポリと頭を掻く。
「どうしたの、ランク?」
「うーん。ヘレネイ、この依頼書のクエスト内容を見た?」
「あ。そういえばまだ見てなかったわ。あまりに嬉しすぎて。でも、私たちへの依頼でしょ? そんなに難しくはないはずよね」
「まあ、依頼自体はね。ディッシュくんもいるし」
「どれどれ見せて」
ヘレネイはランクが持つ依頼書をのぞき込む。
すると、先ほどまで打ち上がった花火みたいに顔を輝かせていた彼女の表情が、一気にしぼんでいく。
さぁっと血の気が引いていくのがわかった。
ディッシュも気になって、依頼書をウォンと共にのぞき込んだ。
『おいしい魔獣料理を作ってほしい』
「へぇ、変わった依頼だなあ。でも、楽勝じゃねぇか。山で食材を調達できれば、すぐにでも作ってやるぞ」
ディッシュは鼻息を荒くし、背中の背嚢を担ぎ直した
これまで色々なクエストをこなしてきたが、料理を作るという依頼はこれが初めてだったのだ。
一方、ヘレネイとランクは青い顔をしている。
「どうしたんだ、2人とも。簡単な依頼じゃねぇか」
「う、うん。依頼自体は問題ないのよ。ディッシュくんには存分に腕を振るってもらえばいいと思うわ」
「??」
ディッシュはますます首を傾げる。
ようやく理由を説明したのは、ランクだった。
「ディッシュくん。考えてほしいんだけど、君が魔獣料理を作れるって知ってる人は、たぶんそんなにいないと思うんだ」
「まあ、そうだな」
「間違いなく、これは身内からの依頼だよ。たぶん、君のごく親しい人が依頼してくれたんだと思う」
「――っで、個別依頼で堂々とこんなクエスト内容を書いてくる人って、あの人しかいないと思うのよ」
「もしかして、アセルスか?」
実は、ディッシュも薄々は気付いていた。
こんな大胆なことをやるのは、食いしん坊騎士のアセルスぐらいだろう。
ワンチャン――アリエステルという可能性もあるが、彼女ならこんな周りくどいことはせずに、王宮に呼び出すはずである。
「――で。ここからは私の推測に過ぎないのだけど、アセルスさんがわざわざこんな個別依頼を私たちに送ったのには訳があると思うの」
「これは多分、個別依頼じゃなくて昇格クエストだ」
ランクが力強く断言する。
「昇格クエスト?」
「抜き打ちテストだと思えばいいわ。私たちの冒険者の力量が、次のランクに適合しているかどうかを確認するためのね」
「おお! じゃあ、このクエストに合格すれば、Eランクになって、俺1人でも山の中に入ってもよくなるんだよな」
「まあ、そういうことになるわね」
「なのに、なんで2人は落ち込んでるんだ?」
「僕たちは1度、昇格クエストに落ちてるんだ。その後のクエストで、なんとか合格したけどね」
「私、どうも試験って昔から苦手なのよねぇ。ああ、どうしよう! 緊張してきた」
「落ち着いて、ヘレネイ。深呼吸、深呼吸」
「そういうランクだって、手が震えてるわよ」
そして、2人は深いため息を吐く。
だが、ディッシュは楽観的だった。
「大丈夫だって。さっきヘレネイが言ってたじゃねぇか。俺が来てから、運気が向いてきたって。今は俺もウォンもいるんだ。そう構えることはないさ」
「ディッシュくん……。そうね。その通りだな」
「頑張ろうよ、ヘレネイ」
「よし! おいしい料理を作るぞ」
「「え? そっち!?」」
ヘレネイとランクは苦笑いを浮かべる。
一方、ディッシュは「にしし」と笑う。
かつてないほど、クエストを楽しみにしていた。
さて、新年はじめ1月10日に、
書籍版『ゼロスキルの料理番』の2巻が発売されます。
どうかこちらもよろしくお願いします。
※同月15日発売の『叛逆のヴァロウ ~上級貴族に謀殺された軍師は魔王の副官に転生し、復讐を誓う~1』もよろしくお願いします。







