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menu11 答えは「ミソたんぽ」でした

というわけで、召し上がれ!(雑!)

 キャリルは思わず生唾を飲んだ。


 今でも十分おいしいのに、それをさらにおいしく食べようというのだ。

 いや、少し引っかからないわけではない。

 この食材は単体としても十分魅力があるが、何か今1つ物足りないものを感じていた。


 ディッシュがいっているのは、その最後のピースのことだろう。


「手伝ってくれるか、キャリル」


「え? ええ……。お手伝いさせていただきますわ」


 キャリルは勇ましく袖をまくった。

 お手伝いといっても、簡単な作業だ。

 この白い粒の食材を潰し、半練り状にする。

 あらかじめ切っておいた竹に刺すだけだった。


 そこにディッシュは、何か茶色のペースト状のものを塗っていく。

 嗅いだことのない臭いが、犬獣人のキャリルの鼻を刺激した。

 独特な香り。だが、悪くはない。

 少なくとも、お尻から出てくるあれ(ヽヽ)ではなさそうだ。


 そういえば、食材の名前を聞いたことがなかった。


「あの……。この白い粒はなんですの? 麦……にしては、真っ白ですけど」


「マダラゲ草の種実だよ」


「ま……マダラゲ草!!」


 キャリルは慌てて吐き出そうとした。

 だが、1度飲み込んでしまったものを吐き出すのは至難だ。

 口の中に指を突っ込んで嘔吐(えず)く。

 すでに食いしん坊のお腹によって、消化されてしまった後らしい。


 キャリルがこんな反応を見せるのも、無理はなかった。


 マダラゲ草は毒草だ。

 小動物ぐらいなら餌に混ぜて殺すことも出来る。

 人間でも多量に摂取すれば、死んでしまう毒草なのだ。


 知らなかったとはいえ、その実を食べてしまった。

 しかも、おいしそうに。

 何度もお代わりして。


 知らない人間から施しを受けてはなりません。


 田舎の子供でもわかる教訓を、空腹だったとはいえ怠ってしまった自分を呪った。


 それにしても、いきなり毒草を食わせるなんて――!


 キャリルはキッと睨んだ。

 蓬髪をがりがりと掻いたディッシュに詰め寄る。


「あなた、何を考えているの!? マダラゲ草を食べさせるなんて」


「心配するな。お前が食べたのは、マダラゲ草の種実だ。マダラゲ草に毒が含まれているのは、茎や根だろう?」


「何も知らない田舎娘と同じにしないでください。わたくしだって料理人です。毒草の種実には、総じて微量の毒が含まれていることは知っています」


「お前、料理人だったのか? 手つきが慣れてるなって思ったら――」


「はぐらかさないでください!」


「大丈夫だって。微量の毒が含まれている胚芽の部分は、精米して落としてある」


「それでも――」


「それにうちの聖水で洗ったからな。毒は完全に浄化できているはずだ」


「聖水で、種実を洗ったんですか……!」


 キャリルは絶句した。


 いや、聖水で種実を洗うことは間違っていない。

 むしろ理に適っている。

 肉や野菜に含まれる穢れ(アク)を取る際にも、聖水は使われる。


 だが聖水を使ってまで、毒が内包する食材を洗い、浄化するなんて方法は聞いた事も見たこともなかった。

 いや、それよりも問題なのは、そんな調理方法を、こんな山奥にいる青年が何故知っているか、ということだ。


「一体、誰に調理法を習ったのですか? マダラゲ草の種実を食す方法なんて」


「んにゃ。誰にも習ってないよ。俺が考えた方法さ」


「そ、そんな……。じゃ、じゃあ! 聖水はどこで手に入れたのですか?」


 聖水はピンキリだが、かなり高価な代物だ。

 一見したところ、ディッシュは一銭もお金を持ってなさそうに見える。

 そんな彼が、聖水を所持しているとは思えなかった。


「聖水なら、うちの家に甕一杯に入ってるぞ!!」


「甕一杯!」


 どれぐらいの大きさかは知らない。

 仮に小さいものでも、4人の冒険者をフル装備に出来るほどのお金になるはずだ。


「俺の家に時々、飯を食いにくる聖霊(ヤーム)がいてな」


「聖霊が飯を食べにくる!!?」


 聖霊とは、精霊の上位存在だ。

 神と人間の間に存在し、その交流の橋渡しをする役目を担っている。

 俗にいえば、天使に近い。


 それが、飯って……。


「そいつが駄賃の代わりに、甕の水を聖水で満たしてくれるんだ」


「し、信じられませんわ」


「それをいうなら、ウォンだって神獣だぞ」


「し、神獣……!!」


「うぉん!」


 ウォンは改めて挨拶をした。


 目が回りそうだ。

 神獣の飼い主が青年で、しかもその家に聖霊が食べにやってくる。

 三文芝居でも、こんな都合のいい話なんてない。


 何にせよ、毒の心配はしなくて良さそうだ。

 もし、種実に毒が残っていれば、今頃お腹をくだしている頃合いだろう。

 むしろ身体はすこぶる調子がいい。

 感動するほどおいしかったため、内臓が喜んでいるぐらいだった。


 【調合】のスキルを持つキャリルは知っている。

 毒は少量であれば、薬になることもある。

 要はその加減なのだ。


 不意に香ばしい匂いが鼻腔を刺激する。

 小さな火にかけていたマダラゲ草の種実の塊に、綺麗な焼き目がついていた。それに塗布した茶色の――ディッシュがミソと呼ぶ――ものにも、焦げ目がついている。

 その独特の匂いは、さらに増していた。


 あれほど食べたのに、またお腹が空く。

 毒草の実だとわかっていても、唾液が口内に溢れ返っていた。

 黄色い焼き目が、「さあ……」と手招いているかのようだ。


「どうする? 食べるか?」


「け、結構ですわ」


 キャリルは断った。

 毒がないとわかっていても、毒草を食べるのは気が引ける。


 だが……。


「う~~ん。うんめぇぇぇぇぇええ!」


「わおおおおおおおおおおんんんん!」


 横で美味しそうに食べる青年と神獣。


 キャリルは思わず生唾を飲む。目をつぶって、ぐっと堪えた。

 しかし、容赦なく香ばしい香りが彼女の鼻を刺激する。

 犬獣人はなまじ臭覚に優れているので尚更だ。


(ら、らめぇえ……。た、耐えきれないですわ)


 キャリルの顔が食べる前からとろとろになっていた。


「……あ、あの。やはり一口いただけないでしょうか」


 己の食欲に完敗した。


 ディッシュはにししと笑う。

 ゼロスキルの料理人が、犬獣人の娘の腹を征服した瞬間だった。



 ミソたんぽを召し上がれ!



「ミソたんぽ?」


「俺が名付けた。なんか(タンポ)みたいに見えるだろ」


 竹に刺さった黄色い塊を見せる。

 確かに言われてみれば、形状が枕に似ていた。


 ミソたんぽを1本手渡される。

 持ってられないぐらい熱々だ。


 キャリルは入念に「ふー。ふー」と息で冷ました。


 しばらく待とうと思ったが、先ほどあれほどおあずけ(ヽヽヽヽ)を自らに課したのだ。我慢できない。我慢できるわけがない。

 熱いとわかっても、ミソたんぽからたなびく香ばしい香りに、抗することが出来なかった。


 一口食べる。


「ううううまあああああああぁぁぁぁぁぁあいい!!」


 ですわー、と犬の遠吠えみたいに絶叫した。


 まずやってきたのは、カリカリになった種実の塊だ。

 水分が熱で吹き飛んでいる。だが、これが絶妙な食感を生んでいた。

 しかも、中はまだしっとりとし、もちもち感を残している。


 カリカリともちもち……。


 相反する食感が、口の中で手を繋いで踊っていた。


 焼き、香ばしくなった種実の味もいい。

 より味が凝縮されて、甘みがさらに強くなっていた。


「それに……。このミソが絶妙ですわ」


 単体の香ばしく、独特の甘みと塩気も申し分ない。

 だが、これはあくまで調味料。

 たんぽの部分と合わせて食べることによって、お互いの甘みを邪魔することなく、むしろ相乗効果を生んでいた。


 焦げ目がついたことによって、その独特の香りと甘みに苦みが加わり、余計味が強くなっているような気がする。


 マダラゲ草の種実が持つ不思議な甘味。

 塩気を含んだ深い味わいのミソ。

 翻ってみると、これほど合う組み合わせはない。

 お互いになかった部分を、すべて補填し合っていた。


 おいしい……。


 おいしい……。


「おいしぃぃぃぃぃぃいいいいいいい!!」


 生涯で一番と胸を張って言えるほど、おいしい料理だった。


 気が付けば、竹に付いた小さな粘りすら口にしていた。

 完食……。

 マダラゲ草の種実で作ったミソたんぽを、キャリルは心ゆくまで堪能した。


「一体、こんな料理! どうやって考えましたの。あなたのスキル? だったら、どんなスキルですの?」


「スキルなんて使ってないよ」


「え?」


「俺はゼロスキルだからな」


「ゼロスキル……」


 ぼう、とキャリルはディッシュを見つめる。

 その遠くへ向ける眼差しは、何か強い野望と意志の強さを感じさせた。


 残った竹をちょこんと自分と平行にして並べる。

 その手前で、三つ指を突き、頭を下げる。


「どうか……。わたくしを料理ので――」


 弟子に――と言いかけた瞬間、何か視界の隅で光るものを見た。


 木々や岩間を抜け、何かが光速でやってくる。

 すると、声が聞こえた。


「キャリルぅぅぅぅぅぅううううう!!」


「あ、アセルス様!?」


 アセルスが光速で突っ込んできた。

 そのまま自分のメイドを押し倒す。

 青い瞳からぽろぽろと涙がこぼれた。


「無事でよかった……」


「す、すいません、アセルス様。心配をおかけしました。この通り、五体無事です。こちらのディッシュという方に――」


「む! ディッシュとウォンじゃないか。そうか! お前たちがキャリルを助けてくれたんだな」


「え? アセルス様のお知り合いなんですか?」


 そこでキャリルははたと気付く。

 アセルスが山に通っていた理由。

 そして食事があまり喉が通らない理由。


 まさか――。


「おお! また何かおいしそうなものを食ってるではないか!」


「おいおい。それは俺の分だぞ、アセルス」


「いいじゃないか。1つぐらい」


 アセルスはまだ火にかけていたミソたんぽを掴む。

 熱々のまま頬張った。


「うううぅぅぅぅんんんんんん!!」


 アセルスの顔が火をつけたかのように赤くなる。

 主人がおいしいものを食べた時の顔だ。

 「おいしい。おいしい」と何度も連呼しながら頬張り、一瞬にして1本平らげてしまった。


 キャリルの中で、何かが燃え上がる。

 ピンと犬の尻尾を逆立てた。


「でぃ、ディッシュさん……」


「ん? どうした、キャリル。さっきなんか言いかけてたよな」


「宣戦布告ですわ! 今日からあなたはわたくしのライバルです!!」


 ビシッと指をさし、アセルスのメイドは憤然と宣言するのだった。


昔、大雪の日に秋田へ出張することになって、

雪をかき分け、取引先に向かい、市内のホテルに泊まって、

近くの居酒屋へ行きました。

そこで食べたきりたんぽが、まあおいしくて! 

忘れられない味の1つです。


また行きたいなあ(*´▽`*)

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