menu104 ゼロスキルの魔獣捕獲方法
魔獣捕獲回です。
今日もどうぞ召し上がれ!
アセルスたちは、早速ディッシュとともに山に分け入っていた。
村を再生するのに必要不可欠な魔獣を捕まえるためである。
しかし、アセルスには素朴な疑問があった。
「なあ、ディッシュ。やはり、村の畑を再生させるためとはいえ、魔獣を村に持ち込むのはまずいのではないか?」
ディッシュの料理を食べたせいか。
アセルスにとって、魔獣は以前よりも身近な動物になりつつあった。
しかし、その存在が危険であることに変わりはない。
まして、村の畑を作物が育てないようにしてしまったのは、その魔獣なのだ。
アセルスたちにとっては良くても、村人にとってはやはり抵抗があるのではないか、とアセルスは危惧していた。
だが、ディッシュは楽観的だ。
「魔獣っていっても、ピンキリだからな。中には何で魔獣に認定されているかわからないヤツだっている。そもそも犬や猫だって、考えようによっては危険な生物だろ?」
「確かにそれはそうだが……」
「魔獣も同じだ。問題は、それとどうやってうまく付き合っていくかだよ」
話を終えると、ディッシュは足を止めた。
地面に四つん這いになり、何かを探す。
あった、と言って、摘まみ上げたのは動物の糞だった。
以前、七色草を取りに行った時にも同じことがあったが、その時のカリュドーンの糞よりも、三回りぐらい小さな糞である。
「ディッシュ、それは?」
「お目当ての魔獣の糞さ。たぶん、通り道なんだろ」
ディッシュは罠を仕掛け始めた。
アセルス、フレーナ、エリーザベトと協力して、五重に巻いた蔓で縄を作る。
道の上に先が来るように、幹に引っかけ、最後に小さな輪っかを作った。
「ディッシュくぅん、それで何を捕まえるんですか?」
「ま、見ておけよ。ああ、そうだ。エリザ。お前は、聖水を持ってるか?」
「わたくしはぁ、あまり使わないので」
「そうか。じゃあ、俺のを使え。頭からかけるんだ」
「自分にかけるんですかぁ?」
「ああ。匂い消しだ。その魔獣は匂いに敏感だからな」
アセルスたちは言われた通り、聖水を頭から被った。
確かに聖水は穢れを払うことができるのだが、臭気なども消すことができる。
飲めば、お腹の調子がよくなる万能薬でもあるのだ。
茂みに隠れ、魔獣が通るまで待つ。
時間がかかるかと思われたが、早速その魔獣は現れた。
「あれは――――」
アセルスが声を出しそうになったのを、慌てて横のフレーナが押さえ付ける。
しー、と人差し指を立てて警告した。
そっと茂みから顔を出し、様子を窺う。
枯れ葉を踏みしめ、クルクルと首を動かし、その魔獣は現れた。
「バジリスクだ」
顔は蛇。
頭には鶏冠。
鷲の銀翼を持ち、体躯は鶏という異形の魔獣である。
その大きさは鶏から、人の体高と同じぐらいなものまで様々だ。
この時、アセルスたちの前にいたのは、鶏サイズぐらいの小さな個体だった。
「ディッシュ、いくらなんでも危険なのではないか?」
「そうですよぉ。バジリスクには、魔眼があります」
「あたいたちは慣れてるからいいけど、魔眼を持つ魔獣は素人には危険だぞ」
アセルスたちは揃って忠告する。
だが、ディッシュはやはり心配していなかった。
首を振って、「まあ、見てろって」と口角を上げる。
そうこうしてるうちに、バジリスクはディッシュの罠に近づいてきた。
「見え見えの罠なんだけど……」
「何の警戒もしませんねぇ」
「バジリスクは目が悪いからな。黄色いものしか見えないんだよ」
首を傾げるアセルスたちに、ディッシュは解説する。
すると、バジリスクの首がちょうど輪っかをくぐった。
瞬間、ディッシュは蔓を引く。
そのままバジリスクは宙を舞った。
首を絞められても、暴れ回る。
「まだ茂みから出るなよ。魔眼で見られたら厄介だからな」
ディッシュは注意するのを忘れない。
やがてバジリスクは大人しくなった。
ディッシュは顔を背けながら、バジリスクの方へ近づいていく。
例え意識を失っても、魔眼の力は健在だ。
魅入られると、たちまち身体が動かなくなってしまう。
ディッシュは手探りでバジリスクの頭を押さえる。
聖水が入った瓶の蓋を抜くと、ぶっかけた。
じゅっと鋭い音を立てたのは、バジリスクの目玉である。
聖水の効果のおかげで、完全に魔眼が潰れた。
「ふぅ……。これでいいか」
「すごい! バジリスクの魔眼を聖水の力だけで封じるとは」
アセルスは思わず声を上げた。
Sランクのアセルスにとって、バジリスクは取るに足らない相手だ。
魔眼は厄介だが、光速で動けるアセルスならあっさりその背後を取ることができる。
だから、これまでバジリスクを討伐する方法なんて深く考えたことがなく、まして魔眼を聖水で潰すなんて方法など思い尽きもしなかった。
「ゼロスキルのディッシュくんだからこそぉ、考え付いたやり方ですねぇ」
エリーザベトも感心する。
「でもよぉ、ディッシュ。バジリスク、死んじまったぜ。どうするんだ?」
フレーナは尋ねた。
しかし、ディッシュに慌てた様子はない。
「問題ねぇよ。こうやってお腹を押さえてだな」
ディッシュはバジリスクの仰向けで寝かせる。
お腹に手を当て、ゆっくりと押した。
すると――。
『こけぇぇえぇええぇええぇええ!!』
バジリスクは飛び上がる。
あっさりと息を吹き返した。
ディッシュの手から逃げようとする。
だが、ディッシュは全身を使って押さえ付けると、その足を縛った。
逆さに吊って、棒にくくりつける。
魔眼を失い。足を封じられた魔獣など、何の脅威でもない。
肉屋でぶら下がっている鶏と同じだ。
「「「おお……」」」
鮮やかな手際に、アセルスたちは手を叩く。
ウォンも「うぉん」と吠えると、主を讃えた。
「どうだ。これだと普通の鶏と変わらないだろ?」
「うむ。確かに……」
「でもぉ、お目々がなくなった状態で、どうやってバジリスクさんはぁ、魔獣の肉片とか骨を探すんですかぁ?」
「こいつらは目が悪い。その代わり、嗅覚が発達してる。だから肉片の匂いでわかるから問題はねぇよ」
「なるほど。……やっぱすげぇな、ディッシュ!!」
フレーナは思いっきりディッシュの背中を叩いた。
手荒い賛美に、ディッシュは苦笑いを浮かべる。
気を取り直して、ディッシュは向き直った。
「さすがに1羽だけじゃ物足りないからな。この調子で、あと10羽釣ろうぜ」
「「「おお!」」」
冒険者達の声が、山々にこだました。
◆◇◆◇◆
再びアセルス達は村にやってきた。
20羽近くのバジリスクを携えてだ。
むろん、すべての個体の魔眼は無力化してある。
20羽のバジリスクを見て、村人たちは驚く。
その要望もあって、まず5羽のバジリスクが畑に放たれた。
さすがに、20羽も魔獣が村の中にいると、いくら無害とはいえ、落ち着かないのだろう。
あとは、即席で作ったケージの中に入れて、厳重に閉じ込めておく。
「おお! 食ってる食ってる」
畑に放たれたバジリスクを見ながら、フレーナは歓声を上げた。
むろん畑には厳重に柵が敷設してある。
外からアセルスたちは、村人たちとともにバジリスクの働く姿を見守った。
「見慣れてくると、ちょっといかつい鶏にしか見えませんな」
村長が畑の中で動き回るバジリスクを見て呟く。
鳴き声も似ているため、確かに鶏にしか見えない。
子どもたちも興味津々だ。
初めて見る生きている魔獣に、目を輝かせていた。
「魔眼は封じてあるから、基本的には無害だぞ。安心してくれ」
すると、その証拠を示すように、ディッシュは畑の中に入っていった。
バジリスクは警戒するような動きを見せる。
しかし、ゼロスキルのディッシュを襲うような素振りは見せない。
むしろ遠ざかっていた。
「意外と臆病さんなんですねぇ」
「ああ。そうだな」
こうしてゆるりと観察していると、魔獣の様々な側面を見ることができる。
山に入って、ただ魔獣を討伐するだけでは、気付かなかっただろう。
「ん?」
アセルスは畑に入ったディッシュの動きに注視する。
その脇には藁を抱えていた。
それを畑に敷く。
「ディッシュ、それはバジリスクの寝藁か?」
「まあ、そんなところだ」
「優しいのだな」
アセルスは目を細める。
ディッシュにとって魔獣は食材であると同時に、山に住む同居人という意識もあるのかもしれない。
その行動を見て、アセルスは頬を赤くした。
「それだけじゃねぇよ」
「え?」
「にしし……。朝になってのお楽しみだ」
「それはどういうことだ?」
尋ねたが、ディッシュは笑って誤魔化すのだった。
◆◇◆◇◆
一晩、村で明かし、翌朝アセルス達は村人とともに畑へやって来た。
まだ霧が煙る早朝である。
視界が悪い中、慎重に畑に近づいていく。
柵から顔を覗かせると、早くもバジリスクは畑に散らばった肉片を摘まんでいた。
仕事熱心だな、と感心していると、ディッシュは早速畑の中に入っていく。
昨日敷いた寝藁に近づいていった。
何かを拾い上げる。
ディッシュの手の平に載ったものを見て、アセルスは思わず叫んだ。
「あ! 卵だ!!」
「その通りだ、アセルス。良かったな、これで飯が作れるぞ」
にしし、とディッシュは笑うのだった。
次は卵料理で決定です!
今回のお話は書籍版を読むと、さらに面白いお話です。
書籍版&コミカライズ版ともどもよろしくお願いします。







