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ゼロスキルの料理番  作者: 延野正行
第4章
112/209

menu104 ゼロスキルの魔獣捕獲方法

魔獣捕獲回です。

今日もどうぞ召し上がれ!

 アセルスたちは、早速ディッシュとともに山に分け入っていた。

 村を再生するのに必要不可欠な魔獣を捕まえるためである。

 しかし、アセルスには素朴な疑問があった。


「なあ、ディッシュ。やはり、村の畑を再生させるためとはいえ、魔獣を村に持ち込むのはまずいのではないか?」


 ディッシュの料理を食べたせいか。

 アセルスにとって、魔獣は以前よりも身近な動物になりつつあった。

 しかし、その存在が危険であることに変わりはない。


 まして、村の畑を作物が育てないようにしてしまったのは、その魔獣なのだ。


 アセルスたちにとっては良くても、村人にとってはやはり抵抗があるのではないか、とアセルスは危惧していた。


 だが、ディッシュは楽観的だ。


「魔獣っていっても、ピンキリだからな。中には何で魔獣に認定されているかわからないヤツだっている。そもそも犬や猫だって、考えようによっては危険な生物だろ?」


「確かにそれはそうだが……」


「魔獣も同じだ。問題は、それとどうやってうまく付き合っていくかだよ」


 話を終えると、ディッシュは足を止めた。

 地面に四つん這いになり、何かを探す。

 あった、と言って、摘まみ上げたのは動物の糞だった。


 以前、七色草を取りに行った時にも同じことがあったが、その時のカリュドーンの糞よりも、三回りぐらい小さな糞である。


「ディッシュ、それは?」


「お目当ての魔獣の糞さ。たぶん、通り道なんだろ」


 ディッシュは罠を仕掛け始めた。

 アセルス、フレーナ、エリーザベトと協力して、五重に巻いた蔓で縄を作る。

 道の上に先が来るように、幹に引っかけ、最後に小さな輪っかを作った。


「ディッシュくぅん、それで何を捕まえるんですか?」


「ま、見ておけよ。ああ、そうだ。エリザ。お前は、聖水を持ってるか?」


「わたくしはぁ、あまり使わないので」


「そうか。じゃあ、俺のを使え。頭からかけるんだ」


「自分にかけるんですかぁ?」


「ああ。匂い消しだ。その魔獣は匂いに敏感だからな」


 アセルスたちは言われた通り、聖水を頭から被った。

 確かに聖水は穢れを払うことができるのだが、臭気なども消すことができる。

 飲めば、お腹の調子がよくなる万能薬でもあるのだ。


 茂みに隠れ、魔獣が通るまで待つ。


 時間がかかるかと思われたが、早速その魔獣は現れた。


「あれは――――」


 アセルスが声を出しそうになったのを、慌てて横のフレーナが押さえ付ける。

 しー、と人差し指を立てて警告した。

 そっと茂みから顔を出し、様子を窺う。


 枯れ葉を踏みしめ、クルクルと首を動かし、その魔獣は現れた。


「バジリスクだ」


 顔は蛇。

 頭には鶏冠。

 鷲の銀翼を持ち、体躯は鶏という異形の魔獣である。


 その大きさは鶏から、人の体高と同じぐらいなものまで様々だ。

 この時、アセルスたちの前にいたのは、鶏サイズぐらいの小さな個体だった。


「ディッシュ、いくらなんでも危険なのではないか?」


「そうですよぉ。バジリスクには、魔眼があります」


「あたいたちは慣れてるからいいけど、魔眼を持つ魔獣は素人には危険だぞ」


 アセルスたちは揃って忠告する。

 だが、ディッシュはやはり心配していなかった。

 首を振って、「まあ、見てろって」と口角を上げる。


 そうこうしてるうちに、バジリスクはディッシュの罠に近づいてきた。


「見え見えの罠なんだけど……」


「何の警戒もしませんねぇ」


「バジリスクは目が悪いからな。黄色いものしか見えないんだよ」


 首を傾げるアセルスたちに、ディッシュは解説する。


 すると、バジリスクの首がちょうど輪っかをくぐった。

 瞬間、ディッシュは蔓を引く。

 そのままバジリスクは宙を舞った。

 首を絞められても、暴れ回る。


「まだ茂みから出るなよ。魔眼で見られたら厄介だからな」


 ディッシュは注意するのを忘れない。

 やがてバジリスクは大人しくなった。


 ディッシュは顔を背けながら、バジリスクの方へ近づいていく。

 例え意識を失っても、魔眼の力は健在だ。

 魅入られると、たちまち身体が動かなくなってしまう。


 ディッシュは手探りでバジリスクの頭を押さえる。

 聖水が入った瓶の蓋を抜くと、ぶっかけた。

 じゅっと鋭い音を立てたのは、バジリスクの目玉である。

 聖水の効果のおかげで、完全に魔眼が潰れた。


「ふぅ……。これでいいか」


「すごい! バジリスクの魔眼を聖水の力だけで封じるとは」


 アセルスは思わず声を上げた。

 Sランクのアセルスにとって、バジリスクは取るに足らない相手だ。

 魔眼は厄介だが、光速で動けるアセルスならあっさりその背後を取ることができる。


 だから、これまでバジリスクを討伐する方法なんて深く考えたことがなく、まして魔眼を聖水で潰すなんて方法など思い尽きもしなかった。


「ゼロスキルのディッシュくんだからこそぉ、考え付いたやり方ですねぇ」


 エリーザベトも感心する。


「でもよぉ、ディッシュ。バジリスク、死んじまったぜ。どうするんだ?」


 フレーナは尋ねた。

 しかし、ディッシュに慌てた様子はない。


「問題ねぇよ。こうやってお腹を押さえてだな」


 ディッシュはバジリスクの仰向けで寝かせる。

 お腹に手を当て、ゆっくりと押した。

 すると――。


『こけぇぇえぇええぇええぇええ!!』


 バジリスクは飛び上がる。

 あっさりと息を吹き返した。

 ディッシュの手から逃げようとする。

 だが、ディッシュは全身を使って押さえ付けると、その足を縛った。

 逆さに吊って、棒にくくりつける。


 魔眼を失い。足を封じられた魔獣など、何の脅威でもない。


 肉屋でぶら下がっている鶏と同じだ。


「「「おお……」」」


 鮮やかな手際に、アセルスたちは手を叩く。

 ウォンも「うぉん」と吠えると、主を讃えた。


「どうだ。これだと普通の鶏と変わらないだろ?」


「うむ。確かに……」


「でもぉ、お目々がなくなった状態で、どうやってバジリスクさんはぁ、魔獣の肉片とか骨を探すんですかぁ?」


「こいつらは目が悪い。その代わり、嗅覚が発達してる。だから肉片の匂いでわかるから問題はねぇよ」


「なるほど。……やっぱすげぇな、ディッシュ!!」


 フレーナは思いっきりディッシュの背中を叩いた。

 手荒い賛美に、ディッシュは苦笑いを浮かべる。


 気を取り直して、ディッシュは向き直った。


「さすがに1羽だけじゃ物足りないからな。この調子で、あと10羽釣ろうぜ」


「「「おお!」」」


 冒険者達の声が、山々にこだました。



 ◆◇◆◇◆



 再びアセルス達は村にやってきた。

 20羽近くのバジリスクを携えてだ。

 むろん、すべての個体の魔眼は無力化してある。


 20羽のバジリスクを見て、村人たちは驚く。

 その要望もあって、まず5羽のバジリスクが畑に放たれた。

 さすがに、20羽も魔獣が村の中にいると、いくら無害とはいえ、落ち着かないのだろう。


 あとは、即席で作ったケージの中に入れて、厳重に閉じ込めておく。


「おお! 食ってる食ってる」


 畑に放たれたバジリスクを見ながら、フレーナは歓声を上げた。


 むろん畑には厳重に柵が敷設してある。

 外からアセルスたちは、村人たちとともにバジリスクの働く姿を見守った。


「見慣れてくると、ちょっといかつい鶏にしか見えませんな」


 村長が畑の中で動き回るバジリスクを見て呟く。

 鳴き声も似ているため、確かに鶏にしか見えない。

 子どもたちも興味津々だ。

 初めて見る生きている魔獣に、目を輝かせていた。


「魔眼は封じてあるから、基本的には無害だぞ。安心してくれ」


 すると、その証拠を示すように、ディッシュは畑の中に入っていった。


 バジリスクは警戒するような動きを見せる。

 しかし、ゼロスキルのディッシュを襲うような素振りは見せない。

 むしろ遠ざかっていた。


「意外と臆病さんなんですねぇ」


「ああ。そうだな」


 こうしてゆるりと観察していると、魔獣の様々な側面を見ることができる。

 山に入って、ただ魔獣を討伐するだけでは、気付かなかっただろう。


「ん?」


 アセルスは畑に入ったディッシュの動きに注視する。

 その脇には藁を抱えていた。

 それを畑に敷く。


「ディッシュ、それはバジリスクの寝藁か?」


「まあ、そんなところだ」


「優しいのだな」


 アセルスは目を細める。

 ディッシュにとって魔獣は食材であると同時に、山に住む同居人という意識もあるのかもしれない。


 その行動を見て、アセルスは頬を赤くした。


「それだけじゃねぇよ」


「え?」


「にしし……。朝になってのお楽しみだ」


「それはどういうことだ?」


 尋ねたが、ディッシュは笑って誤魔化すのだった。



 ◆◇◆◇◆



 一晩、村で明かし、翌朝アセルス達は村人とともに畑へやって来た。


 まだ霧が煙る早朝である。

 視界が悪い中、慎重に畑に近づいていく。

 柵から顔を覗かせると、早くもバジリスクは畑に散らばった肉片を摘まんでいた。

 仕事熱心だな、と感心していると、ディッシュは早速畑の中に入っていく。


 昨日敷いた寝藁に近づいていった。

 何かを拾い上げる。

 ディッシュの手の平に載ったものを見て、アセルスは思わず叫んだ。


「あ! 卵だ!!」


「その通りだ、アセルス。良かったな、これで飯が作れるぞ」


 にしし、とディッシュは笑うのだった。


次は卵料理で決定です!


今回のお話は書籍版を読むと、さらに面白いお話です。

書籍版&コミカライズ版ともどもよろしくお願いします。

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