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ゼロスキルの料理番  作者: 延野正行
第4章
109/209

menu101 ゼロスキルのライバル

本日はコミカライズ版配信日です。そちらもよろしくお願いします。

今日もどうぞ召し上がれ!

「おお……」


 アセルスは思わず唸った。

 口についた涎を拭うのも忘れない。

 同じく皿を見つめるウォンも、舌を出して、激しく息を繰り返していた。


 皿の中に黄金が広がっていた。

 狐色に輝く馬鈴薯をベースにした衣。

 そこに混ざった玉蜀黍(ヤクーテ)が、黄金色に輝いている。

 白い湯気がかすかに揺れ、香ばしくかつ素朴な香りを漂わせていた。


 アセルスとウォンの顔が、よく煮込まれた豚肉のようにとろける。


『ぎぎっ!』


 ギギが皿に添えたのは岩塩だ。

 まずはこれを付けて食べてくれ、ということらしい。


 しかし、本当にゴブリンが作ったとは思えない。

 調理方法も見た目も素朴だが、香りからわかる。

 これはきっとうまい。

 そんな予感がした。


 アセルスは迷わず皿に手を伸ばす。

 熱々のゴブリン焼きなるものを指の先で転がした。

 ふーふー、と息を吹きかけ、冷ます。

 そして己の口の中へと招き入れた。


 サクッ!


 気持ちよい音が鳴る。


 サクッ! サクッ! サクッ!


 アセルスはおいしい音を響かせる。


「くうううううううううう!! この音がたまらん!!」


 食べながら叫んだ。

 食感が頭頂まで一直線に貫く。

 音が口内で広がるのが、楽しいぐらい馬鈴薯の衣はサクサクだった。


 味も申し分ない。

 玉蜀黍(ヤクーテ)の甘みもいい。

 歯で子実を潰した時に、水分と一緒に口の中に弾ける様が良かった。

 ちょんと付けた塩もいいアクセントになっている。

 特に今は暑い。

 身体の中に塩味が行き渡る感覚も最高だ。


 隠し味ともいえる鶏ガラスープもいい仕事をしていた。

 やや単調になりがちな味に、程よく旨みを与えてくれる。

 いくらでも食べられそうな気がした。


 皿には最後の1枚。


 アセルスとウォンは目が合う。

 その瞬間、両者の戦いが始まった。

 アセルスは【光速】を……。

 ウォンはその反応速度で対抗する。


 だが――――。


 横から手が伸び、最後の1枚がかっさらわれていく。

 それはディッシュの口の中に入った。


「うん。うめぇ!! 相変わらず、うめぇなあ! ゴブリン焼きは!!」


 ディッシュは唸る。

 すると、アセルスとウォンの恨めしそうな顔で、自分を見つめていることに気付いた。


「ディッシュ~」


「うぉ~ん」


「なんだよ。いいだろ? お前たち、いっぱい食べたんだから。それにな。今回は俺も客なんだよ。1枚ぐらい食わせろ」


 はたとアセルスは気付く。

 そうだ。

 今日の料理人はディッシュではない。

 目の前にいるゴブリン――ギギだった。


 そのギギはアセルスたちの反応に気をよくしたらしい。

 再びまな板の前に立って、おかわりを作ろうとしていた。


 アセルスにとって、魔獣は狩って当然のものだと思っていた。

 彼らが人間にとって害悪である――その考えを変えるつもりはない。

 が、それでも色々な魔獣がいるのだと、アセルスは思い知った。


「驚いただろう、アセルス」


「ああ……。ゴブリンは手先が器用だとは知ってはいたが、まさか料理を作ることができるとはな」


「だな。魔獣の恐ろしさは俺もいやという程わかってる」


「ディッシュ……?」


「でも、ギギのように勘違いとはいえ、人間を助けてくれる魔獣もいる。魔獣は決して人を襲いたくて、襲ってるわけじゃない。生きるために襲っているだけだ。こいつらは、俺たちよりも命の大切さを知ってる。自分たちの命の大切さをな。だからって、アセルスの仕事を否定するつもりもない。俺も魔獣食をやめるつもりもない」


「我々は彼らに何をすればいいのだろうな」



 感謝すればいい……。



「彼らによって生計を立てることを……。おいしい料理が食べられることを……。ありがとう……ただその一言だけでも、報いになると思う」


「感謝か……」


 ディッシュの言う通りだと思った。


 こう言ってはなんだが、アセルスはたくさんの魔獣を殺したことによって、今の地位にいる。

 彼らがいなければ、【光速】などいう貴重なスキルも宝の持ち腐れだったかもしれない。


 何よりディッシュとこうして出会うこともなかっただろう。


 魔獣がいるから今の自分がいる。

 そう思うと、自然と手を合わせていた。


「なんだ、アセルス。手を合わせて。もういいのか?」


「え?」


 アセルスは目を瞬かせる。

 声をかけてきたディッシュの手には、焼き上がったゴブリン焼きの皿があった。


「折角、今度は俺が作ったソースで食べてもらおうと思ったのによ」


「いや、ちょっと待て。そういうわけでは……」


 アセルスは慌てる。


 その横でディッシュはソースを作り始めた。

 柑橘系の果物を絞る。

 その果汁を、醤油の中に入れた。


『ぎぎっ?』


 なんだ、これは? という風にギギは尋ねる。

 すると、ディッシュはにししし、と笑った。


「試しに食べてみろよ、ギギ」


 作ったばかりのソースを差し出す。

 ギギは自分が作ったゴブリン焼きを摘まむ。

 小皿に載ったソースにちょんと付けた。


 濃い飴色のソースを滴らせながら、口の中に運ぶ。


『ぎぃぃっっっっぎぃいいいいいいぃいいいいいぃいいい!!』


 ギギは絶叫した。

 ちょっとうるさいぐらい『ぎぎっ!』『ぎぎっ!』と叫ぶ。

 反応だけでわかった。

 きっとうまいのだろう。


 アセルスは喉を鳴らす。


「ディッシュ……」


「はいはい。わかってるよ。アセルスも食べてみろ。ウォンもほら」


 ディッシュはソースを付けて、ウォンに差し出す。

 ウォンは匂いを嗅ぐと、ぺろりと口の中に入れた。


「うぉおおぉぉおおおぉぉおおおおぉおおぉお!!」


 ウォンは遠吠えを上げる。

 当然のその銀毛はモフモフになっていく。

 魔獣の前で眉間に皺を寄せ、闘争心を剥き出すウォンの顔も、バターのようにとろけていた。


 皆の反応にアセルスは焦る。

 ソースを付け、ゴブリン焼きを頬張った。


「おおおおおおおおおおおおおおお!!」


 アセルスは勝ち鬨のような声を上げる。


 先ほどとは全然違う。

 もちろん、食材の甘みや、鶏ガラの旨みは残っている。

 だが、ソース自体がとてもさっぱりしていて食べやすい。

 特に暑く、やや胃がもたれ気味の時には、ちょうどいい酸味があった。


「これは果汁の酸味だな」


「ああ。醤油と混ぜたから、ちょうどいいだろう」


 そう。

 そうなのだ。


 果汁だけであれば、酸味が利きすぎて、それだけの味になってしまう。

 だが、醤油を混ぜることによって、劇的に代わっていた。

 醤油独特のコクを与えられたことで、酸味が抑えられている。


 そのソースがかかることによって、やや脂っこいゴブリン焼きの後味をスッキリさせてくれていた。


 嫌らしい事に、さらに食が進む。

 ギギと一緒に、アセルスとウォンは夢中になって食べた。


『ぎぎっ!』


 食べ終わると、ギギは何か興奮した様子で地団駄を踏む。

 何かディッシュに抗議しているかのようだった。


「なんだ? ずるいってか? ふふん。この時のために用意していたソースなんだぜ、これは」


 ディッシュはにんまりと笑う。

 ゴブリンのギギを挑発するように見下した。

 またギギは地団駄を踏む。

 自分の料理を、ディッシュにおいしく食べさせられて怒っているらしい。


 ギギはゴブリンだが、一種の料理人としてのプライドがあるようだ。


 アセルスはやりとりを見ながら、ポンと手を打つ。


「そうか。この2人……。山の中で、良いライバルなんだ」


 仲睦まじい様子のディッシュとギギを見ながら、アセルスは思った。


 一方、その1人と1匹の口論は激しさを増す。


『ぎぎっ!』


「ほう。新作料理を出すのか。いいだろう。俺も、なんか作るかなあ」


『ぎぎっ!』


「俺だって負けねぇぞ」


 ディッシュは包丁を、ギギは鈍器を。

 人と魔獣。

 互いに凶器を持ちながら、勝負事は料理である。


 現実とは思えない対決に、アセルスは微笑む。

 両者にエールを送るのだった。


【宣伝】

本日『ゼロスキルの料理番』のコミカライズ版最新話が更新されました!

今回はアセルスが再びディッシュの家に向かうお話です。

アセルスの顔がいちいちコミカルで、何度見ても「こいつ、本当にヒロインでよかったんやろか?」と思うのですが、可愛いアセルスもあるので是非チェックしてみて下さい!

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