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ゼロスキルの料理番  作者: 延野正行
第4章
102/209

menu94 ダイダラボッチとカトブレパスの魔王風

お待たせしました。

実食回です。

今日もどうぞ召し上がれ!


※ 今回のモデルの料理は、Twitterの方に上げる予定です!

「魔王風!!」


 アセルスは思わず素っ頓狂な声を上げた。


 ダイダラボッチとカトブレパスの魔王風味と、魔王ゼーナム直々に名付けられた料理を睨む。


 かつて人類――いや、生物全体の敵だった「魔王」の名を料理に冠するなど、とても忌々しい限りである。

 しかし、その料理の存在感は確かに食の魔王のようであった。


 分厚くカットされたカトブレパスのヒレ肉。

 そこに魔獣の王の一角を担うダイダラボッチの肉が載っている。

 さらにかかっているソースに使われているのは、最弱の魔獣スライムだ。


 その由来からしても、魔獣食の王――つまり「魔王」という名にふさわしい。


 だが、食材の名前だけではない。

 見た目もどっしりとして、荘厳だ。

 巨大な柱を思わせるカトブレパスの肉。

 そこに特製のソースがかかったダイダラボッチの肉は、キラキラと飴色に輝いている。


 醤油とブルーベリー風味のスライムジャムは、黒い目玉のように閃き、食事するものを威嚇していた。


 食べてみるなら食べてみろ、睨まれているようだ。


 アセルスはゴクリと息を呑む。

 おいしそう、と思うまでもなく、うまそうなのだが、その存在感に【光速】の聖騎士は少しおののいていた。


「どうした、アセルス? 食べないのか?」


「う、うむ。食べるぞ」


 何やら魔王風味などとゼーナムが名付けてしまったためか、顔が強ばってしまう。

 いつもなら、どうぞと言った瞬間、飛びつくアセルスだったが、この時ばかりは慎重だった。


 王宮の晩餐会で招かれた時以上に、アセルスは緊張しながら、手を動かす。


「では――――」


 ナイフを入れる。

 アセルスはほっと息を呑んだ。

 引っかかることなく、また何の力も入れず、ダイダラボッチとカトブレパスの肉が同時に切れてしまったのだ。

 むろん、アセルスが持った銀のナイフの性能もあろう。

 だが、温めたナイフで牛酪を切る感覚と似て、あまりにあっさりと切れてしまった。


「まるで雲を切り分けているようだ」


 アセルスは唸る。

 だが、愛するディッシュの料理は、これまで食べるものの夢を叶えてきた。

 これぐらいなら、朝飯前といったところだろう。


 漂ってくる豊香。

 飴色に染まった肉と、皿に広がった金色の脂。

 匂いも見た目も申し分ない。


 いよいよ味だ。


 アセルスは切り分けた肉にそっとフォークを刺し入れる。

 ゆっくりと口に近づけた。

 豊香が鼻を突く。

 じゅうぅ、という熱々の音がより鮮明に耳朶に触れる。


 ぱくっ……。


「うぅぅぅぅぅまあぁぁぁぁあああああああああっっっ!!」


 アセルスは雄叫びを上げた。

 横で食べていたウォンも大きく咆吼を上げる。

 1人冷静だったのは、魔王ゼーナムだったが、満足そうな笑みを浮かべていた。


 うっま!

 うまっ!

 うまい!!


 アセルスの語彙力が消失する。

 「うまい」という言葉以外、頭に浮かばない。

 ダイダラボッチとカトブレパスの肉は、それほどのインパクトを持っていた。


 まず口の中に広がったのは、ダイダラボッチの肉の風味だ。

 中で唾液と合わさり、溶けた瞬間、ふわりと広がっていく。

 その様々な味を想起させる不思議な風味は、やはり日だまりで温められた土のように優しかった。


 続いて、新芽のように顔を覗かせたのは、ソースである。

 醤油とブルーベリーを使ったスライムジャムのコラボレーションは見事としか言いようがない。


 醤油のしょっぱさ、スライム飴の素朴な甘みがたまらなくマッチしていた。

 何よりもダイダラボッチから出た油が良い。

 2つの味にまろやかさを与え、相反する味を融合させるだけではなく、相乗効果を生み出している。


 油と聞くと、ちょっとねっとりした感がするが、ブルーベリーの酸味がいい後味を引き出してくれていた。

 口の奥に入っていっても、胃が凭れる感じはない。


 そしてやはり不思議なのは食感だろう。


 ダイダラボッチのサクッとした後のプリッとした滑らかな食感は、相変わらず感動的だ。

 そこに分厚いカトブレパスのステーキが合わさってくる。

 2つの肉を同時に噛んだ瞬間、その不思議な食感は生まれた。


 ダイダラボッチの滑らかな食感に、カトブレパスの歯応えのある食感。

 2つが融合し、そして――――。


 一瞬で消滅した。


 まるでゴーストに化かされたかのように、気泡のように溶けていく。

 両肉の確かな歯応えを感じた。

 だが、2つが合わさり、上質な牛酪のような強いクリーミーな味を残していくと、ふわりと消えていくのだ。


 それは悲恋の末に心中した恋人同士のように淡く切ない。


 しかし、その後口の中に押し寄せたのは、旨みである。

 口内ではもう溶けてなくなっているのに、旨みだけは残っていて、まるで肉の魂を食べているかのようだった。


 魔王風味と名付けられた料理だが、その実態はむしろ逆と言っていいだろう。


 だが、その名を冠するのも無理もない。

 素晴らしい料理だった。


「はあ……」


 アセルスはカラリと銀食器を皿に置く。

 当然、皿は空になっていた。

 ポー、と魔王によって生み出された明るい空を見つめる。


 まるで無垢な少女のように呆然としていた。


 ディッシュの料理にはいつも驚かされる。

 感動する。

 何よりも、すべてうまい。


 だが、今回の料理は極めてうまかった。


 料理の中に、まるで神でも見たかのように……。


 呆然とするアセルスだったが、休んでいる場合ではなかった。


 鼻腔をくすぐる匂いに、ステーキを食べたばかりのお腹が反応する。

 ぐるりと首を動かすと、背後でディッシュはまだ調理を続けていた。


 お玉を使って、鍋の中のスープをかけている。

 その対象はおそらくゴーストラディッシュを輪切りにしたものだろう。


「そうだ。まだそれがあった」


 アセルスは一旦席を立ち、鍋の中をのぞき込む。


「おお……」


 思わず目をキラリを光らせた。

 舌の上ではまだ先ほどの料理の風味が残っているのに、涎を止めることができない。


 鍋の中に入っていたのは、魔骨スープによって白く染まったゴーストラディッシュだった。


 ディッシュは先ほどと同じく、ダイダラボッチの肉を焼く。

 同じくソースを作った。


 皿の上に、白濁としたゴーストラディッシュを載せると、その上にダイダラボッチの肉、そしてソースを注ぐ。


 魔骨スープと、ダイダラボッチの油を使ったソースがゆっくりと混じり合っていった。


「さあ、今度は――――」


 皿をアセルスたちの目の前にサーブした。



 ダイダラボッチとゴーストラディッシュの魔骨風味だ!



 召し上がれ。


 ディッシュがにしし、と笑うのだった。


実食回は続くよ、どこまでも。


※ 来週コミカライズの配信日になります。

  是非お楽しみください!

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