menu94 ダイダラボッチとカトブレパスの魔王風
お待たせしました。
実食回です。
今日もどうぞ召し上がれ!
※ 今回のモデルの料理は、Twitterの方に上げる予定です!
「魔王風!!」
アセルスは思わず素っ頓狂な声を上げた。
ダイダラボッチとカトブレパスの魔王風味と、魔王ゼーナム直々に名付けられた料理を睨む。
かつて人類――いや、生物全体の敵だった「魔王」の名を料理に冠するなど、とても忌々しい限りである。
しかし、その料理の存在感は確かに食の魔王のようであった。
分厚くカットされたカトブレパスのヒレ肉。
そこに魔獣の王の一角を担うダイダラボッチの肉が載っている。
さらにかかっているソースに使われているのは、最弱の魔獣スライムだ。
その由来からしても、魔獣食の王――つまり「魔王」という名にふさわしい。
だが、食材の名前だけではない。
見た目もどっしりとして、荘厳だ。
巨大な柱を思わせるカトブレパスの肉。
そこに特製のソースがかかったダイダラボッチの肉は、キラキラと飴色に輝いている。
醤油とブルーベリー風味のスライムジャムは、黒い目玉のように閃き、食事するものを威嚇していた。
食べてみるなら食べてみろ、睨まれているようだ。
アセルスはゴクリと息を呑む。
おいしそう、と思うまでもなく、うまそうなのだが、その存在感に【光速】の聖騎士は少しおののいていた。
「どうした、アセルス? 食べないのか?」
「う、うむ。食べるぞ」
何やら魔王風味などとゼーナムが名付けてしまったためか、顔が強ばってしまう。
いつもなら、どうぞと言った瞬間、飛びつくアセルスだったが、この時ばかりは慎重だった。
王宮の晩餐会で招かれた時以上に、アセルスは緊張しながら、手を動かす。
「では――――」
ナイフを入れる。
アセルスはほっと息を呑んだ。
引っかかることなく、また何の力も入れず、ダイダラボッチとカトブレパスの肉が同時に切れてしまったのだ。
むろん、アセルスが持った銀のナイフの性能もあろう。
だが、温めたナイフで牛酪を切る感覚と似て、あまりにあっさりと切れてしまった。
「まるで雲を切り分けているようだ」
アセルスは唸る。
だが、愛するディッシュの料理は、これまで食べるものの夢を叶えてきた。
これぐらいなら、朝飯前といったところだろう。
漂ってくる豊香。
飴色に染まった肉と、皿に広がった金色の脂。
匂いも見た目も申し分ない。
いよいよ味だ。
アセルスは切り分けた肉にそっとフォークを刺し入れる。
ゆっくりと口に近づけた。
豊香が鼻を突く。
じゅうぅ、という熱々の音がより鮮明に耳朶に触れる。
ぱくっ……。
「うぅぅぅぅぅまあぁぁぁぁあああああああああっっっ!!」
アセルスは雄叫びを上げた。
横で食べていたウォンも大きく咆吼を上げる。
1人冷静だったのは、魔王ゼーナムだったが、満足そうな笑みを浮かべていた。
うっま!
うまっ!
うまい!!
アセルスの語彙力が消失する。
「うまい」という言葉以外、頭に浮かばない。
ダイダラボッチとカトブレパスの肉は、それほどのインパクトを持っていた。
まず口の中に広がったのは、ダイダラボッチの肉の風味だ。
中で唾液と合わさり、溶けた瞬間、ふわりと広がっていく。
その様々な味を想起させる不思議な風味は、やはり日だまりで温められた土のように優しかった。
続いて、新芽のように顔を覗かせたのは、ソースである。
醤油とブルーベリーを使ったスライムジャムのコラボレーションは見事としか言いようがない。
醤油のしょっぱさ、スライム飴の素朴な甘みがたまらなくマッチしていた。
何よりもダイダラボッチから出た油が良い。
2つの味にまろやかさを与え、相反する味を融合させるだけではなく、相乗効果を生み出している。
油と聞くと、ちょっとねっとりした感がするが、ブルーベリーの酸味がいい後味を引き出してくれていた。
口の奥に入っていっても、胃が凭れる感じはない。
そしてやはり不思議なのは食感だろう。
ダイダラボッチのサクッとした後のプリッとした滑らかな食感は、相変わらず感動的だ。
そこに分厚いカトブレパスのステーキが合わさってくる。
2つの肉を同時に噛んだ瞬間、その不思議な食感は生まれた。
ダイダラボッチの滑らかな食感に、カトブレパスの歯応えのある食感。
2つが融合し、そして――――。
一瞬で消滅した。
まるでゴーストに化かされたかのように、気泡のように溶けていく。
両肉の確かな歯応えを感じた。
だが、2つが合わさり、上質な牛酪のような強いクリーミーな味を残していくと、ふわりと消えていくのだ。
それは悲恋の末に心中した恋人同士のように淡く切ない。
しかし、その後口の中に押し寄せたのは、旨みである。
口内ではもう溶けてなくなっているのに、旨みだけは残っていて、まるで肉の魂を食べているかのようだった。
魔王風味と名付けられた料理だが、その実態はむしろ逆と言っていいだろう。
だが、その名を冠するのも無理もない。
素晴らしい料理だった。
「はあ……」
アセルスはカラリと銀食器を皿に置く。
当然、皿は空になっていた。
ポー、と魔王によって生み出された明るい空を見つめる。
まるで無垢な少女のように呆然としていた。
ディッシュの料理にはいつも驚かされる。
感動する。
何よりも、すべてうまい。
だが、今回の料理は極めてうまかった。
料理の中に、まるで神でも見たかのように……。
呆然とするアセルスだったが、休んでいる場合ではなかった。
鼻腔をくすぐる匂いに、ステーキを食べたばかりのお腹が反応する。
ぐるりと首を動かすと、背後でディッシュはまだ調理を続けていた。
お玉を使って、鍋の中のスープをかけている。
その対象はおそらくゴーストラディッシュを輪切りにしたものだろう。
「そうだ。まだそれがあった」
アセルスは一旦席を立ち、鍋の中をのぞき込む。
「おお……」
思わず目をキラリを光らせた。
舌の上ではまだ先ほどの料理の風味が残っているのに、涎を止めることができない。
鍋の中に入っていたのは、魔骨スープによって白く染まったゴーストラディッシュだった。
ディッシュは先ほどと同じく、ダイダラボッチの肉を焼く。
同じくソースを作った。
皿の上に、白濁としたゴーストラディッシュを載せると、その上にダイダラボッチの肉、そしてソースを注ぐ。
魔骨スープと、ダイダラボッチの油を使ったソースがゆっくりと混じり合っていった。
「さあ、今度は――――」
皿をアセルスたちの目の前にサーブした。
ダイダラボッチとゴーストラディッシュの魔骨風味だ!
召し上がれ。
ディッシュがにしし、と笑うのだった。
実食回は続くよ、どこまでも。
※ 来週コミカライズの配信日になります。
是非お楽しみください!







