転送
人造勇者の始まりじゃ~(*・∀・*)
……俺が生まれてからどの位の時間が経ったのだろう
液体が満ちたガラスケースの中で体を造られ、弄られ、改造される日々……
外に出されても性能実験ということで色々な機械と戦い、しばらく戦ったらまたガラスケースの中に戻される……
見える範囲には機械だらけで人間は1人だけ、白衣を着た女性で名前は教えられてなく、ただマスターと呼んでいた……
そんな日々が終わりを告げたのは突然の出来事だった
週に何回かマスターが居なくなる事があり、その日も当然のようにガラスケースの中に入ったまま暗い部屋を見つめていたのだが、突然目の前に光の玉が現れた
しばらくふよふよとガラスケースの周りを飛んでいたかと思ったら次の瞬間には自分の目の前で人の形へと変わっていった
「ふむ……この程度が限界ですか……まぁ話さえ出来れば支障はないのでいいでしょう。
さて、ライトセイバーカスタムさんでよろしいですよね?まぁあってる事前提で話を進めますが、貴方を異世界にご案内します、そこで勇者として活動してもらうのですが特にすることなどはありません。
さしずめ人造勇者は異世界でどのように過ごす事が出来るのか。という実験のようなものです。
さて、話は以上ですので早速転送したいと思うのですがその前に質問などはありますか?あぁ話が出来ないのであれば相手に話しかけるように思考して頂ければその思考を読み取りますのでご心配なく、では質問などをどうぞ」
(お前は誰だ?)
「ふむ、誰と聞かれましても私はマジックリアクター、略称マリアと呼ばれています……が、人間ではありません強いて言うならば貴方の後輩にあたる存在ですかね、あ、今後マスターとお呼びしていいですか?こちらの世界に転送が済み次第貴方の所有物となる事が決定しているので」
(それは別に構わないが……マジックリアクター?魔力、もしくはそれに似たような物の動力炉だと?そっちの世界はどんな所なんだ?)
次々と喋り続ける人の形をとっている光へひとまず気になったことを訪ねてみたのだが返ってきた答えは予想もしてなかったものだった
マジックリアクター、訳すと魔術動力炉……つまり魔法何かが使える世界である可能性が高いわけだ、ここまで考えると今から飛ばされるという世界の事は当然気になるわけで……聞いてみたのだがマリアと名乗った光はふよふよとしばらく漂っていたかと思うと黙りこくってしまった
(どうした?答えられない質問だったか?ただそっちの世界の事情が知りたかっただけなんだが……)
「……いえ、お答えするのは簡単なのですが……なんと言いますか、その……上手い例えが思い浮かばないもので……」
何かと思えば例えが思い浮かばないときた、なるほど簡単に説明するなら確かに例え話がわかりやすいだろう……だが、こんなに時間をかけるものではないだろう!
(……はぁ、分かった端的にわかりやすくどんな所かだけ教えてくれ……)
「あっ、はい、それなら簡単でしたね。では…おほん、えー簡単に言いますと魔物と呼ばれる異形の怪物がそこら辺を闊歩している世界です、その中で人間は知能を磨き武器を作り上げ魔物と戦う術を身につけた世界……と言えばお分かりですか?」
(あぁ、つまり人間は武器を持ち魔物と戦い日々を過ごしているのだろう?そうしなければ生きられないほどに魔物は強いという事だな)
「はいそういう事でございます、えー後はですね……」
そこからの話を簡単にまとめると
・人間は国を作り纏まって暮らしている
・魔物を倒してその報酬金を貰って生活をする者達をまとめて冒険者と呼んでいる
・ダンジョンがあり中には魔物がいるがダンジョン内から出られず、魔物と区別するためにモンスターと呼ばれている
・勇者は何度か呼ばれているが全てが魔王との相打ちになっている
そして1番大事な事だが
・この世界での俺がいた証拠は何一つ残らない
つまり、向こうの世界に転送されたが最後、もう戻ってくることなどは出来ないようだ……
まぁ元から造られた生命だ、世間には認知されていないし居なくなっても誰も気づかない……あるとすればマスターか…だが証拠が無くなるとなるとマスターはどうなるのだろうか?
(おい、質問なんだが、俺がいなくなった後マスターはどうなるんだ?)
俺の質問が意外だったのかしばらく動きを止めていたが不意に動いたかと思うと突然目の前に現れた
「やっぱり面白いですね、貴方、いえ連れてくことは確定なのでマスターですね、マスターは人造生命体なのに人の心配をした……それはつまり人間の心を理解しようとしているということになる。
面白い、実に面白いです私には感情等はそれほど無いのですが興味や知識欲なら人一倍あると自負しております、マスターのその心これからずっとお側で観察し続けます。
おっと本題から大分ズレてしまいましたね、すいません。で、マスターのマスターの事なのですが……あちらの世界に行けばいずれ分かる、と申しておきます。今は内緒の方が後々面白そうなので」
離れつつも観察され続ける感覚は消えず、より一層強くなったように感じた
「さて、後のことは後々話すとしましょう、そろそろこの状態でいるのも疲れてきたのでマスターを転送するとします。
では、すぐに会うことになると思いますがこれからよろしくお願い致します……ね?」
そう最後に言った光はどことなく微笑んでいる気がした……
ーー光に包まれた後の研究室には中に何も入っていないガラスケースと閑散とした部屋だけが広がっていた……