旅の始まり
『朔月君のバカ……もう知らない!』
『柚羽、待てよ!』
彼女は走っていってしまって。
追いかけるが掴まえられなくて。
その先で……彼女は、車に――――……。
……と、そこで芦谷朔月は目を覚ました。
「……目覚めわりぃ……」
いっそ全て夢だったらな、と思う。
全ては七年前の出来事だ。
朔月とその彼女の柚羽は、些細なことで喧嘩をした。
あの時、意地を張らずにすぐ謝れば良かったと後悔する。
しかしもう遅いのだ。
口論はヒートアップし、柚羽は車に轢かれて……。
「柚羽……謝るから。お願いだから……何でも、するから。柚羽の大好きなパンケーキ……美味い所に連れてってやるから。……お願いだよ、戻ってきて、くれよ……」
幾ら年月が流れても悪い夢は覚めない。
二十五歳になってなお、毎日あの日の夢を見る。
その都度朔月は自責の念に駆られる。
「……神でも悪魔でも何でもいい。柚羽にもう一度逢えるなら何だってするから……。だから、だから……誰か」
『はい』
誰かの声がした気がした。
「だれ、だ?」
『私は……女神アルカディアです』
「そう、かよ……はは、遂に幻聴までしてきたのな」
『幻聴ではありませんよ、朔月』
「……はぁ。まぁどうでもいいか……幻聴じゃないなら、用件は?」
『あなたに、チャンスを与えましょう。彼女を生き返らせるチャンスを』
「な、何だ!?何をすればいいんだ!?」
柚羽を生き返らせると聞いて、幻聴だと思ってはいても、朔月は聞き返さずにはいられなかった。
『【ゲームの世界】を救って下さい』
「は、あ?」
『【ゲームの世界】を救って下さい』
「いや、二回言わなくても聞こえてるけども」
『【ゲームの世界】は今、魔王に支配されています。そこで戦う少女と一緒に、魔王を倒してください』
「え、何言ってんだ……そんなの、ある訳が……いや、柚羽を救えるんだったら……何でもいい」
『では、行きましょう。コンティニューは五回までですので、くれぐれもお気をつけて』
刹那……記憶が飛んだ。
目を覚ますとそこは、俺の部屋ではなくて……俺の、世界ですらなかった。
空は毒々しい紫に覆われ、大地は乾燥していた。
周囲を見渡してみると、あばら家の様なものがちらほらと見える。
人間は沢山いる。
だがその服装をよく見ると、普通の町民のような服装の者、或いは鎧と武器を身にまとっている、装備と言った方が良いような服装の者の二種類に分かれていた。
「本当に、ゲームの中の世界、なのか……本当に、装備なんだ、あれは」
朔月は自身の装備を見る。
何やら豪勢なものだった。
『朔月、朔月。あなたのプロフィールを見て下さい!私、頑張ったんですよ!』
アルカディアの言う通りにプロフィールを見る。
【サツキ・(この名前は現在使うことが出来ません)
冒険者/age18/異世界騎士
LV : 99
HP : 9999/9999
MP : 999/999
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
力 : 999
素早さ : 999
体力 : 999
知性 : 999
運 : 999
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
スキル : 二刀流(任意の2本の剣をダメージ10倍、高速で操る) 異世界剣(その場に無くても思い描いた剣を具現化可能) 敵全体特大攻撃(敵に150%のダメージを付与)
敵全体特大毒攻撃(敵に120%の毒ダメージを付与)】
「初日にしてカンストしてんじゃねえか!?」
「ひぅっ!?が、がんばったんですよ……!?」
「それにしてもこのデータはやり過ぎだよ!あと、年齢のところ!十八歳になってるんだが!?それ七年前だし!」
……柚羽を失った年だ。
「……わ、若い方がいいじゃないですか?」
「まあ、それはな……でも、やり過ぎだ!」
「ひどい……私、女神なのに……呼び捨てだし……」
「じゃあ、女神アルカディア様?」
『……なんか他人行儀なので、アルって呼んでください』
「呼び捨て云々の話はどこへ……?分かったよ、アル」
『はわっ!て、照れますね ……』
「アルがそう呼べって言ったんだよ!?……くく」
茹でダコの様になっているアルカディアを想像し、朔月はふと笑みを溢す。
『やっと、笑ってくれましたね……朔月』
「い、いや、今のは……別に……」
朔月はふと思う。
柚羽を失ったあの日から、自分は一度たりとも笑っていなかったと。
もしかしたら、この女神は……いや、そんなことはないな。
そう考え直し、しかしアルカディアへの感謝を口にする。
「ありがとう、アル」
『ふあぁぁぁっ!?いっ、いえっ!別に私は……っいえ、女神なので、当然です!』
「はは、アルって男に免疫ない?」
『そ、そんなことないですよぅ!』
「嘘だなー。ってか、最初と全然キャラ違うし」
ほんの少し前の、邂逅を果たした時のアルカディアの声の記憶を手繰り寄せる。
『あ、あれは……緊張してただけで……ごにょごにょ』
「やっぱり免疫ない感じじゃん」
『そんなことないったらないんですー!……あ、朔月……いえ、サツキ。私の言った冒険者の少女が来ましたよ!』
前方には人が居なかったので、後方を向く。
すると。
「誰も居ない……?」
「君、どこを見てるんだ!私は下だ、下!」
目線を下げると、そこには。
「柚羽……?」
「うん?君、私のことを知ってるの?」
「ゆず……っ」
少女を抱きしめようとする。
『サツキ、その子はこの世界の子です。朔月の彼女ではありませんよ。』
「……そう、か」
そうだった。
柚羽を取り戻すために、この世界を救うのだった。
「……君、どうしたの?どうして、私のことを?」
「ごめんね、俺の、もう亡くなってしまった大好きな人に、とても似ていたんだ」
本当に、普通にしている時では視野に入らない身長(朔月が高いのもあるが)。透き通っていて、それでいて元気そうな声。
瞳が大きくて、鼻も通っていて、誰からでも美人と評される顔。不思議なことがあると眉を寄せる癖。
何から何まで、柚羽にそっくりだ。
それに、もしかしたら、名前も……。
「……偶然だね。私も、大切な人を失ってしまったんだ。それに……とても、君に似ていた。……名を、教えてもらってもいい?」
「サツキだ」
「ふふ、サツキ、か。名まで同じとはね……私は、ユズハ」
「こっちも、名前も同じだよ。ユズハ」
やはり、名も同じだった。
そしてまた、ユズハも同じ境遇らしい。
「よーし、サツキ。これは運命だ。私のパーティに入らない?」
「分かった。どうすればいいんだ?」
「まずは、プロフィールから私とフレンド登録して……そう、それで完了!」
「よろしくな、ユズハ」
「よろしくね、サツキ」
二人は握手を交わす。
「……これでいいんだよな?アル」
朔月は隣の少女に聞かれぬように小さく呟く。
『はい、大丈夫です。……私は、とりあえずここで失礼します。また、重要な場面では出てきますので』
「ん」
「サツキ?じゃあ、行っくよー!」
「……おう!」
全ては柚羽を取り戻すために。
このゲームの世界で、ユズハとの冒険が始まった。
「……なぁ、ユズハ。この土地は何ていう地名なんだ?」
「えーと……えーと……ごめんなさいぃ!」
「だろうと思った……これまでどうやって旅してきたんだよ……」
「……適当に、ふらふらーっと」
「……そ、そうか。ほら、地図貸せ」
地図が読めなくて方向音痴な所までも柚羽と同じだな、思いながら地図を見る。
「分かるー?」
「ユズハ、あのでっかい塔、何か分かるか?」
「あ、うん!あれは『ライダーゴース塔』だよ!」
仮面か。仮面を被っているのか。
そんなツッコミはさて置き。
「じゃあ、魔王の城はこっちだな。行くぞ!」
「すごーい!れっつごー!」
少し先行きが不安になったが、大丈夫だろうと信じたい朔月だった。
「えーと、次はこっちだな」
「……サツキ、危ないっ!」
パリィ、と音がした。
振り向くと、そこには三メートルほどの巨体の敵と応戦しているユズハの姿があった。
「ユズハっ!」
「……サツキ!初日でこの敵は……」
朔月は装備の剣を抜き、敵に切りかかる。
すると、一太刀で敵は結晶と化した。
「大丈夫か?ユズハ」
「さ、サツキ……何者、なの?それにその剣……伝説の太陽剣だよね!?」
そんな名前だったのか、と適当に抜いた刀剣を見て思う。
たいようけん。光で相手に目眩し出来そうな名前だ。
「お、俺は……今日初めてログインして……その、あれだよ。すっげぇレベル上げしまくって、パラメータカンストした……」
『異世界騎士』
「そう、俺は異世界騎士との異名を持つ!太陽剣……?は極希な確率の中ドロップした」
「す……すっごーい!サツキすごーい!一日で異名って付けられるんだ!こんなに強かったんだ!私、サツキとパーティ組めて良かった!」
……安易に騙されてくれるのも、柚羽と変わらなくてよかった。
「ありがとな、アル。微妙なセンスの異名付けてくれて」
「それは感謝してるんですか?貶してるんですか?」
「感謝感謝」
アルカディアに感謝をするが、それとなく異名のセンスが気に食わなかったので少し付け足した。
「よーし、サツキが強いって分かったことだし、早く行こー!今日は久しぶりにちゃんとした宿だー!」
「はいはい、早く行こ……ってユズハお前、昨日まではどうしてたんだ?」
「……目的地に辿り着けないので、適当なところで野宿してました……」
「そうか……」
このゲームの世界だと、地図読めない&方向音痴は致命的な欠陥らしかった。
端末機器も無いだろうし。
『ありますよ?端末』
「人の心を読むな!?」
「ふわっ!?サツキ、怒った……?」
「あーいや、違う違う、ごめんごめん。……で?」
……で?は常人には聞き取れない大きさで発しています。
『さ、サツキの鎧の右ポケットを見てくださいぃ……』
ポケットあるのか、鎧。
ともかく、鎧の右側を見る。
……あった、ポケット。
「え、これ大丈夫か?鎧とかって硬くないといけなくないか?」
「サツキ!この鎧はね、伸縮自在で耐久性も兼ね備えた、鋼鉄製の鎧なんだよ!」
『なのです』
何はともあれ、鎧の硬さを確かめたところでポケットの中身を確かめる。
薄くて四角い端末で、欠けた知恵の実が後ろに描かれていた。
「アイ○ォンか!?」
「それはねー、アルカディアフォンだよ!みんなアルフォンって呼んでいます」
「アルカディア……?」
『私の名前ですねー!いやぁ、言ってませんでしたっけ?私、この世界の創造主なんですよ!この世界の名はアルカディアです!端末の名前にまで使われてるとは知りませんでしたが……あとで違約金を徴収せねば!』
「世知辛いな、神界」
つまりは、この端末はアルカディアが創ったアルカディア星のアルカディアフォンなのだ。ややこしい。
つまりは、この端末はアルフォンなのだ。とても簡潔になった。
「じゃあユズハ。端末で連絡が取り合えるように出来るか?」
「うん!じゃあ、端末にログインして『ふってふってサンシャイン』ってところをタップしてね!」
「サンシャインいるか!?」
「うん、それは私も兼ねてから思っていたよ……!」
「何でだろうな……とりあえず、ほい」
「おー、サツキのアルフォン情報きたー!登録しとくね!」
「はいよー。俺もしとく」
画面に『ユズハ』と表示される。
そして何かメッセージを受信した。
【とうろくできたよやつたー】
朔月の頭の上にハテナマークが出た。
そして朔月は、あぁそうかと思い返す。
柚羽も機械が苦手だった。
つまり、ユズハは【登録出来たよ、やったー】と送りたかったのだろう。
散々柚羽のメッセージの解読を行ってきたため、どんなに暗号のように難解な文章だろうと解読できる朔月である。
こんなことにすら懐かしみを憶えて少し淋しくなるが、そのあとのユズハの「登録出来たよやったー!って送ったんだけど届いた?私機械音痴だから!」という台詞で全てが吹っ飛んだ。
「解読得意だから大丈夫」
「じゃあ、また色々送っても、へーきだねっ!」
えへへ、と向日葵のように真っ直ぐ、温かく笑顔が咲き誇る。
その笑顔に、朔月は――――柚羽の幻影を見た。
元々同じ姿なのに、そんな所まで同じだったら――――
「ゆず、は……お願いだから、戻ってきて……逢いたいよ……」
「サ、ツキ……?」
そのままに、幻想が、現実に思えて。
サツキは、ユズハを抱きしめた。
「柚羽……柚羽……っ……」
大人になって、静かに泣くことはあっても、泣きじゃくりはしなかった。柚羽が悲しむ気がして。
でももう無理だ。我慢出来ない。
サツキはしばらく、ユズハの胸の中で涙を流し続けた。
「…………」
その間、ユズハは何も言わずに……ただ、サツキの頭を撫でてやっていた。
「ごめん……取り乱した」
宿へ向かう最中、朔月は先程のことを陳謝した。
「いーよいーよ、私だって、そういうことあるもん。……私とその子、そんな似てるんだ?」
「そりゃもう……同一人物かってぐらい」
「あはは、こっちもそうだよー」
そういえば、ユズハも朔月に似ている人を亡くしたと言っていたな。そう朔月は思い出す。
「俺に似てるってヤツはさ……どうして、いなくなってしまったんだ……?……ごめん、嫌な事思い出させる質問して」
自分がこんな質問されたら嫌だな、と言ってから思い返す。
「……んとね……あ!サツキ、宿見えたよ!久々の宿♪」
「お、おう……」
話し始めたところで宿に到着した。
宿には従業員も居て、とてもゲームの中とは思えなかった。
「いらっしゃいませぇ〜、一室しか空いていないのですがよろしいでしょうかぁ〜」
「はい、大丈夫です」
「はい……って、いいのか!?」
「何か不都合なことあったっけ?」
「いえ、無いです……」
忘れられない彼女がいる身で、忘れられない彼女と同じ姿の女の子と同じ部屋に泊まる。
これは果たしてどうなのだろうか。
朔月は色々考えたが、最終的に一つの結論に至った。
別に何かやましいことがある訳でも無いし、ここは異世界なのだから仕方が無い……と。
それでも柚羽への罪悪感はあったので、部屋にあった襖を仕切りにし、朔月は一番隅っこで寝ることにした。
「サツキー、私温泉入ってくるけどサツキも行くー?」
この世界にも温泉があるのか。
「あー、後で行く」
入浴セットらしきものを用意して、いそいそと部屋を出ていくユズハを見送った朔月は、敷いた布団にぼふん、と倒れ込むようにして寝転んだ。
「……本当に、柚羽に逢えるかな」
「……本当に、夢じゃないのかな」
「……本当なら……早く逢いたい」
一人になった瞬間に、独り言が次々と出てくる。
これからどんな苦難があろうと、柚羽に逢いたいという強い想いは無くさない自信がある朔月だった。
『サツキ、サツキ。』
「……ん、なんだ、アル」
『この宿、何かおかしいです。この辺りにはいるはずの無い超弩級レアモンスターの気配がしますし。そもそもここには宿なんて無かったはずですし……』
「何でそれをもっと早く言わない!?」
『だ、だってサツキ泣いてて……ユズハと話してて!言い出そうにも出ていけない雰囲気が出てたんですもん!』
「……それは忘れてくれ……大人にもなってお恥ずかしい所をお見せした。……ってそうじゃなくて!ユズハは……っ無事か!?」
『っサツキ!温泉の方に危ない気配が!』
「……くそっ、ユズハ!」
部屋から出ると、そこは霧に包まれていた。
サツキでも異様な空気が感じ取れる。
だが、臆せず走る。
ただ、ユズハを失わないために。
「はぁっ、はぁっ……ここか、温泉……」
ガラリ、と勢いよく扉を開ける。
「きゃあぁぁぁっ!?」
「っユズハ!?」
そこに見えたものは……白くしなやかな肢体と、紅潮した頬。
そして。
一糸纏わぬ華奢で可憐な少女の姿があった。
少女はあたふたとタオルを巻く。
「さ……っさつきくん!?どうしてここに……っあ、サツキか……!って、それにしても何でなんでナンデ!!」
「……っご、ごめんっ!でも、危ない気配がするって……」
「ちょ、ほんとに!?……待って、着替えるからあっち向いてて……?」
「ほんとごめん!」
芦屋朔月は思い出す。
こんな事が現実世界でもあったなぁ、と。
柚羽の白い肌に紅の所有印を……これ以上いけない。
そうだ、こんなことを考えている暇は無かった。
「アル、今、気配は?」
『近いです……っ来ます!』
「……何だ、こいつ……!」
サツキの前に現れたのは―――10メートル近くある、巨大なモンスターだった。
『サツキ!剣を抜いてください!あれは超弩級モンスター、ハリケーン・ラリゴです!』
「分かってるよ……っかかってこい、こらぁ!」
刹那、強風が起こる。
「うおっ……!ハリケーン……ってこういう事かよ……!」
モンスターが風を纏いながら襲いかかる。
カキィン。カキィン。カキーーーーン!
「くっそ、硬いな……!」
「サツキッ!がんばれえぇぇぇ!私も今から行くーっ!」
「ユズハ……!よっし!」
『サツキ、思い浮かべてください。あの鱗を打ち砕く剣を。それは異世界剣となります!そして、特大攻撃です!』
サツキは思い浮かべる。
あの鱗を打ち砕く剣を。
そして。
「ヴァリーソード・ラリゴシューターッ!」
軽やかに風に乗って、モンスターの頭上に降り立つ。
「スキル……発動おおおおおおっ!!」
頂からモンスターに剣を突き刺す。
極限まで計算された剣は、硬い鱗を打ち砕く。
そして、モンスターは結晶と化した。
「……やった、のか……?」
『はい!超弩級レアモンスターを倒しましたよ、サツキ!』
「ふぅ……」
このとき、サツキも……神でさえも。
レアモンスターを倒した達成感に感覚を奪われ、周りのことに気が回っていなかった。
そして見えていなかった。
―――背後にある、黒い影が。
「サツキーッ、援護するよ……って、えぇっ、もう倒しちゃったの!?すっごーい!」
「お、ユズハ!」
「やっぱりサツキはすごいね!君は……」
刹那、黒一色を身に纏う怪しい影が――――――
「……君は、私のヒーローだね……」
――――――ユズハを剣で、貫いた。
「……ユズハっ!」
「ふぇ……?」
黒ずくめの男は、そのまま走り去っていく。
「……っ待て!」
サツキは追いかけようとして……後ろから引っ張られた。
「……さつきくん、いっちゃ、やだ……」
「ゆず、は……?」
「……ごめ……ね、さつきくん……また……さきに……」
「柚……ユズハ、しっかりしろよ……!」
「さつきくん……だい……すき……」
「……ゆず……、柚羽、なぁ……しっかりしろよ……!」
ユズハは安らかな表情のまま……消えていった。
サツキは、大事な人を二度失った。
「あぁ……あ……ああああぁぁぁあっ!!!」
サツキの怒号と咆吼が響く。
「おまええええええええっ!!!」
先ほどの光景を全て立ち止まって見ていた黒ずくめの男に、
『太陽剣』で思い切り斬りかかる。
が、それは白刃取りのような動作で止められる。
「……名だたる剣も持ち主が腑抜けだと、なまくらと大差ないな」
「なに……っ!?」
「……気が付かなかったか?もう既に、お前は斬られている」
「……ごぷっ……」
「……何てことは無いな」
「……ユズ、ハ……必ず……俺が……」
ーーー男は、サツキが力尽きたのを確認すると。
「俺が殺してやったんだ……ニセモノのユズハを……ニセモノの……この俺を……俺が、消える前に」
そう呟いて、男は------------消失した。
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アルカディアは世界を再構築する。
ある時点から、起こった全ての事象をリセット。
『次こそは……幸せになれますように』
そしてまた始めよう。
とある女神の恋を守る旅を。
とある者の恋人を救う旅を。
とある男の果てなき恋物語を。
そして、世界は再構築されていく。