決死の作戦
「……見つけた! 見つけたぞ!!」
犇く森滝の中心地で、天馬の声が反響する。
鈴が子供二人を連れて家出してから二週間。城を南下した所にある城下町、さらに奥へ進んだ場所にある港でも、鈴達を発見できていなかったため、三十士の一人である天馬は逆方向の犇く森滝の捜索を任されていた。森を調べるにあたって、捜索が難航することは予め分かっていたために、天馬は百人規模の部下を連れていった。
三十士は元々、犇く森滝を捜索対象に入れていなかった。何故ならあの場所が人が住むことなどできない過酷な環境であることを知っていたからである。それほどの地に、赤ん坊を二人も連れた女性が逃げ込んでいるとは思いもしなかった。しかし、いくら南下の捜索を続けても鈴は見つからない。天馬は鈴達の死を考慮しつつ、犇く森滝の捜索を買って出たのだ。
捜索開始から二週間、森の中心地と思われる場所で天馬は三人を発見した。天馬の大声に反応して部下達が駆け寄る。そこには森の環境に完全に適応していた鈴と市夜がいた。
「なんてことだ! 無事であられるのか?」
「本当に鈴様だ! 城を出て一ヶ月も、こんなところに潜んでいたというのか!」
兵士達は当然のことながら驚きの言葉を口々にしている。
「ま、まさか本当にここにいたとは……。鈴様!! あなたはご自分が何をなさっているのか分かっているのですか!! 王も心配しております、すぐに城へ戻りましょう!」
同じく驚いていた天馬だが、すぐに我に帰り自分の指令を思い出す。鈴のもとまで走り、彼女の腕を掴むとそう言った。
ガシッッ!!
鈴を掴んでいる腕を、横から市夜が掴んだ。市夜は無言で天馬を睨みつけている。
「なんだ貴様は! この手を離せ!!」
市夜に向かってそう怒鳴りつけるが、ビクともしない。天馬は鈴を掴んでいない方の手で剣を抜いた。
「待って!! 行くわ、城に戻ります。私達を城まで連れて行って!」
鈴はそう叫び、この場を鎮静させた。市夜と天馬は未だ睨み合っている。
「……お前ら、鈴様をお連れしろ。」
天馬は剣を収め、部下達に命令した。
「ところで鈴様、市夜様はどちらに?」
「……あなたの目の前にいるわよ」
??
(予定より少し早かったけど、市夜は戦えるレベルまで仕上がった。後は祈るのみ……)
鈴は深く目を閉じた。
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天馬は三人を連れて、玉座に到着した。
「蹂我様! 鈴様をお連れしました! 」
玉座の間の中央には、蹂我が鎮座している。側には三十士の二人が武器を構えていた。
鈴とは一ヶ月ぶりに会うが、蹂我は目もくれずに言った。
「……市夜はどこだ?」
「……それが……」
天馬は鈴の隣に立つ青年に視線を移す。
すかさず鈴が叫ぶ。
「この子があなたの息子よ! 聖水を飲ませたわ、あなたを倒すために!!」
「なんだとっ!? まさかお前、ガイアの聖水を盗んだのか!! 息子を連れ逃亡するだけでなく、家宝を盗みそれを市夜に飲ませていたと言うのか!!」
蹂我の怒りはピークに達している。
「そうよ! それもこれも全て娘を救うため! 市夜にあなたを倒してもらって礼奈を救うことが私の目的!!」
「ふざけるなっ!!!」
寝室で絶望に打ちひしがれていた鈴が閃いた作戦がまさにこれであった。南波家に伝わる掟、『南京錠』を利用した作戦である。
1.南波の夫婦間に産まれてくる子は、一人に制限すること
2.後継者が現王を力で屈服させた時、王位継承を正式に認めること
3.特例として、王は一度だけ南京錠の変更を可能とする
正当後継者である市夜が、現王である蹂我を倒せばその瞬間王位継承が行われ、そして市夜は南京錠の内容を変更する権利を得る。王になった市夜が、子供を一人に制限する掟を変更すれば、礼奈は助かるという算段である。
この作戦を実行するために、鈴は市夜を連れて逃亡し、時間を稼いでいたのだ。
「何もふざけてなんかいないわ! あなたが遵守する掟に従ったまでよ! 市夜があなたを倒せば、礼奈は助かるの!!」
「……」
鈴の言っていることは筋が通っているため、蹂我を含め部下達も何も言えないでいた。
「蹂我様……」
三十士は蹂我の行動を伺っている。
「……分かった、掟に従おう。市夜、お前の王位継承をかけて私と勝負だ!」
そう言いながら蹂我はゆっくりと立ち上がった。
それを見た市夜は戦闘体制に入る。
今まさに、一人の赤ん坊の生存をかけた親子喧嘩が始まろうとしていた!!