極限の逃亡
少し時間がとびます( ̄∀ ̄)
玉座は騒然としている。
「鈴を探せっ! 市夜が連れ去られた!! 絶対に見つけ出すんだ、市夜は私の後継者になる男だぞ!!」
蹂我の怒号が響き渡る。
息子を抱かせて欲しいと鈴に言われ、市夜を引き渡してから数時間がたった。鈴が戻ってこないので使いを向かわした所、寝室には誰一人としていなかったのだ。妹の方すらも、誰一人と。
蹂我はすぐさま鈴が息子達を連れて家出したという現状に気付き、部下を妻の捜索に走らせた。
「遠矢 ! 今すぐ二人を集めろ! 三十士で鈴を探し出し、第一に息子の安全を確保しろ! 娘の方はどうでもいい、いいか? 市夜の安全を最優先するんだ!」
側近の一人である遠矢を呼びつけ、一刻も早く市夜を連れ戻すよう命令する。
「はっ! 直ちに御子息を連れ戻します!!」
遠矢は数十人の部下を連れ、玉座を後にした。
ーー犇く森滝ーー
南波城から北に500レート進んだ所に位置する広大な森
上方から見ると、木々がまるで迷路のように入り組んだ構造になっている森林地帯
地図も持たずこの森に入れば、二度と出口には辿り着けないと言われている迷いの森である
市夜と礼奈を連れて家出した鈴は、すでに南波家の敷地を出て、この森に足を踏み入れていた。
途中、門番や従者に見つからないように予め調べておいた城の抜け道を通ってここまで来たのである。 土地勘のない鈴は城を抜けた後、兎に角真っ直ぐに進み距離を稼いだ。
森の入り口まできた二人は一旦側にあった丸太に腰を下ろす。
「すぅー……すー……」
礼奈は鈴の腕の中で静かに眠っている。
「……しばらくはここを拠点にするわ、最低限の食料と生活に必要な道具は持ってきた。あとはあの人と戦えるレベルに成長するまで、ここで時間を稼ぐ!」
鈴は一夜に言い聞かせるようにそう言った。
「早速修行よ、市夜! あなたは見様見真似でなんでもできるようになる。まずは私の『型』を見ていてね。」
鈴には武の心得があった。出身が武道を習慣とする地であり、幼き頃から父にしごかれていたのだ。
内輪で行われた武闘大会においても、彼女は好成績を収めている程の実力者である。相手が一般の成人男性だとしても、一対一の勝負であるなら鈴は圧倒できるだろう。
鈴は市夜の目の前で流れるような型を見せる。
すると市夜は、そっくりそのまま真似してみせたのだ。
市夜は相手の行動を目にすると、その通りに動く。
城を出る直前、立ち上がることもできない市夜を前にどうしようもなく焦っていた鈴は、市夜の目の前でうずくまってから立ち上がる仕草をしてみせた。
会話はまだできないが、行動は見て取れる。
体で起こすアクションは、意味を伝える必要がなく相手の目に直接焼きつくのだ。生まれたばかりではあるが、体(脳)は大人であることを利用できるのではないか。
そう考えた鈴は、市夜の目の前で何度も立ち上がる仕草をした。
思った通り、鈴の一連の行動を見ていた市夜は真似をするようにその場で立ち上がった。後は簡単である。鈴は市夜の周りを走り回って、走るという行動を真似させた。そうしてこの森にまで、礼奈を抱きかかえながら走ってきたのだ。
(……言語はゆっくり覚えていけばいい、今はとにかく戦いの基礎を教えよう。)
鈴はそう考えながら型をやり続ける。
犇く森滝は縦50000、横70000レートもある広大な面積の森林地帯。この中から三人をノーヒントで見つけ出すとなると、相当の労力が必要となる。そもそもこの三人がこの森に逃げ込んだという情報すらない状況であったため、三十士は鈴達を見つけられないでいた。
……そして一ヶ月の時が過ぎた。