双子の誕生
「……おぎゃあ……おぎゃぁぁ!!」
二つの産声が寝室をこだまする。
「鈴様! おめでとうございます! 元気な双子の兄妹ですよ!」
助産師は取り上げた双子を抱えこちらに見せた。
しかし赤子をみた母親の表情は安堵でも、疲労困憊したものでもなく真っ青に血の気が引いている。
「ま、まさかとは思っていたけれど、本当に双子だなんて……隠してっ!! 早くその子をどこかに隠すのよっ!!」
そう言って鈴は最後の力を振り絞るかのように妹の方を指差した。助産師は今起きている状況が理解できていない様子で戸惑っていると、部屋の扉が乱暴に開けられた。
「赤子の声が聞こえた、息子は無事産まれたのか?」
そう言いながら男は助産師に近付いていく。
「はい、蹂我様。ご覧ください、双子の赤ん坊です。」
リンに見せたように助産師は父親に双子を見せる。
「双子だと!? 鈴、これはどうゆうことだ? 南波家に産まれる子は男1人のみ、おまえもこの掟は知っているはずだ。」
蹂我は鈴の方を睨みつけると、
「まあよい、市夜は俺が預かる。もう1人の処分は任せた。」
そう言って助産師から男の子を取り上げ、部屋を出て行く。未だに状況が分からない助産師はただただそこに立ち止まっているだけであった。
「ごめんね、ごめんね」
鈴はか細い声でそうつぶやき、力尽きるように眠ってしまった。
エルジュ、ワイド、バンク、カジカ
世界は4つのコミュニティーで形成されていた。カジカは4大陸の中で最大規模のコミュニティーであり、広大な土地に多数の人口を抱えている。
南波家はカジカを代表する王族である。
カジカコミュニティーが設立される時代から王家は存在し、代々南波家の頭領がコミュニティーを様々な方面から成長させてきた。そんな南波家に由々しき事態が起きてしまった。
南波9代目にして、双子の誕生である。
カジカコミュニティーは元々、南波と北海の同盟から設立された団体であった。そのトップ2がコミュニティーをここまでの大規模なものに仕立て上げたのだ。しかし、北海家は王位争奪戦の内部破滅によって2代にして滅んでしまった。6人の兄弟が、それぞれ自分が後継者であることを主張し戦争を引き起こしたのだ。
結果、勢力は分裂して相打ち。
南波家を巻き込む程の戦争へ発展してしまった。当時その有様を見て学んだ南波の人間は、後継者争いを防ぐために産まれてくる子を1人に制限するとゆう絶対の掟を作った。
「南京錠」
南波家に代々伝わる三つの錠
そのうちの一つがこれである
以来、掟は破られることなく南波の夫婦間に産まれる子は1人に制限されていたのだ。
「あの人は掟に従って、絶対にこの子を処分しようとする……産まれて間もない、なんの罪もないこの子を……」
しばらくして体力が回復した鈴は寝室で目を覚ましていた。そして今もなお、名前もまだ無い自分の娘を抱き抱え泣いていた。
「なんとかしてこの子を生かしてあけだい、でもこの屋敷に私の味方をしてくれる人は1人もいない。」
鈴は娘が生存する可能性のある方法をなんとか模索するが、南波に嫁ぎにきた自分の状況では絶望的であった。
「もう、この子を見捨てるしか……ごめんね、私じゃあなたを救えない……」
「……っ!!?」
諦めかけていたそのとき、鈴は目の前にある彫刻を見て思い出す、南波家の伝説が象られたそれを見て……
「……これしかないわ」
鈴は覚悟を決めた顔で、娘をその場に残し寝室を出た。