4話
カリエマの駆け出し冒険者を探す為、三人はダンジョンの中で捜索を始める。
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「これは…」
3日程歩き回り俺達の探し物は遂に見つけられたが、そこで見た光景は酷いものだった。
2メートル程は有るだろう馬頭の魔物が、冒険者だった物を食べていた。
俺はあまりの光景に直視出来ず、こみ上げてくる物を我慢する。
「おい、あっち二人はまだ生きてねぇか?動いてんぞ。」
視線を移せば、確かにまだ生きている二人が壁にもたれ掛かる形に並んでいた。
「…ここは私が囮になりますので、お二人は救出をお願いします。」
意を決したかのように、筋肉さんが提案する。
しかしよく見れば足を潰されているようで、二人を担いで逃げるのは難しい様に思える。
魔物が殆ど居ないせいで、筋肉さんの強さがあまり分からない。あっさりやられて、馬頭の魔物に俺達も襲われる可能性もある。
「あの魔物は倒せないのか?担いで逃げられる様には見えないが…」
「あれはここで言う中層の魔物で、私には荷が重すぎます。」
「シクオさんだけなら勝てないかも知れないが、今は三人だ。可能性の高い選択肢を取ろう。」
「つまりあれだ、あいつらを助けるなら、あの馬野郎をぶっ飛ばずしかないんだろ。単純でいいじゃねぇか。」
「…分かりました。」
ゲームの様に強さの物差しが見えない怖さを実感する。
それでもここで彼らを見捨てる選択肢はコーンも俺にも無かった。目の前の彼らを救えずに、まだ見ぬ杏子を救える訳がない。
「よし、覚悟は決めた。シクオさんにも無理はさせない。隙が出来たら彼らを担いで逃げてくれてもいい。」
「見損なわないでください。私も神に仕える身。なんとしても全員生きて戻りましょう。」
「いっちょやるか。燃えてきたぜぇ。」
両手で頬をパンと叩き意識を高める。
筋肉さんはメイス?鉄の棒の先に鉄球が付いた武器と丸い盾と構える。
俺達も剣を抜き、それぞれ囲む様にゆっくり近づく。
位置も決まった所で、筋肉さんが盾にメイスを打ち付け馬頭の魔物の注意を引く。
筋肉ドラミングと命名しておいた。
馬頭の魔物はナタを手に取り、筋肉さんの元へ駆け出す。
直後、俺とコーンは同時に両脇から飛び出し渾身の一撃で斬りかかる。
致命には至らず、足と腕に僅かながら刃を食い込ませた後、後退。
馬頭の魔物が振り向いた隙に、筋肉さんがメイスを足に一撃。反撃の前蹴りを盾で受け止め、土煙を舞わせながら押し込まれる。
「くぅ~かてぇな。腕が痺れちまった」
「屈んでた時の予想より、だいぶデカく見えるな。3メートル近いんじゃないかこいつ。」
「でもよ、思ったよりだな。」
「そう…だな、案外イケる気がする。」
手応えを感じながらも、攻防の応酬を3人それぞれ息を合わせながら続け、馬頭の魔物を追い込む。
「油断は禁物です!」
そう気を引き締める筋肉さん。筋肉も一層引き締まっているのだろう。
実際の所、馬頭の魔物の一撃を貰えば、盾を持たない俺やコーンはただじゃすまない。
蹴りや尻尾の払いは兎も角、ナタの一撃を受けて生きていられる保証はない。
今回、筋肉さんが居なかったら勝ち目はなかっただろうなと、肉壁さん…じゃない、筋肉さんを盾に使う。
この戦いが始まってどれほど時間が経っただろうか。
恐らく10分も経っていないが、体感的は物凄く長い。
この世界に来て、コーンとの訓練であったり、森の魔物との訓練であったり、前の世界では体験する事の無かった、戦う事を積み重ねて来た。と思っていた。
しかしそれらは十分に安全な状況で、安全な戦いで、実戦とは程遠い物だったと確信した。
そして今、この馬頭の魔物との戦いは安全ではない戦いで、本物の戦いだ。コーンも恐らく感じているだろう。
この恐怖と圧力によって襲いかかる感覚を。
「そろそろだな」
「俺に任せろ、必殺技を決めてやるぜ」
そんな必殺技は無い。そう心の中で突っ込むのもつかの間、掛け声と共に大きく振りかぶった剣を、しゃがみ込んだ馬頭の魔物の頭目掛けて振り下ろす。
が、左手で防がれ、右手に持ったナタがバランスを崩したコーン目掛けて襲いかかる。
「コーン!」
咄嗟に突き出した左手は、コーンの肩を押しやる。
同時に熱い衝撃を受ける。
俺の左手は俺を離れ、コーンの肩からぽとりと落ちる。
熱いのか痛いのか判断出来ない感覚が左手首に襲いかかり、声を我慢出来ない。
「てめぇ、この馬やろう!」
と、コーンが再び剣を振るいトドメを刺し、戦いに幕を下ろした。
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筋肉さんが止血の包帯を巻いてくれ、痛み止めの薬を貰った。
まだズキズキと痛むが、痛みが気を保たせてくれている。
治癒の魔法は?と聞くと私は魔法なんて使えませんと。
そういえばこの世界で魔法を見てない。ファンタジーのくせに…なんてことだ。
魔法は希少ではあるが存在する事。
部位欠損も治癒の奇跡という祈りで治す方法がある事。
治癒の奇跡は要人かよほどの伝手がない限り、受ける事は出来ない事を教えて貰った。
「すまねぇ…すまねぇ…」
コーンが治療中ずっと念仏の様に泣きながら俺に言ってくる。
今はまだ左手を失くした事の実感が湧いてこないが、あの時動かなかったら、コーンは死んでいただろう。
コーンと俺の左手を天秤に掛けるまでもない。これでよかったんだよ。
「気にするな、相棒…なんだろ?」
「コーヘー…」
涙と鼻水でぐちゃぐちゃの残念イケメンを胸に受け止た。
落ち着いた所で息のある二人の様子を伺う。
筋肉さんが一足先に状態を確認しており、あまり動かせる状態ではないが、このままにする訳にも行かず、コーンと筋肉さんが背負って行く事に。
俺は馬頭の魔物の餌食になってしまった、二人の遺品を探し懐にしまった。
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「左手の事は…残念ですが、お二方とも想像以上でした。随分と励まれてきたのですね。」
「えぇ…まぁ…」
このザマなので修行を抜け出して来たとは言えない。自業自得である。
ダンジョンを出ると日が高く登り、日差しで目が眩む。
そして眩んだ頭で天地がひっくり返った。
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左手を失ったあの日から1年が経ち5月、俺達はまだウィエダに逗留していた。
あの日、出血と痛みと疲労の三重苦から意識を失い、その後町の人にも手伝ってもらい宿に運び込まれたらしい。
一度ドエル村に戻ろうかという話しも出たが、修行を放棄した挙句、左手を失う失態を先生には見せられなかった。
そして今ここウィエダで、野外依頼を専門に受ける冒険者として、町に受け入れて貰っている。
ダンジョンにはあれ以来、一度も入っていない。
理由はコーンの負い目もあるかも知れないが、単純に低層の魔物が居ないからだ。
杏子を探しに行かず、ウィエダに留まっていた理由は、治療を受けている間に雪に閉ざされてしまい、身動きが取れなかったのと、リハビリを兼ねて森で依頼と並行し訓練をしていた為。
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「コーン、これか?」
「それは毒草だって前にも言ったろ?葉の形がちげぇんだ」
森の中の採取依頼は専らコーン頼みだ。都会っ子だし森の歩き方なんて分からなくても仕方ない。
その点コーンは村での経験から、森の事は大体知ってる。若い娘と遊んでただけじゃなかった。
「だいぶ動きも良くなったな!」
「ああ、両手で握れない分、振り回される感覚もあるけど、それも掴んできた。」
失って初めて気づく、その大切さ。
これが利き手だったらと思うとゾッとする程の不便さだった。
失って気づく…か。杏子を失って、俺は今…
「いいや、まだ失ってない。必ず見つけだすと決めたんだ。」
「なんだいきなり?」
心の声が漏れていた。
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「さて、コーン君。そろそろ次に向かっても良い頃合いと思うが如何かね?」
「へぇ旦那様。次はどこが宜しいですかね?」
小芝居を挟みつつ、次の目的地を探す。ここウィエダから近い所で候補は二つ。
南にあるダンジョン、ウィコンティ。
北西にある都市、カリエマ。
「カリエマは都市ってだけに、人の出入りも多い。情報も集まるかも知れねぇ。」
「ウィコンティのダンジョンは難易度高めだし、成功した時は大きいぜ。」
左手を失った今、戦いに関しては不安がまだ残る。
今は情報を優先したい。
俺達はカリエマへの出発を決め、お世話になった町の人達に挨拶をして周り、定期馬車に乗ってカリエマへと向かった。




