飴細工
「彩希さん、ちょっといいですか?」
デザートのクリームブリュレを冷蔵庫に冷やそうとしていたら遊ちゃんに声をかけられた。
「はい。ちょっと待ってね。」使った器具を片付けてから、「どうした?ちょっと顔色悪いね?」確かに遊ちゃんの顔は少し青かった。…女の子の日か?
「彩希さん、私の夢の事どう思います?」
夢って……「飴細工職人?」 「それです。ちょっと親からお小言入りまして…」 「?遊ちゃん成人してるよね?バイトで生計たててても親に世話してもらってないって言ってたよね?」 「そうなんです!聞いて下さい!ウチは放任主義の家なんで、世間様から後ろ指指されなくて、警察のお世話にならないなら自由にしていいよ、って言ってた両親なんですが」うんうん。確かに最初に面接でもそれっぽい事言ってたよね。
「次のバイトの休みにお見合いする事になりまして……」 はぁ? 「え。遊ちゃん22才だよね?私くらいの年ならお見合いとかわかるけど、わざわざしなくても、彼氏とかいるんじゃないの?」 「そうそう、彩希ならわかるけど。」 うっさい"みえ"!「なんか、おばぁちゃんがひ孫の顔が見たいとか言ってるそうです。 …というか、親戚に対する牽制?」
とりあえず、遊ちゃんを空いているカウンターに促し、コーヒーを2つ持って恭ちゃんに休憩先に入ると告げる。 「2人一緒は珍しいですね。 …後で教えて下さいね。」相変わらずのイケボで微笑しながらホールに去る恭ちゃん。 うん。恭ちゃんファンはぜひ今来店してね。 変な念を送りつつ、遊ちゃんの横に座る。 「で。遊ちゃんはお見合い嫌なの?」 「というか、知ってる相手なのですよ。幼なじみ。もう、今さらお見合いって何ってくらい知り合ってる相手なんですが……ぶっちゃけ、相手が金持ちなんですよね。で、うちの親戚、色気出しちゃって。もう、同い年のいとこがいるのですが、曰く、「遊ちゃんよりも、うちの美紀の方がお嫁さんにするのはオススメ!」 だ、そうで。」なんじゃそりゃ。「曰く、「アメリカ縦断とか、飴細工職人とか安定しない未来を夢見る夢子さんよりは、家事手伝いの美紀の方ご断然お似合い」 だそうです。 ただね。幼なじみ、家事手伝いってのが大嫌いで。 偏見も入ってるんですが、「健康な大人が家の手伝い」でいるのは、遊んでるように見えるそうです。 まぁ、実際、美紀に関しては、その通りなのですが。」