最後の晩餐
「最後の晩餐になに食べたいと思う?」 客席から聞こえる声に耳を傾ける。 学生っぽい女の子2人が本日のランチを食べながら話し込んでいた。 因みに今日のランチはタンシチユーと根菜のサラダ、手作りロールパン。
「この前、テレビでもやってたよね。……そうだなぁ。一番好きな焼肉お腹いっぱい?」 「それって、フツー。もっと'これは!'みたいなんじゃないと。……最後の晩餐だよ?」
「空いたお皿お下げしますね。コーヒーお持ちしてもよろしいですか?」 遊ちゃんがチャッチャッと空いたお皿を回収していっている。学生2人は「はい」といいながら話に夢中。
「私、彼氏と付き合って長いじゃない?」 唐突に焼肉否定の子が、焼肉の子に言う。 「付き合って……そうだなぁ、5年ほど?高3からだからね。 就職して、何年か経ったら結婚も考えてるわけよ。」 「最後の晩餐との関係は?」 「あるよ?だって相手の事、好きじゃない?最後の最後。その瞬間って、一緒にいたいじゃない。」
「それは、やることであって、食べることじゃなくない?」ニヤリとしながら、焼肉の子。 「ふふ。性欲と食欲ってかなり近いよね?好きすぎたら、食べたくならない?……全部食べて、一緒になるの。……比喩じゃなくて物理的に一緒になれるんだから。」
そう言いながら微笑む焼肉否定のこの周りには"黒さん"ブンブン飛んで、霞むみたいに顔の周りが薄暗い。 あ、これはあんまりよろしくないなぁ、と、2人の前に試作していたチーズケーキを持って行く。
「お客様、こちら試作なのですが、評判が良かったらメニューに入れようと思っております。よろしかったら召し上がって、感想聞かせていただければ嬉しいのですが…」 因みに、チーズケーキですよ、苦手でなければどうぞ。 と言いながらさりげなく焼肉否定の子に近寄る。 すごい吸い込みで"黒さん"をいただき、満足気な顔をする"みえ" その間も2人の会話は続いている。 その顔は憑き物が落ちたように笑顔だ。
ケーキおいしかったです。 ぜひメニューにいれて下さい。 又、来ますね。 の声を営業スマイルで流しながら、"みえ"にどうだったか聞いてみる。 「うん。甘酸っぱくて、ピリッとしたよ? ピリッとがヒリヒリするくらいになってたら実行したかもね? でもまぁ、最後の晩餐ですから。 ……見つからないし、裁けないよね。」