06:揉みし記憶
気がつくと、外にいた。
「なんだ、これ……」
そこは一面の焼け野原。
俺の目の前、広がる瓦礫の山の真ん中にあの大剣がそびえ立っていた。
「う、ぐっ……!?」
立ち上がろうとして、全身の痛みに気がついた。
動かそうとする部位がどこもかしこもビキビキと軋む。
まるで全身が極度の筋肉痛になっているような感覚だ。
「勇者さま!」
金髪ロリ姫が駆け寄ってきた。
その後ろにはレザリーもいる。
二人とも無事だったのか。
「うぼふっ!」
金髪ロリ姫がそのまま抱きついてきたので変な声がでた。
「勇者さまっ!?」
「だ、大丈夫だ……」
痛い。まじ痛い。全身痛い。
「……さすがですね」
レザリーも金髪ロリ姫に遅れて俺のもとへ来ると、急に膝をついた。
……な、なんだ?
「貴方は本物の勇者様でした。これまでのご無礼を御許し下さい」
頭でも打ったのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。
「あれほどの魔族の軍勢をたった一振りで討ち滅ぼすなど、伝承にもないお力でございます」
レザリーが俺に本気で敬意を払っている。
……俺が魔族を倒した?
どういうことだ?
これは、俺がやったのか?
「勇者さま! やはりアナタは勇者さまでした!」
金髪ロリ姫が笑顔全開でぎゅーっと抱きついてくる。
あ、なんか幸せ……。痛いけど。
「私からも感謝致します。あの時、勇者様が姫様を守っていただかなければ、どうなっていたか……」
俺がこの金髪ロリ姫を守った……?
ズキン、と頭の奥が痛んだ。
奥底に沈んで消えかけていた記憶が急速に浮上してくる。
あの時、天井から巨大な魔族が現れて、金髪ロリ姫が吹っ飛ばされた。
俺はそれを助けようとして……。
そうだ。
全て思い出した。
この手に残る熱。
その確かな感触。
俺は、金髪ロリ姫の胸を揉んだんだ。
その瞬間に体の奥から何かが溢れてきた。
目の前には金髪ロリ姫を襲う魔族が迫っていて、俺はあの黒光りする巨大な聖剣を呼び寄せた。
かざした俺の左手に、聖剣が吸い寄せられるように飛んできた。
剣それ自体が意思を持った別の生き物のようにも、俺の力の一部のようにも感じられた。
とにかく、握る左手にその柄は良く馴染んだ。
俺は金髪ロリ姫を抱えたまま、片手でそれを振るう。
斬撃は目の前の魔族を七分割にして、その余波で部屋の外壁までも吹き飛ばした。
外には色んな形状の魔族が群れていた。
俺は金髪ロリ姫をレザリーに預けて、その群れに突っ込んだ。
まるで飛ぶような跳躍とともに、聖剣を一振り。
体の捻っての横薙ぎの一閃は巨大な竜巻のような衝撃波を起こして、魔族を一網打尽にした。
早送りみたいなその映像が終わる。
その結果が、この景色だ。
よく見れば瓦礫の中に、細切れの肉片と血飛沫が混じっている。
これが勇者の力……なのか?
「ありがとうございます。私の勇者さま……」
金髪ロリ姫が蕩けた顔で俺の胸に頬を寄せる。
レザリーもそれを穏やかな笑顔で見守る。
金髪ロリ姫はともかく、すごい手のひら返しっぷりだな。
まぁ、良いか。
なんか疲れた。
だんだん意識が遠くなる。
「勇者さま? 勇者さま!?」
「勇者様、しっかりして下さい! 」
とにもかくにも、どうやら俺は勇者として認められたらしい。
未だ全裸のままに。
まだ弱い。
本格的な無双はもうちょい先で。