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シャリア・レイファンス

 七番街の大道りまで来た。

 俺の手を握っているお姫様…このリアナス王国の王女様だ。国王アラン・レイファンスの一人娘シャリア・レイファンスだ。

 この国では王族の顔見せは、成人の十五歳の誕生日にされる。だから今シャリアが街中を出歩いても特に騒ぎになってないのだ。

 まぁ、王宮では姫様が脱走すると、毎回騎士団が騒ぐんだけどな。


「ねえ、レク」

「ん?」


 シャリアが指さす先には昼に買っていった「ハンズブレッド」の屋台があった。


「あぁ、お腹空いてるのか?」

「う~ん、少し?」

「…分かった、でも小さいやつだぞ」

「うん」


 店員に一番小さいサイズと普通のサイズを注文する。

 シャリアは何が面白いのか、店員の手さばきをじっと見つめている。


「はいよ、小さいけど味は補償するよ小さいお客様」

「ありがとう」


 シャリアが目を輝かせて見つめる。

 まぁ、お姫様には珍しいものかもしれないけど。


 さすがに歩きながら食べるのは、お姫様の教育上よろしくないだろう。

 中央広場から少し奥まった処にある細い路地に入ると、大きな木の前に木製のベンチがある。

 ここは俺の昼寝スポットの一つで、ほとんど人が来ないいい場所だ。


 ベンチに座り、紙袋の中から紙に包まれた二つのハンズブレッドを出し、小さい方を姫様に渡す。


「ねぇ、コレどうやって食べるの?」

「ん?あぁ、齧り付くんだよ」

 

 お手本にやって見せる。かぶりついた瞬間に、かすかなブレッドの甘みと肉のこってりとした味、野菜の新鮮な歯ごたえにそれらをまとめる甘酸っぱいソースが口いっぱいに広がる。

 シャリアも思い切って齧り付き、頬いっぱいに詰め込む…まるでリスみたいだ。


「どうだ、旨いか?」

「うん、美味しい!」


 美味しそうに食べるその横顔が、一瞬…ほんの一瞬アイツとダブった。



『さぁ、今度はこの女の子の頭の上にある林檎を、見事撃ち抜いてごらんに入れましょう!』


 踊り子の服を着た白髪褐色の可愛らしい女の子が、自分の頭の上に顔よりも小さい林檎を乗せている。

 ピエロ姿の男がナイフを構え、不可思議な踊りを踊りながらナイフを躊躇なく投げる。


「「「おぉぉ」」」


 ナイフが的確に林檎の中心に突き刺さると、観客が歓声と拍手を送る。

 ピエロの男は畳みかける様にさらにナイフを連続して投げ、その全てが見事に林檎に命中する。


『さぁ、見事なナイフ投げをしてくれたピエロと、その相棒の少女をもう一度大きな拍手を』

  

 会場からは割れんばかりの歓声と拍手が送られる。

 

 大きいテントから他の客に混じって出る。

 

「最後の、凄かったね!」

「そうだな、あの女の子シャリアと同い年ぐらいに見えたぞ」

「うん…本当に、凄かったね」


 姫様と雑談をしながら歩いていると、不意に視線を感じた。

 視線の方を目線だけで追うと、数人の黒いマントの如何にも怪しい連中が裏路地に入る所だった。

 明らかに怪しいから追いたい気持ちもあったが、流石にお姫様を連れて行くわけにも置いていくわけにもいかない。


 表通りから一本路地に入ると少し寂れていはるが、いろんな店が所狭しと軒を連ねている。

 服、装飾品、靴、雑貨、武器屋、防具屋、薬屋…本当にいろんな店がある。


 その店の中の一つにお姫様は興味を持ったようで、ガラス越しにジッとある物を見つめている。


「…」

「それが欲しいのか?」

「え?…ううん、ちょっと気になっただけ」


 それは一つのネックレスだった。特に他の物よりも装飾が綺麗な訳でもない普通の、銀のチェーンにハートの枠の装飾が付いているだけのネックレスだ。

 確かに仕事は丁寧で綺麗だけど…あれ?そういえば、どこかで見た覚えがあるような…あぁ、思い出した。


「う~ん、流石にいい仕事しているだけあって高いな」

「…なんかね、分かんないんだけど…懐かしい気がするの」

「懐かしい…ねぇ」



 街中を歩きまわって疲れたのか、眠そうな姫様を背負って帰りの王宮への坂道を歩く。

 眠気に勝てなくて俺の背中で静かな寝息を立てる。


 坂道を子供一人負ぶって歩くのは、流石に疲れるな。 


「まったく、呑気な顔して寝やがって。少し大きくなったか、重いんだよな」

「…女の子にそう言う事は言わないのがマナーよ」


 いつの間にか起きていたらしい姫様が、眠そうな声で反論する。


「ふん、大人振りやがって。まだまだ子供だろ」

「子供ね…私も十二歳なのよ。あと三年で正式な王位継承権が発生して、めでたく王女様になるのよ…しっかりもしますわ」

 

 そういえば、もうそんなに時間が経ったんだな。まだまだ子供だと思っていたのに、いつの間にか王女様になる年になっていたなんてな。 

 

「あと三年か…その頃にはおれもオッサンになっちまうな」

「何言ってるのよ、何時も髪ボサボサで髭剃らないからそう見えるのよ。もう少し身だしなみはしっかりしてくださいよね」

「別に良いだろ、姫様には関係ない事ですからね」


 しばらくは俺の歩く無機質な音だけが耳に届いた。


「ねぇ、レク。貴方、私の騎士になるつもりはない?勿論、昔の…」

「姫様…」


 姫様の言葉に重ねるようにして、少し強引に言葉を止める。

 

「…」

「さて、もう王宮が見えますし、起きたのなら自分で歩いてください。正直重いです」

「はぁ…はいはい、分かりました」

 


 王宮内を姫様を連れ立って歩くと、すれ違う人は全員姫様に会釈をする。

 姫様もその全てに笑顔で返す…流石お姫様と言う所か、俺には真似できないな。


「…レク、何かやらかしたの?」

「何の事でしょうか?」

「貴方、一部を除いて騎士団と大臣達に嫌われてるわよね?」

「そうですね…昔はヤンチャしていましたからね」


 そんな話をしていると、前から数人の騎士が歩いてくる。

 その一番前に居るのは白髪交じりの短髪に無精髭の、貫禄のあるおっさんだ。

 騎士団は傍に来ると恭しく礼をして話しかけてくる。


「これはこれは姫様、また街に降りていたのですか?」

「えぇ、ここは何かとつまらないですからね。それに、後学のためにも街を見るのは良い事でしょう?」

「そうでしょうが、流石に護衛も付けないで…」

「貴方の目は節穴かしら?ここに居るではないですか、立派な護衛が」


 おっさんの後ろに居る数人の騎士団員から睨まれているんだが…まぁ、何時もの事だし気にしない気にしない。

 

「はっはっはっ。そうですね、これは失礼しました。確かに、立派な護衛ですね」


 大きく笑いながら、俺の肩をバンバンと叩く。

 そして姫様に再度礼をしてから去っていく。


「あの人はお変わりないようだけど」

「まぁ、おっちゃん…ガルフ騎士団総隊長は昔からああいう人ですからね」


 角を曲がるまでの数秒、去っていく大きな背中を見送った。

 

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