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王宮裏門の門番

 空は青く澄み渡り、白い雲がゆっくりと流れていく。 

 白い立派な王宮の裏にある一本の木の根元で、大きなあくびをして寝っ転がっている男が居た。


「ふわぁ~~、良く寝た…」


 空を仰ぎ見るその黒い目は、どこか悲しげにも見える。

 スッと立ち上がり軽く伸びをすると、傍らの古い長剣を腰に差す。


「さて…腹減ったなぁ」


 空を仰ぎ見るとすでに日は高く上がっており、鳥の鳴き声に混じって城の方から掛け声や金属のぶつかり合う音が聞こえる。

  

 さっきまで寝ていた木の傍にある門から王宮の裏側に入る。

 こっちは主に使用人達の出入りや物資の運搬などの門で、王宮のほぼ裏側に位置しており殆ど人気が無い。


 門の傍に有る使用人室にノックすると、直ぐに中から一人の女の子が出て来る。

  

「は~い。あ、レク様おはようございます!」

「はぁ、様じゃないだろ?…あぁ、そうかお前は今日は夜番か。起こして悪かったな」

「いえいえ、いいんですよ。それでどうしたんですか?」


 女の子はレイラだ。レイラは茶色のポニテが特徴の元気な女の子で、この城の使用人の中でも結構人気がある…天然なのが玉に瑕だが。

 まぁ、今は寝起きなのか髪は解けていて少し寝癖があり、パジャマは際どく着崩れている。


「俺飯食ってくるから、ザイに門番頼んどいてくれないか?」

「はい、わかりました!」

「ちょい待ち」


 そのまま兵の宿舎に走って行こうとするレイラを、首根っこを掴んで止める。

 

「せめて着替えてから行けよな、そんな恰好で王宮内うろちょろしてるのシャルアに見つかったら大変だぞ」

「恰好?…あ」


 改めて自分の姿を見て、格好が酷い事に気づいたようだ。

 少し顔を赤くしながら慌てて着替えに戻る。


 この前も靴下を左右違うの履いてて使用人長のシャルアに怒られたばっかなのに、まったくもって天然と言う奴なんだろうな。


 数分もするとメイド服を着たレイラが出て来る。何時もながら着替えるとこんな奴でも、ピシッとするもんだな。


「それじゃあ、行ってきますね」

「おう、悪いな。今度何か奢ってやるよ」

「はい、楽しみにしてますね」


 そう言ってポニテを揺らしながら走っていく。



 街に降りて、七番街にある行きつけの定食屋に入る。

 この定食屋は安い・多い・美味いの三拍子そろっていて、さらに店員が皆可愛い女の子なので男の客で何時も賑わっている。


「お待ち道様、ミートスパゲッティとサラダね」

「…サラダは頼んで無いけど?」

「何時も野菜ないんじゃ栄養偏るよ?兵士さんなんだし、体調に気を付けないとダメですよ」


 そう言ってそそくさと別の客の注文を取りに行く。


「兵士…か」


 コートの胸で鈍く輝く銀色の兵証を触る。

 兵証はそのまんま、この国の兵士の証だ。任務中などは勿論のこと、非番の日でさえ常に衣服に着けていないといけない決まりだ。

 まぁ、俺の場合は他の兵士と違って、苦しい鎧を着てない分、身分を保証してくれる唯一の物だ。

 

 ボリュームたっぷりのスパゲッティと生野菜のサラダをもしゃもしゃと食べる。

 俺はこの生野菜があんまり好きになれない…だって、俺らは虫じゃあるまいし、調理すれば一層美味しく食べられるのに生で食う意味が分からない。

 酒も飲もうとしたが、流石に前にシャルアにバレてお説教喰らったから今日は止めとくか。


「ふぅ…食った食った」


 店を後にして、腹ごなしに適当に街をぶらつく。

 流石王都と言った所か、人の往来が多く活気に満ち溢れている。特にこの七番街はこの街の中心街だけあって特に活気がある。

 他の街からの行商がその街の特産などを売ったり、屋台からは香ばしい匂いが鼻をくすぐる。


「ハンズブレッドか…あいつらに駄賃代わりに勝って行ってやるか」


 屋台の一つに手ごろなものがあったので、三つほど買って行く。

 味はオーソドックスなノーマルにした。ノーマルはほんのり甘いブレッドで野菜や肉を挟んだもので、その名の通り手のひらサイズで食べやすく、特に女子に人気らしい。


 暖かい紙袋を片手に、少し遠回りをして街を見ながら王宮に戻る。

 最近は他種族の姿も結構見るようになった。これも王様の力と言う事だろう。

 でもまぁ、これに乗じて怪しい奴も入って来ているのだが…一応警告はしておくか。


♦ 


「せんぱい!!」


 門が見える所まで来ると、小さな影が叫びながら走ってくる。

 その小さな影は王宮兵士の正装たる軽鎧を身に着けている。しかし、兜は付けておらず短めのサラサラな茶髪が風に靡く。


「おぉ、ザイ…何怒ってるんだ?」

「何のことやら、みたいな顔しないでください!先輩のせいでしょうが!!」

「…あれか?寝起きのだらしない格好でも見られたのか」

「…」


 なぜか無言で槍を構える。いや、冗談だったんだけど…マジで当たってたのか。

 

 そのまま槍を俺の顔めがけて突き出してくる。その突きは鋭く的確に俺の眉間を狙ってくる。いや、これ当たったら俺死ぬんじゃないか?

 首を左右に傾けて槍を躱すが、直ぐに足元を払いにきたり胸を狙ったりと、左右所上に攻撃を散らしてくる。流石にこのまま付き合うのも面倒くさい。


 胸を狙った突きを先読みして体を逸らして躱して、懐に素早く入り込んでザイの頭めがけてチョップを軽めに振り下ろす。


「いって~~、何するんですか!」

「お前に言われたくないわ、殺す気か」

「俺ぐらいの攻撃なんて当たらないじゃないですか」

「そうだな、でもまぁ、少しは腕を上げたな」


 ザイが一瞬顔を綻ばせるが、直ぐにむすっとする。


「でも、俺に当てるにはまだ百万年早いんだよ」

「でしょうね」


 拗ねているザイにさっき買ったハンズブレッドを押し付ける。

 

「なんですかコレ?」

「駄賃代わりだよ。気を効かせて、レイラの分も一緒に入れといたから、仲良く分けろよ」

「べ、別に俺は…」


 待ったく面倒くさい奴だな。お前の態度見ればレイラに好意があるってバレバレだっつうのに。本人はばれてないと思ってるみたいだけど…


「あー、そうだ。おれはこれからようじがあったんだった」

「そ、そうか。そ、それならしょうがないな。俺が渡しといてやるよ」

 

 そう言ってさっさと走って行ってしまう、まったくもって世話の焼ける奴だよ。

 


 一応門番としての仕事をしている時に、不意に門の横にある通用口が開き女の子が出て来る。

 女の子はキョロキョロと周りを見て、忍び足でそのまま出て行こうとする。

 俺は軽くため息をつきながらも、女の子の首根っこを掴んで持ち上げる。

 

「何処に行こうとしてるんですか?」

「…散歩ですよさんぽ」


 俺の腕の先でぷらぷらと揺れている女の子は、悪びれもせずに言い放つ。

 金色のセミロングの髪がサラサラと風に揺れる。


 女の子の着ているのは何処にでもありそうな、普通の服だ。そう、七番街の安い服屋でも買えそうな服だ。まったく、何処からこんなもの手に入れるんだか…


「はぁ…じゃあ行きましょうか」

「…一緒に来るのですか?」


 少し不満そうな顔だ。まぁ、分からなくもないがこればっかりはしょうがない。


「それじゃあ、今すぐお部屋にお戻りになりますか?お姫様」

「しょうがないわね。レク、貴方の同伴を許可します」

「謹んでお受けいたします…んじゃ行くか」

「うん!」


 胸にある兵証を外して、通用口の脇にある石の上に置く。

 姫様が手を握って来るので軽く握り返す。まったく、こういう所はまだまだ子供だよな。

 

「今日は何処に行くんだ?」

「う~ん、十番街!」

「ダメだな、お前にはまだ早い。そうだな…七番街で芸をやってるところがあったな。今日はそこを見るか?」

「うん!」



 レク達が去った数分後に、荒々しく通用口が開けられ数人の騎士甲冑の男達が現れる。

 そのうちの一人が石の上の兵証を手に取る。


「隊長、またアイツと一緒に街に下りられたようです」

「そうか…」


 隊長と呼ばれた男はまだ若く、金色の髪を風に靡かせながらエメラルド色の瞳で静かに町の方を見下ろしている。


「まったく、姫様にも困ったものだ。あんな得体の知れない門番如きと一緒に行動されては…」

「あぁ、もしもの時、あの門番の首だけでは足りないぞ」

「だが、街を闇雲に探しても見つからないぞ」


 騎士甲冑の男達が口々に悪態をつく。


「(確かに、なぜあの男に姫は心を許されるのだろうか…)」


 隊長の囁きは風に流れて、誰の耳にも届かないのだった。


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