混乱
ある日、世界に災害が訪れた。津波が起こり、地震が地面を割る。それだけではない、未知なる生物『ザイグ』が現れ人々に恐怖を与えた。その原因は、世界を支える1つの柱だった。 その柱が、崩壊を起こしていたのだ。その柱は世界の命。その柱が壊れかけていた。けど、誰もその事に気付かない。気付いたときには、柱が完全に崩れる直前だった。誰もが絶望した。柱が壊れれば、世界の環境が狂い、世界自体が消えてしまう。
「終わりだ…」
誰かが呟いた。だが、突如柱が光の粒子を吹き出した。いや、違う。柱に光の粒子が入っていっていたのだ。誰もが呆然とする。当たり前だ、終わりを覚悟したのだから。けど、柱は壊れない。光の粒子が壊れた部分を光で修復している。誰もが呆然とする中、1人の男が柱に近付く。人々は気付いた。光の粒子がその男から出ていることを。男は人々の視線を受けながら、柱に触れた。すると、大地から木の枝が伸びてきて、柱を囲み、1本の木になった。。男は柱から手を離し、人々に言った。
「もう大丈夫だ。この柱はまだ持つ。俺が、この柱を支える。けど、1つだけ…俺が…俺の命で、この柱を支える。でも、いつまでも持つわけじゃない。この世界を壊そうとする者が出てくるかもしれない。きっと、ここを狙うと思うんだ。だからもし、世界に異変が起きたら、世界を壊そうとする者が出たのだと思ってほしい。その時が来たら、誰かが必ず助けてくれる。だから忘れないでほしい。人と言う存在がいるから、世界はある。人は、優しい心を持った種族なんだってことを。柱は、人々の優しい心が支えだから。だから、忘れないでくれ。優しい心を。世界の心を」
人々は男の言葉を聞き、泣きながら頷いた。男はその様子を見て、笑った。
「ありがとう。そして、さよなら。この柱を大切にね。この『命の木』を」
男は涙を流しながらも、笑顔でそう言った。赤い瞳で笑いながら、柱の中に消えていった。
それから、1000年後。『命の木』が誕生した日の夜、世界に6つの光の玉が散らばった。それから、3日後。世界に異変が起きた。未知な生物『ザイグ』が再び世界に現れたのだ。人々は言った。「1000年前の再来だ!」
世界は、同じ時代を繰り返す。この出来事は、いったい世界に何をもたらすのか。悲劇か、それとも平穏か…未来は、わからない。
第1章 知らされる事実
(…俺は…誰だ…ここは…何処だ…)
意識が朦朧とする。
(俺…)
「…ね…丈夫…ぇ…ず…てあ…」
誰かの声が聞こえる。
(…誰)
俺は確認する暇もなく、意識の奥深くに落ちた。
「…ここは…」
目が覚めたら、見知らぬ天上が見えた。
「…確か、俺…」
何が起きたのか、思い出そうとする。けど、何故だか思い出せない。思い出そうとすると、頭が痛む。
「…」
俺はとりあえず、起き上がった。
「ッ!?」
起き上がるとき、微かに体が痛んだ。見ると、体には包帯が巻いてあった。
「…?」
不思議に見ていると、部屋の扉が開いた。
「あ、起きたんだ。良かった」
入ってきたのは、オレンジ色の髪をした女の人だった。
「…?」
「びっくりしたよ。浜辺で傷だらけで倒れてるんだもん。一応軽く手当てはしといたんだけど、目を覚ますのか心配だったんだから」
オレンジ色の髪をした女の人の話を聞くかぎり、俺は倒れていたらしい。この包帯は、彼女がしてくれたみたいだ。
「ありがとう…」
「どういたしまして。私は、ユノン・リンリン。よろしくね」
明るい笑顔で当たり前に手を出すユノンさんの手を、握り返す。
「よろしく…」
「君、名前は?」
そう聞かれ、俺は考える。
「名前…」
けど、どうしても思い出せない。
「アレクシア」
別の低い声が、突然聞こえた。声がしたほうを向けば、黒い髪で青い目をした大きい男の人が立っていた。
「アレクシア・フォーレル。それが、お前の名だ」
「俺の…」
「アレクシア・フォーレル…よし、じゃあフォーちゃん!」
ユノンさんのより明るい声が響く。と言うか、フォーちゃん?
「あの、ユノンさん…」
「リンでいいよ、フォーちゃん♪」
「…リン、俺一応男なんだけど…」
「細かいことは気にしなーい」
細かいことなのか。
「で、リーちゃんも。ほらほら、早く」
「わかっている!わかっているから押すな!」
リンが、大きい男の人の背中を押して俺のところに連れてくる。
「はぁ…」
そして、早々にため息をつかれた。
「ウィリア。ウィリア・リーだ。これでも、一応精霊だ」
「えっと、ウィリアさん…」
「…何だ」
「身長、どれくらいあんの」
「…」
ウィリアさんがキョトンとする。
「165だが」
(…精霊が、165㎝あるのかな)
俺はそんなことを思った。
「驚きだよね。私も、精霊だって言われたときは疑ったよ」
「まあ、他の精霊とは違うからな」
「精霊なんて、リーちゃんしか知らないからわかんないや」
「だから、その呼び方は止めてくれ」
「リン、ここは何処?」
「あ、忘れてた。ここは、グランバル島だよ」
「グランバル島…」
聞き覚えがある島の名前。けど、やっぱり思い出せない。
「そう。でも、本当に驚いたよ。昨日変なことがあった次の日に、浜辺で人が倒れてるなんて」
「変なこと?」
「うん。6つの光の玉が、世界に落ちたんだ。あ、ここら辺にも落ちてきたんだよ」
6つの光の玉。それを聞いたら、何かが体の中で騒いだ。
(…気のせい、かな)
「どこら辺に落ちたか、わかるか?」
「うん、気になったから光の玉が落ちたところを調べたからバッチリ!」
「…あ、ウィリアさん。少し気になるんだけど。ウィリアさんは、どうして俺の名前を知ってるんだ?」
俺の言葉に、リンがキョトンとしていた。
「…」
ウィリアさんは答えてくれない。
「二人は、知り合いじゃないの?」
「…わからない。でも、俺はウィリアさんを知らない」
「………知り合いだ」
考え込んでいると、ウィリアさんがやっと口を開いた。
「知り合い?じゃあ、なんでフォーちゃんは知らないの?」
「フォーレルは何も知らない。いや、正確には覚えていないんだ」
「…」
ウィリアさんの言葉を理解するのに、少し時間がかかった。よくわからないけど、ウィリアさんは俺のことを知ってる。それだけは、確かだった。
「覚えてないって…記憶喪失ってやつ?」
「そうなるな。フォーレルの場合は少し特殊だがな」
「…特殊?」
「ああ。フォーレルの記憶は人為的に奪われた」
「人為的に?そんなこと、できるの?」
「できる。だが、その力は禁忌だ」
「…まさか、それって」
「知ってるのか」
ウィリアさんの言葉に、リンは頷いた。
「人が生み出した世界最初の聖術。その力は、12種類あって、世界の救いとも言われてた。けど、その力は強力すぎた。それだけじゃない、その力は、未知なる生物『ザイグ』を呼び出す術でもあった。その力を人々は恐れて、その術を全て1冊の本に積めて世界の何処かに封印した。その本を、人々は『死神の書』と言った」
「正解」
(…まただ)
また、体の中で何かが騒いだ。
「でもあり得ないよ。だって、アレは」
「『死神の書』の在りかを知っているのは、聖術を生み出した人間の子孫しかいない。そうだろ」
「…………誰」
リンの声が低くなった。
「リン?」
「…知ってどうする」
「…教えて」
「…カレル。PIERROTのカレルだ」
「ッ…」
リンの肩が微かに震えている。
(リン?)
「話を戻す。フォーレルの記憶は人為的に奪われた。だが、その記憶は他人が持てるものじゃない。だから、お前の記憶は光の玉になって世界に散った」
「じゃあ、その光の玉を集めれば」
「記憶は戻る」
俺はホッと胸を撫で下ろした。
「…フォーレル、動けるか」
「え、あ、ああ」
ベッドから下り、立ってみた。少し痛むけど、歩けないわけではなかった。
「先に外に出ていろ。俺は準備をしてから行く」
「わかった」
俺は素直に頷いて外に出ようとして、リンのことが気になり振り返った。リンは外を見ていた。声をかけれず、俺は後ろ髪を引かれながら外に出た。
「…暑い」
外に出たら、暑かった。どうやら、今は夏のようだ。
「…リン、どうしたんだろう」
日陰を探し、海を見ながら俺は思った。
「ウィリアさん、こっちにあるのか?」
「ああ。お前は元々高位の術者だからな、高エネルギーが発せられている場所にあるはずだ」
「高エネルギー?」
険しい獣道を歩きながら、ウィリアさんに質問をした。
「術を使うのに必要なもののことだ。基礎から教える。術には、地・水・火・風・闇・光の種類がある。大体の人間には得意な術と苦手な術がある。けど、稀に全ての術を操る奴がいる。そいつらを、高位の術者として扱う。それらの術を操るときに、エネルギーを使う。地なら、地上のエネルギー。水なら、水のエネルギー。と言った感じだ。わかったか」
「うん」
ウィリアさんは当たり前に説明してくれるけど、結構難しい。なのに、何故か頭にすんなり入ってくる。
「お前の場所は更に稀だ。お前は本来は存在しない、術を操る」
「存在しない、術?」
「識・命・獣・時の4つだ」
獣はわかる。時もなんとなくわかる。けど、他の2つはわからない。
「識は人間の意識だ。命は亡くなった者の命のことだ」
「…は?」
命?意識?どういうこと。
「人間の意識を人形のように意のままに操ることができる術。亡くなった者の命を他の入れ物に入れ、命令に従順な人間を作る術。この2つは似ているようだが、少し違う。生きてる人間か、死んでる人間か、ってことだ」
(…なんで…そんな、力を持ってんだ…何に、使っていた…)
「獣は、獣を操る術。時は…人間の時を止めて、時を奪い取る術だ」
「…時を、奪われた人は…」
「…仮死状態になる。けど、時を返せばソイツは生き返る」
俺は安心した。けど、安心しきれたわけではなかった。
「…お前は、過去に1度もその力は使っていない」
「…そっか…良かった」
ウィリアさんの言葉に今度こそ、俺は本当に安心した。
「けど、その力を取られないとは限らない。その術に関する記憶を奪われれば、何に使われるかわからない」
この、追い討ちの言葉がなければ。
「着いたぞ」
俺は顔を上げ、目の前の物を見る。目の前には、塔があった。
「この塔が…」
「塔は、お前の力が造ったものだろう。見てみろ、周りを」
そう言われ周りを見れば、塔と同じ高さの木々が塔を囲むようにして立ち並んでいた。
「これは…」
「そう言えば、忘れていた。おまえにしか無い力。それは、4つじゃなくて5つだったわ」
「え!?」
「5つ目の力、現だ。想像を具現化する力だ」
「想像を、具現化」
「おそらく、この塔はお前の記憶を守る為に造ったんだろうな」
具現化する力。それじゃあまるで、術そのものが意思を持っているみたいだ。
「あ、ウィリアさん」
「なんだ」
「ユノ、じゃなかった。リンに、ここのことを聞かなかったのか?」
「…聞いてない」
ウィリアさんは少し間を開けて返事をした。なにか、あったのか?
「行くか」
ウィリアさんは塔の扉を開けて、中に入っていった。俺も慌てて、ウィリアさんの後を追う。
強い風が吹く。フォーレル達の姿を、誰かが見ていた。
「へぇ。もう、動いてるんだぁ。あれだけ傷を与えたのに、やっぱりアイツは……ククッ。さて、どっちかなぁ」
風が更に強く吹く。男は笑って、フォーレル達が入っていった塔を見つめていた。
第2章 記憶の欠片
「広い…」
中は何もない白い空間だった。
「…上か」
ウィリアさんは上に行く階段を見つけて、歩きだした。
「あ、ウィリ」
「ギジャッ!」
「ッ!フォーレル伏せろ!」
何かの生物の声が聞こえたと思ったら、ウィリアさんに引っ張られた。
「フォーレル、無事か!?」
「だ、大丈夫…」
急に引っ張られ、傷が少し開いたみたいだ。けど、そんなことはたいしたことではない。今の状況では。
「ウィリアさん、この生物は…」
俺達の周囲には、蜘蛛のような蜥蜴ののような姿をした生物が牙を向けていた。
「『ザイグ』だ」
ウィリアさんは腰に下げていた剣を抜いて、構えをとっていた。
「『ザイグ』…ど、どういうことだよ!『ザイグ』は『死神の書』を使わないと…ッ!ま、まさか…」
「察しがいいな。そういうことだ。誰かが『死神の書』を手に入れて、術を使ったんだろ。敵は、そうとうやれるみたいだな」
予想したくないことが、現実に起きた。もし、敵の目的が世界そのものだったら、『死神の書』は悪事に使われる。何故かそれだけは、嫌だと感じた。
(人を苦しめるために、使われたら…!?)
ドクンと、心臓が大きく脈打つ。
「ッッッッゴホッ!」
また大きく、心臓が脈打った。息が出来ないほどに脈打つ。俺は思わず咳き込む。
「ゲホッ!ゴホッ!」
咳き込むと、血が床に飛び散った。
「…え?」
「フォーレル!?」
ウィリアさんが心配してくれる。けど、それがいけなかった。『ザイグ』が、ウィリアさんの隙をついて攻撃してきたから。
「くっ!月宮・華吹雪!」
ウィリアさんが慌てて、剣を振る。『ザイグ』が散る。けど、まだ残っている。
「ッ」
心臓が激しく脈打つと同時に、今度は頭痛が起きる。
「ーーーか、は!?」
(…なん、だ)
周りの音が消える。代わりに、今度は頭に何かの映像が映る。
「か…やめ…」
「邪…な…」
「邪…する…おま…す…」
「俺…しあ…だ…くれ」
「成…」
「…!?」
(これは…)
映像は途切れ途切れだった。けど、誰かが争っているのはわかる。
「か…」
「…んな…って…」
「な…よ…」
「………死ね」
「なんでだよ!?カレル!」
(!?!)
映像が一瞬ハッキリ映った。一瞬見えた映像は、血の染まっていた。いったいなにがあったのか確認しようとして、俺の意識はそこで切れた。
「…………あ、起きた?」
次に目を覚ませば、リンが心配そうに顔を覗いていた。
「……リン?」
「良かった。意識は、ハッキリしてるね」
リンはホッとして、俺を起こしてくれた。どうやら、俺は意識を失っていたみたいだ。ウィリアさんの話を聞けば、リンが心配して駆け付けてくれたらしい。ウィリアさんは、『ザイグ』に押されて危なかったらしい。ウィリアさんが借りを作ってしまたって少し拗ねていた。
「そうか。リン、ありがとう」
「どういしたまして」
「ところで、ここって…」
俺は周りを見渡す。周りにはいくつかの柱があり、奥の方ではまるで玉座の間のような場所に小さな光の玉が浮かんでいた。
「塔の最上階。奥にあるのが、お前の記憶だ」
「あれが、俺の、記憶…」
俺は、光の玉に誘われるように歩きだした。光の玉に触れようとした瞬間、光の玉が弾けて俺の中に入ってくる。そして、俺は記憶の中へと吸い込まれた。
(……ここは…ああ、俺の記憶の中か…)
自分の身体が浮いてるような感覚を感じたと思ったら、実際に浮いているようだ。まるで、幽霊みたいな感覚だ。
(…?…なんだ、あれ…)
自分の記憶の中で何かが光った。俺は、吸い寄せられるように手を伸ばした。
(!?)
光った何かは、俺の記憶だった。そこに広がっていたのは、氷の国だった。
(なんだ、ここ…)
壊れた建物を、氷が包んでいた。
(なんで、壊れてるんだ…)
壊れた建物を見ていると、変な傷を見つけた。
(なんだ、これ…)
俺は恐る恐る氷の上から触れた。
(触れるんだ…それにしても、この傷……ッ)
わかった。変な傷がなんなのか。わかるべきじゃなかった。その意味を。
(嘘だろ…)
俺は他の建物を調べた。どれも、似たような傷がある。
(待てよ…それじゃあ……ッ人は!?)
嫌な予感。俺は人を探した。けど、いくら探しても人はいない。
(どこにも、いない……もっと…もっと奥に行けば!)
人を探して、氷の国のもっと奥に急いだ。
(……?なんだ…なにか、嫌な空気……)
奥に行けば行くほど、身体にまとわりつく冷気。それが、俺に恐怖を駆り立てる。
(…外れてくれ……そんなこと、あってたまるか……)
俺は祈る。俺の考えを否定する。あってほしくない。けど、そんな祈りは神にはとどかなかった。
(……な、んで)
奥には、探していた人がいた。この氷の国の住人。そして、当たった。俺の予感。目の前に広がるのは、赤い氷。中には、恐怖で歪んだ顔の人。
(……)
壊れた建物にあった、変な傷。それは、銃弾や剣で斬った跡。微かに付着した、人の血。
(……なんで…誰が…)
俺は目の前の光景にただただ呆然とする。
「……」
「本当に、あった…」
突然聞こえた男の声。振り返れば、レインコートを羽織った男が2人立っていた。
(気付いてない…?…どっかで、見たことが……)
「…」
どこかで見たことある男を見ていると、1人の男が赤い氷に向かって歩きだした。
(何を……!)
赤い氷を再び見て、やっと気付いた。赤い氷の中央に、椅子に座って寝ている女の子がいることを。
(なんで、あの子の周りだけ人がいない……)
1人の男は女の子がいる赤い氷に触れて、何かを囁いていた。もう1人の男は、何かを考えているようだ。
(何をする気だ?)
「ジダン!」
「!アレクシア…なんで」
(あれは、俺?)
「ジダン、目を覚ませ!リーと調べて分かった。ソイツは、救いじゃない!ソイツは」
「……ライ」
「っ!?」
氷の近くにいた男が何かを囁いたのを合図に、どこからか男が現れた。
「ライ!?」
突然現れた男、ライは俺に斬りかかっていった。
(知り合い?)
俺はライの剣を剣で受け止めてた。
「アレクシア、邪魔するな!」
ライが俺の鳩尾を殴った。
「ゴホッゴホッ!」
見事に入った。けど、俺は両足で踏ん張ってた。
(…なんで?)
「はぁ…はぁ…ライ…」
「…わかってるんだ。アレが、救いじゃないってこと。アレは、破壊を呼ぶだけだってこと」
「なら…!…」
「けど!アレは俺にとって最後の救いなんだ!あいつらを殺せる。復讐するには、アイツが必要なんだ!だから…邪魔するな!」
ライが俺の肩を斬った。
「グッ!」
結構深くいったみたいだ。血が溢れてる。
(……)
俺は、無意識に自分の肩に触れた。リンが手当てしてくれた、肩の傷。おそらく、この時の傷だろう。
「これは…ちょっと…まずい、かな……」
痛みで意識が薄いはずなのに、俺は剣をしっかり握っていた。
(なんでそこまでして、止める?)
ライが、肩の傷をなぞるようにして刺した。
「ああああああ!」
悲痛な叫び。聞いてるだけで、見ているだけで傷が疼く。
「あいつらを殺すために…仇をとってやるために…アイツが必要なんだ…お前だって、そうだろ?お前の目的のために、俺達と来たんだろ?邪魔するなよ…じゃないと…俺は……俺は………お前を……お前を、殺しかねない!」
(……どうなってんだよ)
俺は何かのためにここにいるやつらと共に行動していた。けど、今は裏切ってる。
(仲間、なんだよな…)
わからない。何が起きてるんだ。
「ガハッ!」
俺の悲鳴。ライの蹴りがまた鳩尾に入ったみたいだ。俺は勢いのまま、氷の建物にぶつかった。
(…俺は、何を守ってるんだ)
氷の建物が壊れる。氷の破片が身体に刺さっていく。けど、俺は立ち上がって何かを止めようとする。
「アレは…アイツは、目覚めさせたら駄目なんだ…アイツ、だけは」
(俺は、何を見てきた?俺は、何を望んでた?)
混乱する頭を必死に整理する。けど、整理しようとするほど、混乱する。
(…くそっ)
その時だった。赤い氷が割れたのは。
「!?」
(!?)
中で死んでいた人々は、氷が割れると、粉々に砂のようになって消えていった。
(な、なんだ)
「間に、合わなかった…」
「これで、やっー!?」
ジダンと呼ばれた男の声が、途中で切れる。
「……どういう…ことだよ」
ジダンの声が途中で切れた理由は簡単だった。赤い氷の近くにいた男が、ジダンの腹に剣を刺していたからだ。
「……」
男は何も言わず、剣を抜いた。血が溢れる。
「グッ…ゴホッ…カ、レル…なぜ……」
ジダンが倒れる。
「ジダン!」
状況を理解したライは、カレルと呼ばれた男に向かって走る。
「カレル!どういうことだ!」
ライが叫びながら、カレルに斬りかかる。
「……」
ライの攻撃を、カレルは楽々と避ける。
「答えろ!カレル!」
ライは続けて攻撃をする。けど、ライの攻撃はカレルに当たらない。
「……なんで…なんでだよ、カレル!」
ライはカレルに問う。けど、カレルは何も言わない。
「…っライ!避けろ!」
「ーくっ!」
ライが素早くカレルと距離を取る。けど、その動きを予測したような動きでカレルがライの背後を取り、容赦なくライの背中を斬る。
「ガハ!…んな、こと…カレ、ル…」
「ライ!」
(いったい、何がどうなってんだ…)
「カレルー!」
俺がカレルに向かって走った。肩から、大量の血が流れている。
(……やめろよ…そんな傷で…なんで、俺は…)
「はああああああああ!」
ギン!金属のぶつかる音が響いた。
「……っ」
「火の旋回!」
剣から火が出て、カレルを包む。
「くっ…」
「風!」
今度は風が吹く。カレルを包む火が、より強くなった。
(風で、火の威力を…)
「鎌鼬!」
さらに追い討ちをかけるように、風の刃が火ごとカレルを裂いた。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
「結構やるねぇ、フォーレル」
「な!?アグッ」
カレルが俺の首を掴んでいた。
(傷、1つ無い…)
火の中では、カレルが着ていたコートだけが燃えていた。
「あのコート、意外と気に入ってたんだぁ。まぁ、俺をあそこまで追い詰めたのフォーレルが初めだから、褒美ってことでいいか」
「ーーーーーっ」
俺の顔が青ざめていく。カレルが手に力を入れたんだ。カレルは片手で軽々と俺を持ち上げている。
「まぁ、そこそこ楽しかったよ?」
カレルは笑顔でさらに力を入れる。
「これ以上、邪魔されたくないから…死ね」
「ーーーーーーーっーーーーーーール」
俺は何かを呟いて、力なく手を下ろした。直後、俺の身体が光だした。
「!?」
カレルが手を離す。けど、俺の身体は宙に浮いたままだった。
「へぇ。フォーレルが後継者だったんだ。どおりで、探しても見つけられないわけだ」
(後継者?)
「けど、これは少し、ヤバイかな」
カレルが何かをしだした。
(なに、する気だ)
「どっちの後継者か、調べさせてもらうよ。影蛇」
カレルの影から、無数の黒い蛇が現れて俺の身体を縛る。
「読むことは出来ないから、視ることにするよ。君の記憶を…記憶採取」
(まさか、コイツが)
俺の身体に、黒い蛇が入ってく。そして、黒い蛇が光の玉を持って俺の身体から出てきた。
「ご苦労様~さて、と。どっちかな」
カレルが黒い蛇が持ってきた光の玉に触れようとすると、光がより強くなった。
「わっ、と」
光の玉はだんだん上に浮上していく。
(このまま行くとぶつかる)
そう思ったが、突然洞窟の天上が壊れた。
「…マジかぁ」
光の玉は壊れた洞窟の天上を通って外に出ると、まるで押さえきれなくなったように6つの光の玉になってどこかに消えた。
「…これは、予想外だよ…クク…あははははははははは!楽しくなってきたなぁ」
そこで、俺の記憶は終わった。
第3章 PIERROTと再会
「…」
「調子はどうだ?」
「…あまり、良くない気分だよ」
「みたいだな」
ウィリアさんが手を貸して、起こしてくれた。
「フォーちゃん、顔色悪いよ?」
「大丈夫って、言い切れないな」
「体調は大丈夫みたいだな」
2人が心配して声をかけてくれる。そんなに酷いのかな?
「…クスッ」
どこかで微かに笑い声が聞こえた。誰かいるのかと辺りを見る。すると、黒い光の玉が飛んできた。
「フォーレル!伏せろ!」
ウィリアさんが庇うようにして立つ。けど俺は、ウィリアさんの前に出た。
「フォーレル!?」
俺はなんとなく分かっていた。こんなことをしてくる人が誰か。そしてこの術も、俺なら消せることも。
「…光よ、照らせ。闇の力を、相殺しろ」
強い光が、俺の言葉に呼応して黒い光を相殺した。
「すごい、すごい。まさかアレを相殺しちゃうなんてねぇ。アレ、魔王の闇黒級なんだよ?さっすが、後継者」
拍手の音が響く。黒い光が飛んできた位置から、ピンク色の髪をした男が現れた。
「カレル…」
「あ、思い出してくれた?はは、どう?最高の記憶だったでしょ?」
「そうだな…最高で最悪の記憶だったよ」
「カレル。また、俺達の前に現れるなんてな」
カレルは何が楽しいのか、笑っている。
「だってさぁ、まさかフォーレルが後継者だったなんて思いもよらなかったから」
「カレル兄さん!」
リンが突然叫んだ。カレル兄さん?
「リン。なんでここにいんの?」
「禁忌が使われたって聞いたからもしかしたらって!」
「そう言うこと。ねぇ、リン。俺と一緒に来ることを拒んだお前が、まさか俺の邪魔をするわけないよな?」
カレルがとても冷めた目で、リンを見る。
「ーっ」
「…まさかとは思うが、カレル」
「んー?」
「お前、『死神の書』を手に入れているのか?」
リンが小さく息を飲んだのが分かった。
「そうだよ」
カレルはあっさりと肯定した。
「っカレル兄さん!なんでそんなこと!」
「なんでって、楽しいからに決まってるじゃん」
リンの顔が驚愕になった。
「だってさぁ、ずっと退屈してたんだ。でも、あの『死神の書』があれば、退屈しないですむでしょ?」
「『死神の書』を使って、なにする気だ」
カレルはまた楽しそうに笑う。
「まずは、人間共に恐怖を与えようかな♪」
「恐怖?」
カレルは俺の質問に、ただ楽しそうに答える。
「そ。恐怖を与えて、絶望を与えて、悲しみで溢れさせたらさ、この世界はどうなるかな。この平穏な世界がどうなるのか、想像するだけで楽しいよ!はははははははははは!」
カレルは楽しそうに笑う。とても、楽しそうに。その姿は、PIERROTだ。
「兄さん…」
そして、改めて思う。リンとカレルが兄弟とは思えないな。
「カレル。お前、相変わらず腐ってるな」
「誉め言葉として、受け取っておくよ」
「誉めてないから」
気のせいか?ウィリアさんが怒ってる。
「はぁ…カレル、1つ聞く。フォーレルの記憶を奪ったのはお前か」
「ああ、そういえばリーは知らなかったけぇ」
「カレルだ。俺の記憶を奪ったのは」
カレルの代わりに、俺が答えた。
「思い出してくれたんだぁ。ここの記憶はあの時の記憶だったんだね」
「…カレル、俺からも聞きたいことがある」
「質問攻めは勘弁してほしいんだけどなぁ」
カレルがうんざりした顔で言う。けど、そんなの知らない。
「ライとジダンは無事なのか」
俺の言葉に、カレルは笑いながら軽く飛んで宙に浮いた。空の術だ。
「フォーレルをそんなにしたのに、心配するんだぁ」
「関係ない。いいから答えろ」
「無事だよ。傷もすっかり。跡形もなく消してあげたから」
「消して、あげた?」
カレルの言葉が引っ掛かる。
「そ。ライもジダンも、俺の仲間だからね」
「仲間?」
ありえない。殺そうとした奴の仲間になるなんて。
「仕方ないよ。だって、俺のとこにはアイツがいるから」
「…あの赤い氷の中で椅子に座っていた女の子のことか?」
いったい、あの子になにがあるんだ。
「まあ、あの子はただの器でしかないけどねぇ」
「器?」
「そぅ。この世界を壊すほどの力を入れておく器」
この世界を壊すほどの力?そんな力があるのか?
「その力の持ち主が本当はいたんだけど、宿主が死んだから他の人に移ったみたい」
「移った?そんなの」
「ありえるんだよぅ。強すぎる力は意思を持つようになるからね」
強すぎる力。じゃあ、俺の力は…
「あっと、もう少し遊んでたいけど、そうも言ってられないや」
カレルは突然そう言うと、手を横に出した。カレルの手の前に黒い空間が出来た。
「逃げるきか!」
カレルの行動に、ウィリアさんがいち早く気付く。
「ここで殺り合うのは、勘弁。今はまだその時じゃないからね。あ、そうそう」
何かを思い出したカレルは俺を見た。
「フォーレルの力も強いけど、あんまり心配しなくても平気だよ。フォーレルは、力に好かれてるみたいだからね」
「…は?待て、どういう」
「じゃあねぇ♪」
カレルは手を降って、黒い空間の中に入って消えた。
「…」
意味がわからない。カレルはなぜ、俺の力のことを話した?意図が読めない。
「…ったく。相変わらず、読めない奴だ」
「リン、大丈夫か?」
リンはただ呆然と立ってた。
「…平気」
リンは弱々しく答えた。
「…もうここに用はない。いったん、出よう。リン、泊めてもらえるか?」
「…うん」
俺達は塔を出た。来た道を戻ろうとしたとき、視線を感じて塔の一番上を見た。俺は知っている。視線の先に誰がいるのか。カレルじゃない。もう1人の、誰か。俺は睨む。ありったけの殺意を込めて。
少し時間を戻り、カレルがフォーレル達の前から姿を消した後、カレルは塔の屋上にいた。
「あーぁ。殺りたかったなぁ。でも、勝手に殺っちゃたら殺されるしなぁ。ああ~、殺してぇ!」
カレルは屋上でゴロゴロ転がっていた。
「五月蝿い」
ゴロゴロ転がっているカレルの横に、男が立っていた。
「あ、やっと来たぁ。遅いぞ~」
「フン。暇なお前と違って俺は忙しいんだ」
「うわ、ひっでぇ」
「それで、どうだった」
カレルは転がるのを止めて、塔のギリギリに座った。
「どっちかはわからなかったけど、おれの闇黒級を相殺するほどの力はあるから、期待していいんじゃないかなぁ」
「フッそうか」
「あれぇ?やけに嬉しそうだねぇ」
「当たり前だろう。やっと暴れられるんだ。しかも、後継者を相手にするんだ。嬉しいに決まっているだろう」
「あはは。そうだねぇ♪やっと。やっっと、この世界を壊せる。ああ、血が疼く。殺していいんだろ?」
「ああ。容赦なく、殺せ」
カレルは怖いほど良い笑顔で喜んだ。男は、塔の下を見ていた。
「…」
塔の下では、フォーレルが男を見ていた。
「…クク…楽しみにしているぞ、後継者」
男とカレルは笑いながら、黒い空間に姿を消した。
翌日。
「なあ、リンを置いていっていいのか?」
「これ以上、関わらせれるべきじゃない」
「そう、だな…なぁ、リー」
ビクッと、ウィリアさん…いや、リーの肩が揺れる。
「フォーレル、お前」
「あの時、何があったのか思い出した。カレルは仲間だったんだ。リー、俺は赤い氷を見た。中にいた、女の子も…なにか知ってるんだよな?」
リーはうつむいた。
「…リー、教えてくれ」
「…赤い氷の中にいた女の子。多分死神のことだ」
「死神?」
「ああ…」
昔、大きい国がこの世界の中心にあった。賑やかな国だったんだ。けど、ある日。女の子が国に流れ着いた。国の人々は女の子を看病した。人が流れ着いた。そのことを知った貴族が、女の子のもとに来て、城に連れ帰った。城の中で女の子は目を覚ました。貴族は国中の人々を呼んで、女の子の目覚めを祝った。そして、人々は氷付けになった。
「あれをやったのは、あの女の子だって言うのか?」
「ああ…」
「ならなぜあの子は氷の中にいたんだ」
「すまない、そこまでは…」
リーはそれ以上なにも言わなかった。リーの話を聞いた俺の頭の中ではカレルの言葉が浮かんでいた。『継承者』あの言葉がもし、あの女の子のことを言っていたのなら、あの女の子は…
「フォーちゃん!リーちゃん!」
後ろからやたらと元気な声が聞こえた。
「…リン?」
リンが荷物を背負って走ってきていた。
「二人とも、速いよ~…」
「リン、どうした?」
「私もついていく」
「え?」
リンはきっぱりと言った。
「リン、でもそれは…」
「わかってる。私がフォーちゃん達と行けば、兄さんと殺り合うってことになるのは。でも、それでも…兄さんのやろうとしてることは間違ってるよ。だから、私が止めるの。妹の私がさ」
リンは迷いのない顔で言いきった。だから、俺は
「そっか…リン、これからよろしく」
「こっちこそ、よろしくね。フォーちゃん、リーちゃん!」
「…足手まといになるなよ」
「…リーちゃん。『ザイグ』が現れたときに助けてあげだのは誰かな?」
「……」
リーの顔がひきつる。人に借りを作るのは嫌いらしい。
「ね、リーちゃん」
リンは笑顔でリーに話しかけるが、逆にその笑顔が怖い。
「…………好きにしろ」
「うん。そうさせてもらうね」
リンはリーを説得した。と言うより、脅したと言ったほうがいいのか。
「それで、これからどこに行くの?」
「まだ、決まってない。だが、グレガサ島には行こうと思っている」
「グレガサ島って、『ザイグ』を封印したって言われてる不可視の島のことだよね」
「ああ。封印を解かれないために島にも封印をほどこして、見えないようにされた島。そこで、フォーレルはカレルに記憶をとられたんだ」
「グレガサ島で……でも、フォーちゃんの記憶を戻すのが先だよね?」
「当たり前だ」
「じゃあさ、サレイア島に行こうよ」
「サレイア島?」
リンは荷物を広げて、地図を取り出した。
「サレイア島はここから海を渡って東に行けばすぐにつくよ」
「サレイアか……そうだな、そこから行こう。船はあるのか?」
「うん。そろそろ、船が来るはずだよ」
「よし、じゃあ行くか。リー、リン」
「うん!」
「…どこまででもついていくさ」
それからしばらくして来た船に乗り、俺達はサレイア島に向かった。
第4章 サレイア島
船に乗ってしばらく。リンが船に酔っていた。
「…」
「リン、大丈夫か?」
「…ダメ」
リンは弱々しく言った。
「情けない。船ぐらい慣れろ」
「…ムリだよ」
リンはぐったりと椅子に寄りかかった。
「どうだい、船はって、大丈夫かい嬢ちゃん」
「…ダメェ」
「嬢ちゃん達は、サレイア島だったな」
「ああ」
「そうか…サレイア島は最近変な事が多いそうだから気を付けなよ」
「ありがとうございます」
「サレイア島まであと1時間の辛抱だ。頑張りな」
「1時間…」
リンはさらにぐったりとした。
「あ、はは」
苦笑いをして、俺は海を眺めた。太陽の光が海に反射して、光の花畑ができている。海が空を写し、鳥が優雅に飛んでいる。
「綺麗、だな」
俺は残り1時間、海を見ていた。
「…」
1時間後。船が着いた。リンはフラフラの足取りで船を降りた。
「…」
今すぐにでも塔に行きたいが、リンの事を考えると今日は休んだほうがいいのかも知れない。
「…ったく、めんどくさい奴だ」
「どこかに、宿があればいいけど」
「だ、大丈夫…まだ、明るいから先に行こう…」
青白い顔でリンが言った。
「明るいとは言っても、俺達はここの土地勘がない。道に迷ったらどうする気だ」
「そうだな。今日は宿に泊まって、明日にしようよ」
「だが、ここら辺に宿と言うものがあるかどうか」
そう。今俺達がいるのは小さな港。宿らしきものは1つも見当たらない。
「少し先に行った所に、小さな村があるみたいだけど…」
「今からでは…」
俺とリーは地図を見て、考えていた。
「とりあえず、宿を探してみよう。それからだ」
「そうだな」
いったん宿を探すことに決まったが、リンから少しでも目を離すべきではなかった。リンはフラフラと歩いていて、目の前にある海藻に気付いていない。
「リン!」
俺は叫んだが、遅かった。リンは海藻に足をとられた。しかも最悪なことに、すぐ近くに大量の荷物がある。おそらく、船から降ろした物だろう。リーが駆け出していたが、間に合いそうにない。最悪な事を想像したが、俺の想像が現実になることはなかった。男がリンを支えていたからだ。
「大丈夫ですか」
「…」
リンはぐったりと男に支えられていた。
「リン!」
「ああ、連れの方ですか」
「ああ」
俺は男からリンを受け取った。荷物扱いだな。
「旅ですか?」
「いや。俺達は用があって来た」
「リー、旅してるのと変わらないんじゃないか」
「…」
「?まあ、いいか。あなた方はこれからどうするのですか?」
「とりあえず、宿だな。ここにいる荷物のせいで、予定が狂ったからな」
リーはぐったりしてるリンを睨んだ。
「宿ですか。それは、困りましたね」
「?どういうことですか」
「この港には宿はないんですよ。ここから少し先に行った所にならありますけど、最近は野党が多くて今からでは危険です」
「それは…」
困った。宿がないとなると野宿しかないけど、リンがこの状態では無理がありそうだ。リーだけでも大丈夫だろうが、無理をさせるわけにはいかない。
「野宿しか、ないだろう」
「…」
「…そうですね。宜しければ、僕の家に泊まっていかれたらいかがですか?」
「…いいんですか?」
「ええ、構いません」
「…」
リーは何か考えていたが
「仕方がない。悪いが、泊めてくれ」
こうして俺達は、男の家に泊めてもらうこととなった。
その男が味方なのか、敵なのか。わからない。けど、このまま先に進めば見ることとなる。知ることとなる。自分の力。過去。闇を…