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朝倉医師

作者: ひこゆき

今日、僕が担当をしていた患者が亡くなった。

僕の先輩である朝倉医師は「忘れろとは言わないが、考え過ぎるな」と言った。


「朝倉先生は冷たい人なんですか?」

「そう見えるか?」

「……僕は、一人でも多くの人の命を救いたくて医者になりました。朝倉先生はどうして医者になったんです?」

「…………俺は人の中身を見るのが好きなんだよ」


一瞬、耳を疑った。


「ああ、内蔵とかの話じゃないぞ?中身ってのは気持ちとか、心の事だ」

「心、ですか………?」

「そう。救って欲しいとか、この人を死なせないでくれとか」


朝倉先生は冷たい人ではないのかもしれないと僕は思い掛けた。


「救わないで欲しいとか、この人を殺して欲しいとか」

「え?は?何を言ってるんです?」


途中から朝倉先生の言葉が理解出来ないものになった。

人は誰だって死にたい筈も、誰かを失う事もしたくない筈だ。そんな事がある訳が……


「本当だよ、長く続けてれば分かる」


そう言って朝倉先生はまだ消すのには早い煙草を灰皿に押し付けた。


「俺は妻を病気で亡くしていてね、」


そして、何も答えない僕の横を通り過ぎる瞬間、


「俺の妻は俺に殺して欲しいと頼んだよ」


朝倉先生は確かにそう言った。


「朝倉先生は奥さんを……殺したんですか?」


僕の声は震えていた。背後で足を止める気配があった。


「病気で亡くしたと言っただろ?」


後ろを振り向く事が出来なかった。朝倉先生の足音が遠退いて行くのが聞こえていた。



朝倉先生が本当の事を言っていたのかは分からない。けれど、始終無表情と言えた朝倉先生が最後の答えの時だけ笑っていた、気がした。









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