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第7話~主人公(笑)~

「お、佐藤今日は弁当か?珍しいな」


「ええ、ちょっと料理というものに対して思うものがありまして」


「はーん、まあ節約にもなるし良いことじゃねえか?」


「そうですね。ところで先輩」


「なんだよ」


「芋虫って食べられると思います?」


「……お前がそこまで生活に困っているとはさすがに思わなかったぞ」


「いや別にそういう訳じゃあないんですが、憐れんでくれるというのなら遠慮なくご馳走になりますよ先輩」


「しねえよ」





 このように暢気な会話をして平和な日常を送っている聡とは裏腹に、ゴッツ達は主級討伐のために迷宮へと潜り、今まさに地獄の戦いが始まろうとしていた。



……ォォォォォォォン


「こレはグラル達の声だな、どうやラ予定の場所に誘導できたラしい。始まルぞ」


「そうか。んなら、聞いたなお前ら! 俺たちの仕事は本隊が主級を倒すまでの間、他の魔物共に邪魔をさせねえことだ! 俺たちがしくじればどうなるかは分かってんな! 分かったら気合い入れろよ!」


 ゴッツのその風貌にふさわしい、野太くて大きな声で発破をかけられた冒険者たちは、ゴッツに負けじと大きな声で返事をし、事前に定められた役目を果たすためにそれぞれ待機場所へと散っていった。


 今回の主級討伐に当たって討伐隊はいくつかの隊に分けられ、それぞれ役割が割り振られていた。


 まずは主級の居場所を特定し、他の冒険者が罠を張る時間を稼いだり、そちらの方向に行かないように時には囮になり、付かず離れず主級を監視する斥候部隊と、その間に可能な限り戦況を有利に進めるため罠を仕掛ける工作部隊。

 さらに大勢の冒険者たちの食料などの補給品を守り、英気を養うための安全な寝床を確保する補給部隊に分かれていた。


 特に斥候部隊は段違いに危険が多いため、ほとんどが基本的に人間よりも体力が多く、身体能力の高い獣人たちが在籍していた。

 とりわけ、薄暗くて遠くの見えない迷宮の中でも夜目が効く猫族と、遠吠えで遠い距離でもある程度情報のやり取りのできる狼族や犬族が多かった。

 あとは足の速さや耳の良さが自慢の獣人や、一部例外の人間であり、彼ら斥候部隊はその過酷な役目ゆえに、主級討伐の際にはギルドから追加の報酬が渡される予定であった。


 そしていざ主級との戦闘をする時には、部隊を主級と戦う者たちの本隊と、主に他の魔物からその戦闘中の横槍を防ぐ役目を負った予備隊の二つに再編しなおす。

 この予備隊には士気の低さを考慮して、ギルドから依頼を受けたパーティと、討伐志願者の中でも比較的経験が浅く実力の低い冒険者が多くの割合を占めていた。


 そして、本隊ではついに主級との戦いが始まった。


「来たぞ! 弓を構えろ!」


「こっちだ! そのまま誘導しろ!」


「ピギィァアアアァアァァァァアアア!!!」


 今回迷宮に現れた主級は猪の姿をしていた。


 だが猪と侮るなかれ、その大きさは流石主ぬし級と呼ばれるだけはあり、普通の猪とは比べることさえ烏滸がましいほどの巨体を誇っていた。

 その大きさたるや二メートルを超える体躯を持つ獣人たちをも優に見下ろせる体高で、分かりやすく現代のモノに例えるならば、十トントラックとほとんど同じ大きさと言えば分りやすいだろうか。

 さらにその巨体についてくる超重量を支える脚は異常に太く、鋭くて巨大な牙も二本だけではなかった。


 弓矢による遠距離攻撃もその体毛によって阻まれて皮膚にすら届かず、魔術師による炎や風による援護射撃にも全く堪えた姿を見せない。

 たとえ体毛の鎧をすり抜けたとしても、まだ分厚い皮膚と筋肉の壁に、頑丈な骨まで残っているのだ。

 ダメージを与えるのは至難の業であろう。


 その巨体と耐久力に、猪の持つ突進力が合わさり、誰も止められないのではないかと思ってしまう生きた重戦車と言うべき存在であった。


「畜生っ! 一カ所に纏まって固まるな! 決してアイツの正面に立つなよ! 狙われたら誰も助けられんっ、死にたくなければ走り続けろおおおォォォッ!」


「近寄ることすら出来ねえのか、糞ッ! 次の地点までどれくらいだぁ!」


「グルルルアアアァァァアアッッ!!」


「シャアアァアアァァアァッッッ!!」



「――--ィィィィギャアアアアアアアアアアアァァァァアア!!!」


 小賢しい罠など意にも介せず次々とその巨躯で冒険者たちを葬っていく様は、まさに悪夢の体現と表現すべき光景であろう。

 獣人たちも唸り声をあげながらその高い身体能力でヒットアンドアウェイで攻撃を繰り返していたが、ダメージを与えられているとはとても言い難かった。


 その突進をもろに受けた者は小枝のように吹き飛ばされ、全身の骨を粉々に砕かれて即死し、その脚の蹴りを受けた者は内臓が破裂して、悶えている間にその巨大な蹄に踏まれて死んでいった。





 これは決して主級を舐めていたわけではない。


 準備を怠っていたわけでもない。


 斥候からの情報で、主級の中でも特に手強い個体だということは十分に分かっていたし、それに合わせて罠もより強力なものに変更して作戦も考えた。


 ただ単純に、主級とはその想像をさらに超えた怪物バケモノであったというだけなのだ。




「なんかこっちに向かって来てねえか?」


「来ているわね」


「来ていますね」


「はんっ、偉そうにしていた割にゃ、あんま役に立たなかったな、王都の奴ら」


「そんなことよりも、何故よりにもよってこっちなんだ、全く。

 はあ、こういう場合は第4班と第5班で迎撃しながら外側へと移動、だったね。ガラン、頼むよ」


「ああ、分かっていル」


 ガランの広範囲に聞こえる遠吠で作戦の変更を知らせると、数秒後にそれを聞いた他のパーティの犬人、あるいは狼人から了解の意を表した返事の遠吠えが返ってきた。


「あちラは問題なさそうだ。向こうの予備隊の方にもまだ死者は出ていないらしい」


「よぉし、んじゃいっちょ、死なない程度に頑張って金ぇ稼ぐぞ!」






そして時間は流れる。



「チィ、じり貧だなこりゃ。時間をかけりゃかけるほど不利になる。

 しゃあねえ、逃げ出すわけにもいかねえし、ちと賭けに出るか。

 ガラン! アーグ! 行くぞ!」


 予備隊が本隊と一緒に主級と戦闘を始めて少し経った頃、戦いに集中しながらも周りの状態を一人冷静な目で見極めていたゴッツは、このままでは自分たちを含めて全滅するのも時間の問題だと判断し、まだ余力があるうちに多少の無理をすることを決心した。


「サイス! アイラ! 分かってんな!? ミラ! 強化魔法を頼む!」


「はい!」


 付き合いの長いミラ以外のメンバーはゴッツの考えていることをすぐに察して返事もせずに即座に動き出し、ミラももうゴッツの性格からやりそうなことを既になんとなくだが分かってきていたため、力いっぱいの強化魔法をかけた。


「よぉし、よぉし、よぉし。んじゃ、てめえら行くぞぉ。






 突撃だあああああぁぁあぁああっ!!!!」


「やっぱり」


 ヒャッハーといわんばかりに飛び出していったゴッツの後を、ガランとアーグはそのすぐ後ろに付いていく。サイスとアイラはその反対方向から主級の注意をひきつけるためにわざと目立つように主級に向かって攻撃を仕掛ける。


 そして主級が二人の方を向いた瞬間に、後ろから気配を消して近づいてきたゴッツ達がその首元へと飛び掛かかった。

 主級はそんな3人を振りほどこうと立ち止まって首を振って暴れるが、強化した腕力と握力で絶対に離してなるものかと言わんばかりに体毛を掴んで必死にしがみつき、そしてサイスとアイラも同じように飛び掛かっていく。


「ミラァァ! 今だ!」


 ミラは非常に器用だが、あの主級の分厚い天然の鎧を貫通してダメージを与えられるほど強力な魔法なんてのは使えない。

 ましてやこの状態でとどめを刺せるような威力のある魔法などあろうはずもがない。



 だがしかし、先日サートから聞いたアドバイスによると、生き物と言うのは呼吸を乱されると途端に何も出来なくなるものらしい。

 そんな生き物の性質を利用すれば、魔術に威力なんてなくても簡単に相手倒すことが出来るのだそうだ。


 そして、ミラはサートからその魔術の使い方というものを教わっていた。


「行きます」


 ミラの頭上高くには、先ほどから魔術でずっと準備してあった大量の水が漂っている。


 ミラが手を振り下げると、ゴッツ達の体によって視界を塞がれ、それを振り払おうともがいている主級に向かって、その大量の水がまるで蛇のように射出された。


 この魔術には早さも威力も全くないが、その分自分の思い通りに操ることが出来る。

 先ほどまでのように猛スピードで走り回っていた状態では追い付けず、命中したとしても軽く吹き飛ばされていただろうが、今の状況はパーティのみんなが危険を冒してまで作ってくれた絶好のチャンスであった。


 その水の蛇は一直線に主級の口元に向かい、


「ギ、ガボッ、ゴボボボボ、ボ」


一気に鼻と口から体内に侵入していった。


 主級は呼吸をしようにも吸い込めるものは水ばかり、吐き出そうとしてもまたすぐに水が流し込まれてくる。

 つまり、溺れているのと同じ状態であった。


 それでも相手はこちらの常識というものが通用しない程のパワーを持った化け物。肺どころか胃の中にまで大量の水をパンパンになるまで流し込まれ、普通なら身動きなどとれるはずもないのに、その有り余るほどの体力でむしろゴッツたちを振り払おうとする動きはより激しさを増した。


 いくら体に強化魔法がかけられていたとしても、流石にこれ以上激しく暴れらると流石に吹き飛ばされるのは時間の問題であり、主級にしがみつくために両手に武器は持っていない状態で、攻撃することもできず、このままでは振り払われるのを待つしかなかった。




 自分の肉体そのものがそのまま武器である獣人のガラン一人を除いては。


「ガ、ルルルルルアアァアァァッ!!」


 ガランは決して振り落とされまいとその強力な咬筋力で主級に噛み付き、目の前にある主級の眼球めがけ、硬くて鋭いその爪を思いっきり突き立てた。



「―――――~~~~~ッッッッ!!」


 主級が声にならない悲鳴をあげ、痛みで一瞬体の動きが止まったのを好機ととらえたのか、この千載一遇のチャンスを絶対に逃すまいと周りの冒険者たちが一斉に攻撃を開始した。


 それでも主級は最後の抵抗とばかりに暴れまわって、突進をしようとしたが、数の暴力と長時間呼吸をしていなかったこともあり、ついに主級が地面に倒れ伏した。


 それからしばらくして、段々と主級の動きが少なくなり、最後にビクンッ、と痙攣したように動いたのを最後に、それきり主級はピクリとも動かなくなった。





 こうして、苛烈を極めた今回の主級討伐戦は、大きな犠牲を払い、全員が満身創痍の状態で一先ず幕を閉じたのである。


派手な攻撃魔法なんていらんのや


あと、イノシシなめてると本気で死ぬ

もし出会っても、上をぴょんと跳んで逃げりゃいいじゃんとか思っていたのは作者の黒歴史

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