第6話~ゴッツの仲間たち~
しばらくゴッツ達と一緒に、迷宮に潜った時の経験をお互いに話しながら、ミラにその場面、状態で魔術師としてどのような立ち回りをするのが仲間にとって良いのか、ミラが出来る範囲のことで自分の分かる限りのことをアドバイスしていって、そこから分かったことが幾つかある。
まず第一に、ゴッツ達が自分が想像していたよりも迷宮探索が上手いことであった。
強いでも凄いでもなく、上手い。
それは魔物との戦闘から、休息の取り方から、逃走、野営、食事、排泄と、事ある場面で感じとることができ、迷宮で長く、深く潜るためには必ずしも強いだけではなし得ないということを証明するかのような、ベテランの戦い方であった。
今まで死なずに長年迷宮を潜り続けてきたのは伊達ではないということが分かる。
そして次に、ミラの理解力と実力の高さであった。
主級が現れる前にすでに迷宮の浅い階層で何度か魔物との戦闘をしていたらしく、その僅かな回数の戦いでミラは魔術師の迷宮での戦闘における役割とは何かをほとんど理解していた。
主級さえ現れなければ今頃は魔術師の戦いとはなんたるかをサートに教わる必要などなかったかもしれない。
さらに母親譲りの、というか影響をもろに受けまくった、特に回復魔法と強化魔法が非常に有用であった。
より身軽に、より素早くということが重要な迷宮探索において、持ち込める医療道具に限りがある迷宮の中では怪我をするというのはたとえ大きなものでなくとも細菌が入ったりすると傷口が膿んだり、痛みでよく眠れなかったり気が散ったりと、かなりのマイナスとなる。
強化魔法も、何も戦闘のみにしか使えないわけではなく、例えば迷宮から倒した獲物や貴重な素材のような重い荷物を持って帰るときなどに使用すれば、疲労している体でも楽に運ぶことができ、それが結果的に途中で魔物に襲われたときの隙を少なくすることにつながるのだ。
ぶっちゃけ特に戦闘に関していうことがなかったので、このような戦闘以外で役に立つ、且つ魔術を知っていてもそんなことにも使えるのかというなかなか気付きにくい知識を中心に教えていった。
これらの知識に対して強い興味を持ったのはミラよりもむしろゴッツやガランの方であった。
今までの長い冒険者生活の経験から、もしサートの言ったことが本当にできるのならば、迷宮の探索にかなりの余裕が生まれ、その余裕が最終的に自分たちの死亡率の低下につながることを理解しているのだろう。
ゴッツはもっと聞かせろと言わんばかりに興味津々な顔をし、ガランでさえもその巨体に似つかわしくない思慮深そうな雰囲気で何かを考えていた。
いや、ただでさえ無口で顔の筋肉をあまり動かさない上に、犬の表情なんてサートは分からないのであるが。
ミラもサートの話すことを真剣に聞き、こんな時はどうしたらよいのか、こんな魔法が使えるのだが他にはどんなことに利用できるのかなど、半ば身を乗り出すようにして積極的に質問をしていた。
水魔法の方も実戦に役に立つかどうかを見るために、明日の主級討伐に影響が出ない程度に軽く使用してもらったが、問題ないことが分かった。
こうして最終的には四人でどうすれば魔術を迷宮探索により便利に役立てることが出来るのかという討論会にまで発展した。だが昼を過ぎたあたりに翌日の主級討伐ために大型生物用の武器の整備やら罠やらの準備を終えて帰ってきたゴッツの他のパーティメンバーが帰ってきたことによりそれらは一旦終了となった。
ゴッツのパーティは新人のミラを合わせて6人で形成されており、半分は留守番、もう半分は買い出しということになっていた。
留守番のはずのゴッツは知り合いの魔術師を呼んでくると言って2時間以上帰ってこなかったが。
「やあ、彼が前にゴッツが言っていた魔術師の知り合いかい?
はじめまして、僕はサイスという。魔術師とは仲良くしておきたいからね、これからお互いにとって良い付き合いをしたいと願うよ」
いい感じに苦労を重ねてきたのであろう、まだ若いだろうにもうすでに白髪が入り混じる灰色の髪をした、雰囲気のある渋いイケメンに、
「あん?なんだ、何回かギルドの酒場で見かけたことあるな。アイラだ。よろしく」
酒場で見かけたときは、いつも必ず大量の酒を飲んでいる姿しか見たことのない、天然パツキンのヤンキー臭がものすごい残念美人に、
「アーグよ。ごめんなさいねぇ、うちの馬鹿が。結構振り回されたでしょう?」
魔族特有の赤い目と白い髪、褐色の肌をした、
ゴッツに匹敵するほどの身長と、獣人とはまた違った絞られ方をした筋肉を持つマッチョのオカマであった。
略してオカマッチョ、とサートは心の中で呟いた。
サートも三人に自己紹介をした後ちょうど人数もそろったし飯にしようとゴッツが言い、ミラ達もそれに賛成した。ゴッツがサートに向かって楽しみにしていろよと、背中をバンバンと叩きながら屋敷の中へと誘導していった。
まだ珍しい食事をご馳走してくれるという約束は忘れていないようで少し安心しながら痛む背中を我慢して黙って促された。
「部屋広ぇ、天井高ぇ、机でけぇ。確実に俺よりも柔らかいベッドと豪華な家に住んでいるな」
「そりゃおめぇ、金稼げてんのに使わなきゃ意味がねえだろ。贅沢するために金稼いでんだ。ってか、
むしろお前は見たところかなりいい腕してんのにどんな生活してんだ?」
「お前の部屋の半分以下の面積の家で毎日暮らしてるよ。」
「なんでそんな生活してんだよ。かなり稼いでいる筈だろ、何に金使ってんだ、いつも」
「金は半分商人ギルドに預けて、そのもう半分をそのまま自分で保管、残りを珍しい魔道具とか、貴金属に換えて貯金してる」
「貯金、いい言葉だね。僕も貯金は大好きさ。貯金は大事だよ」
「いや使えよ、金は使うもんだろうが」
ゴッツの言うことはまったく否定できない正論なのだが、なかなかそういう訳にもいかない理由もあるのである。
この世界で手に入れたものを現代でお金に換えようにも、素材は金かそのほかの貴金属に限られ、大量に換金しようとすれば当然出処を疑われるであろうし、量を少なくしても何回も換金すれば同じ事である。
何か特別なコネでもあれば別なのだろうが、当然そんなものがあるわけもない。素人が何をどうやったとしても上手くいくわけがないのだ。
あくまでこの副業の目的は老後ともしもの時のための貯金、へそくり的なものであり、特に差し迫っている問題があるわけでもない現在は無理して稼ぐ必要はないし、基本無趣味な聡が無理して使う必用もなければ使うあてもまだない。
ぶっちゃけ今まで稼いだ金額だけでもすでに結構な金額になっているので、これからはもうちょっと迷宮に潜るときのノルマを下げようかなと思っていた。
さらに、この世界で贅沢をするというのもあまり考えてはいなかった。
ゴッツの誘いも、美味いものをご馳走するという言い方だったならばサートは馬鹿みたいにつられはしなかった。
美味いものなんて日本にもどればいつだって食べれるし、聡は豪華なものよりも便利なものを好む性格だったため、贅沢と言うのにもあまり興味はなかったのである。
サートがこの世界で食べた食事は前世で食べた懐かしの料理を食べたかったからであり、それがたまたま不味いものだったというだけだ。別に不味い飯好きという訳では決してない。
それも最近ほとんど制覇してしまったので、これからはこちらの世界でしか食べれない魔物の肉や野菜を中心にしようと考えている。
なんてことをいう訳にもいかず、サイスに同調して場を流した。
そんなことをしているうちにとうとうお楽しみの珍しい料理というのが出来上がったらしく、アイラとアーグが料理を運んできた。
正直その光景を見たサートは二重の意味で、似あわねぇという感想と、まあお約束だなという感想を抱いた。
「ステーキ?」
内心またかよと思ってしまったが、そこは日本の社会人として生きるうちに身に着けたポーカーフェイスで隠し通し、肉がとても珍しいのかなとゴッツに質問をしてみると、
「いや、そりゃ朝おめぇが食った奴と同じ肉だぞ」
という答えが返ってきた。
ここで帰ると言えないのも日本人の性である。
とりあえず席に座り、ゴッツに向かって説明しろと目で要求する。
「こりゃぁな、この町の周辺に多く生息している魔物の肉で、食えなくもないんだが特に美味いわけでもなくてな、でも数だけは多いから高ぇ肉が食えない金欠の駆け出し冒険者に安く売ってんのさ。肉を食わねえとどうしても力は付かねえからな」
最近はほとんど狩り尽くされたけど、どうせすぐに元通りになるさ、とゴッツは言った。
それを聞いたサートは、あぁなるほどと納得した。前世でも似たような話があったからだ。駆け出しのまだまだ経験も実力もない冒険者でも倒せる弱い魔物を狩って、核とその肉を売って小銭稼ぎするというのはほとんどの冒険者が通る道だ。かくいうサートも冒険者でこそなかったが似たような経験をしたことがあった。
その弱い魔物というのがこの町ではこの謎肉だったという話だ。仮にも魔物がこんなに安く売られるほど数が多いという点を除けば簡単なことであった。
だがそのことと珍しいというのは全く関係ないわけで、全然説明になってねえぞと、もう一度ゴッツのほうを見ると、とりあえず食べてみりゃわかると笑いながら言った。
そういう訳で改めてステーキの方に目を移すと、自分が朝食べたものとは香りも色合いも違う気がする。とりあえず食べてみるかと思い、ナイフで切ってみると相変わらずの柔らかさであり、筋もなく簡単に切れていく。
口の中に入れて噛んでみると、何かハーブを使って臭みを取っているのか、あの青臭いような独特な臭みは少しもなく、表面をカリッと少し焦げ目が付くぐらいに焼けた肉の香ばしい香りと、胡椒とその他数種類のスパイスの風味、何よりもその口の中で溶けてしまったかのような柔らかさに驚く。
謎肉とか微妙とか言って本当にすみませんでした。
思わず心の中で謝ってしまったほどに、その肉は美味かった。同じ種類の肉でこんなにも違うものなのかと顔をあげてみると、ゴッツがいたずらを成功させたかのような顔でこちらを見ていた。
完敗した気分なのは確かだが、あのドヤ顔を前にするとどうしても素直に負けを認めたくなくなるため、お前が作ったんじゃないだろうがと負け犬の遠吠えを心の中でつぶやく。
「苦労したのよー。ゴッツが安い肉を美味い肉に変えられたら沢山美味い肉を食べられるようになるじゃないか、なーんて言って。
途中で何度も最初からおいしいお肉を買いなさいよって思ったけど、あのなんだ出来ないのか、っていう顔を見るとどうしても負けを認めたく無くなっちゃうのよねぇ。
今となってはいい思い出よ」
なんであなたはオカマなのですか?どうして女性じゃないのですか?オカマッチョなんて思って本当にごめんなさい。
そんなことを思いがらずっと気になっていた疑問を問いかけた。
「結局これ何の肉なの?」
「あぁ、こん位でっかい芋虫だよ」
「え…………まあいいや御代わり」
ヤンキーやオカマに限って家庭的なのは最早テンプレ