第4話~ファンタジー(ロマンはない)~
「サート、お前を魔術師と見込んで頼みがある。」
「金は貸さん」
「魔術師としてつってんだろうが!金じゃねえよ!ったく、頼みってのはな、あれだ、うちのパーティにも一人魔術師がいるんだが、な。なんつうかその」
「アンちゃんこれ何の肉?安いから頼んだんだけど、味超微妙。御代わり」
「聞けよお前」
「なら早く言えよお前」
サートが朝食として食べている、どんな動物の肉を使っているのか全くわからない謎肉のステーキは、手のひら二つ分はあろうかというボリュームに対して、値段が異常に安いことが特徴だった。
前回来たときに知らないメニューが増えてること自体には気づいていたが、その時は豆のスープを注文しようと既に決めており、それを食べ終えてから余裕があるようなら追加注文しようと考えていたものだった。
しかし豆のスープが文字通り過ぎるほど豆のスープであった。
具は豆のみ、しかもその豆も水を吸い込んで体積が増大していた為、一杯食べ終わる頃にはサートは何かを食べる余裕は欠片も残されていなかった。そのため次回に回したのだ。
聞けばこの豆のスープも腹を満たすことと栄養を取ることのみを考えて作られており、さらに体が資本のくせに貧乏で飯が食えない冒険者のために、できるだけ値段を安くするため他の味や食べやすさなどはほとんど考慮されていないのだとか。
しかし、味の薄い豆を延々と食べ続けるというのはなかなかにキツイ。
この謎肉のステーキも同じタイプかと思っていたが、予想に反してその味は不味くはなかった。
が、決して美味いわけでもなかった。
まさに微妙な味としか言えないのである。
表面に少し焦げ目がつくまでしっかりと焼き上げられていたその肉質はとても柔らかく、簡単に噛み千切ることができた。
だが口に入れると独特の臭みが鼻を抜けていき、肉汁が少ないのが気になったが、ぷにぷにした触感の、初めて食べる新感覚な噛みごたえがあった。
この味を何と言えばよいのか分からず首をかしげている傍で、筋肉の巨体が同じメニューを豪快にフォークで肉をぶっ刺しながら食べていた。
先日、主級と思われる魔物が目撃されてから二週間がたち、ただでさえ鬼畜難易度の迷宮の危険度がさらに上がったことにより、命知らず以外の多くの冒険者は強制営業自粛状態へと追い込まれた。
今は町の有志の冒険者たちと、王都や周辺の町へと依頼された主級討伐のために向かってきている冒険者たちが到着し、実際に主級を倒したことが確認されない限り、迷宮に潜るのは皆遠慮したいだろう。
そのため、別の迷宮のある町に行く者たち以外の冒険者は降って湧いた休日を酒場で時間を潰しているか、自分の技に更なる磨きをかけるために修行をするか、金が心もとない者は町で小銭を稼いでいるかのどれかであった。
サートもその例に漏れず、たまにはこんな日も良いだろうということで朝から酒場に入り浸ってゆっくりしようと思っていたところに、そこで先日知り合った筋肉マッチョことゴッツと偶然出会い、一緒に飯を食っている最中にゴッツが相談事を持ちかけてきたのだ。
その相談事というのはゴッツ曰く、今のゴッツのパーティに一人魔術師がいるのだが、まだ冒険者になってから経験が浅く、しかも冒険者として魔術師はどんな立ち回りをすればよいのか、魔術師ではない自分たちにはわからないのでアドバイスが欲しいということであった。
いつもなら迷宮に潜ったり町の外で野生の魔物と経験を積めばよいのだが、今は迷宮には入れず、近場の魔物もすでに修行中のほかの冒険者たちに狩り尽くされており、赤字覚悟で遠出をしようとしていたら、サートのことを思い出してダメもとで指導をしてくれないか頼んでみたらしい。
「無理じゃね」
「答えんのはえーな、おい」
「見習えよ。という冗談はさておき、実際無理っぽいと思うぞ。俺本業は別にあるし、冒険者稼業は副業だから七日に一度しか迷宮潜らないんだし」
「一人で迷宮潜って帰って来れる奴が一体何の仕事をしているのかは気になるが、まぁ、無理強いは出来んな。ただ、これから暇なときでも何か簡単な助言でも貰えねえか?」
「それは別に構わないが、魔術師と一括りに言っても色んなタイプがあるぞ。魔術師としての実力がどのくらいで、どんな魔法が使えるかによって戦い方も正反対になることもある。
実力は実際にそいつを見てみないとわからないし、戦うスタイルが違えば同じ魔術師でも参考にならんことも当然ある。まあそれでもいいなら暇なときに聞いてくれ」
当然貰うもんは貰うけど、と付け加える。
この世界の魔術師の割合はとても低い。具体的にどのくらいか詳しくは分からないが、それでも、それなりに長く冒険者をしているベテランのゴッツでさえまともに魔術師のことを知る機会がなかったぐらいに珍しいのである。
国軍の魔術師ばかりを集めた魔法兵科か、魔術師の総本山と呼ばれている魔法都市アーリンにでもいかない限り魔術師の戦いを見るのはかなり難しい。
一般人が軍と関わることはほとんどないし、魔法都市アーリンは存在すること自体は確かなのだが、その町にいる魔術師はほぼ全員が魔術の研究が第一といった性格で戦いどころか町の外にもめったに出ないため、一部では幻の都市と言われるほど他の都市とはほとんど交流がないのである。
「あー、んじゃあ、今これから暇ならさっそく会って見ねえか? 割とここから近いとこに拠点があるんだよ。それでちょいと判断してくれや」
これはサートとしても今の時代の一般的な魔術師の力量を図れる良い機会であったし、迷宮に潜らない分暇なので、何か適当に作った魔法具でも売って金にしようと思っていたため断る理由はなかった。
が、
「とりあえずこの微妙な味の謎肉のお代わり食い終わってからな」
もったいないから。
ということでゴッツとそのパーティが普段生活の中心として利用している拠点に向かうと、目に入ったのは宿屋ではなく、アパート暮らしの聡の給料では到底買えないくらい大きな屋敷であった。
建物自体の造りは豪華ではないが、人が十人以上は楽に泊まれるだろうというぐらいにしっかりとしていたその屋敷に、ゴッツの仲間と思われるこれまたマッチョの犬の獣人が入口に立っていた。
その犬人はゴッツほどゴリマッチョではないが、獣人特有のしなやかなで極限まで絞られた筋肉と大きな体格によってゴッツに負けず劣らず強そうに見えた。
ゴッツは二メートルに届こうかという身長と本場のアメフト選手も顔負けの筋肉を持っていたが、犬人の背丈はそのゴッツよりもさらに頭一つ分高かった。
「ようガラン、どうしたよそんな所で。あ、こいつが前に言った魔術師のサートだ、ミラは今どこにいる?」
「……うラ庭だ。遅いぞゴッツ」
「わりぃ、普通に忘れて飯食ってた。サート、こいつがうちのパーティの主戦力のガランだ。無口だがいい奴だぞ」
「……ガランだ」
「サートだ。大変だな、脳筋が身内にいると」
「なレた」
ガランだけでなく、ほとんどの獣人に当てはまることだが、獣人は首より上は完全に獣の頭なので、声帯と舌の形が違うために独特の訛りがある。
人間族の言葉を話すのはあまり得意ではないため、必要がなければあまり多く喋るということをしないのだ。もちろん例外はいるが。
因みにサートの身長は170cmを少し超えたあたりであるため、周りの二人と比べると大人と子供ほどの差があった。
また、ゴッツの厳つい顔と体格とガランの黒くて毛深い巨体が合わさって、傍から見ると非常にカツアゲチックな光景であった。
「てか、やっぱり最初からそのつもりだったんじゃねえか。なーにがこれから暇ならだよ、暇じゃないって言ったらどうするつもりだったんだ?」
「うっへっへ、まあ、実際暇だったろ?」
こうして三人は軽口を言い合いながら一緒に裏庭へと向かっていった。
かわいい萌え萌え獣耳獣人っ娘だと思った?残念、洋ゲ仕様でした!