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第3話~ファンタジー()~

 いつもの如く本日の稼ぎを使ってギルドの裏手にある酒場で懐かしの飯マズ料理を食べていたサートは、自分の目の前に誰かが来たことを飯を咀嚼しながら感じ取った。


 「席いいか?」


 「構わんよ」


 「あんがとよ。つーか、それ、旨いのか?見た感じ貧乏ってわけじゃないだろう。なんでまたそんな安飯なんて食ってんだ?」


 「旨いわけないだろうが。ただ、ガキの頃に食い慣れたもんはたとえどんなに不味くても、どんだけ大人になっても特別なものだろ。不味いけどたまに食いたくなるんだよ、不味いけど」


 今日のメニューは蒸かした芋である。


 味のない、パサパサした舌触りの、ただ腹を満たすためだけに存在する芋である。 

 本当に不味いものというのは味が変な食べ物ではなく、この芋のように全く味のしない食べ物のことを指すのだと、今日新たに発見したサート。


 懐かしさのあまり勢いで注文したサートも正直ちょっと後悔している程まずい。


 なんだかんだで食に恵まれている現代日本で二十年以上も生活していたため、舌が肥えてしまったサートにとって、この無味の芋は想像以上にキツイものがあった。


 当然マヨネーズもケチャップもバターも、塩さえないのである。


 この粘土のような味の芋を食べながら、あの頃はいつか必ずこんな芋を食わなくても済むような生活がしたいと食事のたびに思ったものだと、サートは思い出していた。


 あの時に比べれば今はなんと豪華なことか、と少し初心に戻り、改めて今の幸せを実感したサートであった。


 そのサートの様子を見ていた目の前のマッチョ冒険者はその言葉に共感するところがあったのか納得したように頷いている。

 それが懐かしさに対してなのか、それとも芋の不味さに対してなのかは分からないが、それよりも気になったのがこの時間帯に相席をしなければならないほどに人が混んできていることだ。


 サートは今日、たまたま良い鉱脈に当たったのかいつもより早く予定していたノルマを達成したため、早めに戻ったが、まだ日も沈んでいない時刻にもかかわらず酒場の人が多くなってきている。


 迷宮の中では昼か夜かは分からないが、時間を大まかにだが計る道具は存在する。迷宮は基本的に朝夕関係なくいつでも入ることは出来るが、冒険者を相手にしている店は必ずしもそうではない。


 基本的に迷宮へは数日から十数日がかりで潜るため、冒険者は迷宮から帰ってくると換金素材の査定の時間に、見張りを何人か残すと最初に公衆浴場で血と汗を洗い流す。

 それから酒場やそれぞれの拠点で分け前の分配をするというのが一番一般的だ。


 夜にやっている店と言えば酒場以外はほとんどが娼館であるため、時間を有効的に使うために日の出か日の入り前後に迷宮を出てくる冒険者が多い。その場合、酒場に一番人が集まるのは日が完全に沈むか昇り始める時間帯なのである。


 しかし今日はまだ日の入り前にもかかわらず、ピーク時並みに人が入り乱れている。サートは思った疑問を自分のことは棚に上げて、目の前のマッチョ野郎に尋ねてみた。


 「あぁ、そりゃな、二日前に地下10階でぬし級の魔物を見たやつらがいてな。いつ上にくるか分からんってんで、急いで知らせに戻ったんだとよ」


 主級とは文字通り普通の魔物たちとは一線を画した強さを持つ存在で、分かりやすく言うならいわゆるボス級のモンスターという存在である。大体数年から十数年の周期で一つの迷宮で目撃されている。


 「(やっぱりまだまだ楽にはいかないか、主級は)」


 サートがこの世界へ来るようになってから調べたことで分かったことは、この世界は前世の自分が死んでからそんなに長い時は経っていないということである。

 大体二十数年、今の自分の年齢とあまり変わらない年数だ。


 輪廻転生が本当にあったということはさて置いておいて、この世界は二十年以上経っても文明の発達というものがあまり見られなかった。

 王都などの都市部はどうかは分からないが、少なくとも自分の目で見た限りでは、この町で使用されている武器や薬に大きな違いは見られなかった。


 知識の伝達速度が遅いのか、それとも下手に魔術のような便利なものがあるから発達しにくいのかは分からない。


 だが、前世で自分が生きている間でも特に文明が発達したという実感はなかったため、案外こんなものなのかもしれないとも思う。

 現代社会のような僅か数十年で別世界に様変わりするかのような発展速度を基準に考えるべきではないのだろう。


 そして主級の脅威も変わらず存在した。人間なんて銃がなければ熊や猪どころか草食動物に勝てるかさえ怪しいのに、その猛獣を軽く捻り潰す力を持つ主級に生身で勝てる筈もなかった。野生の動物を一刀両断だとか殴り殺せる人間などは、まさに空想ファンタジーの中の存在と同義であった。


 そんな存在を生身で倒せるのはトップクラスの実力者の中でも人間をやめてるとしか思えない本当に一握りの戦士や魔術師だけである。

 普通は何日間も犠牲を覚悟で圧倒的多数で主級を追い込み、いくつもの罠をしかけ、弓矢や魔法で遠距離から徐々に体力を削っていくのである。というか、普通に討伐するならそれしか方法がないのである。


 因みに主級を一人で倒せるという基準で言うのならサートも一応この人外の内に入る。だが当然のことながら全く討伐する気は起きていない。

 

 理由は言うまでもない。


 サートはその後マッチョ冒険者ことゴッツとよほど気が合ったのか、子供の時に食べた不味い飯あるあるで話が盛り上がったり、テンションが上がって看板娘のアンに対して不味い飯が欲しいと注文しては不機嫌そうなアンに叱られていたりした。


 それからも不味い飯を食べながら色々な話をしたり、迷宮の情報の交換をしたりなど、今までほとんどボッチ同然だったサートは久々にこちらの世界で楽しい時間を過ごし、ゴッツに別れを告げて元の世界に帰った。


 明日は甘い石焼き芋を食べようと心に決めて眠りについた聡であった。


漫画とか小説でで感覚がマヒしてるけど、実際にやったら作者はちょっと大きい犬にすら勝てる気がしない。


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