プロローグ
初投稿です。
不定期、さらに文字数もランダムです
本当に暇つぶし程度にお考えください。
「酒ぬっる、うっす、まっず」
夜も更けたとある酒場で一人の男が酒場の隅で誰にも聞こえないような小さな声で言った。
その男は屋内にもかかわらず全身を地味な灰色のフードで隠していた。そして彼の身長と同じくらいの杖を壁に立てかけ、料理を待つ間の時間潰しとして注文した安酒に対して正直に思った感想を口に出していた。
しかし、
「不味い、もう一杯いこう」
不味い。
本当に不味い。
今時田舎のどんなに安い居酒屋に行ったとしてもこれより不味い酒を出すところはそうそうないだろう。これほどまずい酒は探す方が難しいというほどまでに不味かった。
キンキンに冷えたジョッキになみなみと注がれたビールと比べるのもおこがましいほどにこの安酒は不味かった。自動販売機で売られている酒のほうがこれよりも比喩なしで何十倍も美味いだろう。
もう少し値段の高い酒を頼めばまた別なのであろう。だがしかし、男はほかの酒を飲むつもりはなかった。金が無いわけではない、不味い酒好きというわけでもない。が、不味いと思う以上に、
「(懐かしい)」
その感情のほうが何倍も大きかったからだ。
だんだんと酔いが回り、より一層騒がしくなってきた周囲の客とは反対に、男は一人でちびちびとマジで不味い酒を飲んでいた。だがどうやら自分の注文した料理が運ばれて来たのを見るとテンションが上がると同時に、酒のお代わりを頼んだ。
注文した料理は鶏の肉に塩を振りかけ、直火で中に熱が通るまでじっくりと焼いた串焼きというシンプルな料理だった。
調味料が貴重なためか塩以外には何も味つけがされておらず、肉も老いた鶏の肉を使用しているためとても固そうだったが、滴る肉汁に少し焦げ目がつくまでしっかりと炙られた肉の香りは、昼間に運動をした空きっ腹にとってはとても我慢できそうにないものであった。
早く食いたい。その本能に逆らわずガブリ、とそのまま手掴みでかぶりつく。やはり少し硬く、なかなか噛み千切れなかったが、その香ばしさと噛みごたえによって、なによりも肉を食べているという気がする。
焼き立てでまだまだ熱い鶏肉を、舌をやけどしないように先ほど頼んだぬるいエールをがぶ飲みしてはまたかじりつく、それを何度も繰り返しながら昔の記憶を思い出す。
昔、まだまだ本当に若造だったころは毎日必死に働いて金を貯めてはこうして安い酒と安い肉を食べるのが何よりも楽しみで、唯一の生きがいだった。
幸か不幸か、魔術の才にそこそこ恵まれていなければ、そのままずっとその日暮らしをしていたかもしれない。その点では幸せだといえるのかもしれない。
「ふー、ご馳走様」
日本に生まれて二十数年、すっかり習慣になった言葉を言うと、男は勘定を済ませ、更に賑わってきた夜の酒場を後にした。
そして人気のない裏路地に誰にも見られていないことを確認すると、
「戻ったら焼き鳥屋で飲み直そう。冷えたビールと焼き鳥のタレ味が食いたい」
そういった次の瞬間には彼の姿はどこにも見当たらなかった。