表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ゆなの朝

作者: 向日葵さん

ゆなの番~!


ホームの灯りが消えないのは、ゆなにとってありがたかった。

寒さが遠ざかり、夜でも戸外で眠れるほど暖かくなっても、都会の闇の中では眠る事は出来ない。

ゆなも、それはだいぶ前に知っていた。

一年ほど前に見た、女の力の無さがゆなの頭をよぎる。


明るい所で休もうっと


十六歳のゆなは、自分が暗闇の餌として充分過ぎるほど発育している事をしっていた。

しかし、友人の心無い悪戯から今夜このような所で休まなければならなくなった。


理恵の奴、あたしの彼氏がそんなに欲しかったのかしら

最悪~

健は大丈夫だと思うけど…


友達の理恵と彼氏、健はゆなを駅に待たせて消えた。

気づいていながら、ヤキモチを焼けず2人を行かしてしまった自分が、何より惨めだった。寂しかった。


健…


ガタガタ!


誰?


グルル…


振り返ると、グールが大きく顎を開いていた。


ひぃ!


ゆなは、思わず失禁しながら後ずさる。

グールが、なおも近づくと、後ろの壁にぶつかった!

後がない!

そう思った時、


グゥ!


グールが、何かに気がついた。

辺りを見渡す余裕など、ゆなにはなかった。


気がつくと、抱えられて運ばれていた。


誰?!


顎髭だらけで、少し汗臭い顔がゆなを見た。


……


何も言わずに、アスファルトの上に降ろされるとパンツが濡れて冷たく感じられた。


1人か?


顎髭は、首を左右に回しながら訪ねた。


ゆなは、答えられずにいた。


ついてこいよ!

心配すんな、俺、卓也

お前は?


ゆな……


パンツ濡れてるぞ(笑)


見ないで!


ついてこい


卓也は明るい方とは反対に歩き出した。

何にも考えない訳じゃないと、頭が勝手に考えていた。

心と足は、すでに卓也の後を追いかけていたが。


ゆな、お腹すいた?


うん


卓也はズボンのポケットから、ライターほどの大きさの包みをゆなに渡した。

チョコレートらしい。


ありがと


えっ?


ありがとう!


(笑)

どーいたまして


ゆなは卓也の脇へ来ると、聞きたい事と見たい事を迷うように始めた。


どこ行くの?

ここはどこ?

卓也さん、何してる人?

彼女いるの?


とりあえず思いつくまま聞いてみた。

最後の質問は癖だった。


俺んち行こ

俺は仕事帰り

彼女は……


彼女は?


欲しいな


そう、


ゆなは、慣れてきたのが自分でも分かった。

卓也はみた感じオヤジ。ジーパンにTシャツ。背が高いけど、少しお腹が出てる。

右足を少し引きずって歩く癖があるようだ。


足、痛いの?


大丈夫だよ

ほら、入りなよ


お邪魔しま~す

げっ!


散らかっててごめん


散らかり過ぎかも(笑)


ゆなは遠慮しないなぁ(笑)


足の踏み場を作り出し、二階へと上がっていく。

二階は、かなり広い居間とも寝室とも呼べる部屋だった。

こちらは綺麗に片付けられていて、ゆなはクッションの上に座り込んだ


冷て(*_*)!


シャワー浴びてこいよ


うん


バスタオルと、スウェットを渡されて扉の前に立つゆな。


後ろ向いててほしいんだけどなぁ


は~い


ホントに後ろ向きかどうか、確かめもせずに裸になった。


ありがとう(^^)v


そう言って、部屋に戻ると、ダブルのベットに腰掛けた。

本を読んでいる卓也の方へむき直して、


眠い


寝ていいよ


ベットで?


うん


おやすみ


はい、おやすみ


疲れているのだろう、足から腰まで寝た。

が、胸と頭はさらに冴えてきていた。


ねぇ


ん?


眠らないの?


なんだ、腕枕でもしてやろうか(笑)


ううん(^_^;)


沈黙のあと、ゆなは目を閉じる。

胸に腕を当てようとして、よじれるが、足だけがばたつく。

そっと、覆い被さるように卓也が近づく。


黙って見つめる、ゆな。


ギューッ


太い腕と厚い胸に挟まれながら、柔らかい安心感を感じるゆな。


おやすみ


うん


朝なのか、空気が弾む。

横を向くと卓也が、こっちを見ていた。


寝なかったの?


寝たよ、すぐ起きちゃうんだ


ありがと、昨日は

抱っこして


いいよ


お腹すいた?


ううん、すかない


最近気になりだした二の腕を触りながら、ゆなは頭をあずけた。


ゆなは、どこに住んでるの?

送るよ


まだ、いてもいいかな?


どしたの?

帰らなくていいの?


ゆなは、卓也のお腹につかまって動かない。


卓也が、小さくゆっくりと喋った。

その声は、ゆなの心に染み込んだ。

ゆなは、泣いていた。

一時間も泣いていただろうか、泣き疲れて、涙が出なくなると、卓也はそっと起き上がった。

ゆなは頭をお腹から離し、布団の上にそっと置いた。


ゆな、送るよ


うん、近くまででいいから


後は?


誰か呼ぶ


分かった


卓也の車に揺られながら、黙って腕にしがみつくゆな。

タバコを吸いながらゆっくりと、アクセルを煽っている卓也。


じや、本当に家まで送らなくていいのか?


うん、男呼んだから


そっか…

またな!


寂しそうに笑う卓也に背を向けて、勢いよくドアを閉めると、

振り返らずに、歩いていく。


遠くでゆなを呼ぶ声がする


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ