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第十話 そのままでいて

 

 丁度夜が明けて朝日が上がり始める頃、私は自分の部屋のベッドの上からその光景を見ていた。

「ぐぉ。ぐおおおおおおおおおお。」

 昨日は全く眠れなかった。考える事が多すぎて、眠る事が出来なかったから(まあその前に、のぞみちゃんの強烈なイビキのせいもあるけど‥‥‥)。

 あの朝日みたいに、私の暗い状況にも光はさすのかな‥‥‥‥?


 朝のいつもの時間に、のぞみちゃんがスッキリしたような顔で起きてきた。すると起きてきて早々、私の顔を不思議そうにじっと見てきた(目の前に私の顔があるって、双子じゃない限りありえない事なのにもう慣れちゃったな)。

「ふぁ〜。おっはよ〜‥‥‥‥‥ん? ひかりどうした? 目の下にクマできてるけど?」

 誰のせいだと思ってんの‥‥‥‥‥‥。

「まあ、昨日色々あったからな。眠れないか‥‥‥。」

 だから、のぞみちゃんのせいだって。

「そーか、そーか。」

 なのにのぞみちゃんは、勝手に納得しちゃってるし‥‥‥。まったく。でもこの、のぞみちゃんの明るさが私の光なのかもしれないね。私はちょっと意地悪っぽくクスッと笑った。

「ん? な、何だよ、ひかり。人の顔見て笑ったりして。」

「ううん、何でもないよ。‥‥‥‥ああ! もうこんな時間! 早く学校行かないと、遅刻しちゃうよ。」

「え?」

「わー! まだご飯も食べてないのに! でも、今出ないとダメだし‥‥‥‥。おかあさん、行ってきまーす!」

 「ご飯食べなくていいの?」と心配するお母さんをよそに、私は制服を慌てて着て家を出た。何故かビックリしたような顔をしたのぞみちゃんがそこにいた(置いてっちゃうよ〜)。


「だけどさ〜、ひかりも強くなったよな〜。」

 走っている私に、のぞみちゃん(空、飛んでます)は横から余裕たっぷりに欠伸をしながら話しかけてきた。急いでいるせいもあってか、私の返事は空返事だった。

「ふ〜ん‥‥」

「ふ〜ん‥‥って絶対聞いてないだろ!」

 バレてたな、うん。

「でも、本当に強くなったと思うぞ。」

 半分怒りながらも、のぞみちゃんは本当に納得しているようだった。

「だって、前だったら『行きたくな〜い!』って言ってガクガク震えてただろ?」

 確かに‥‥そうかもしれない。前だったら絶対登校拒否をしていた。だけど今はそんな気持ちにはならない。

「多分‥‥のぞみちゃんがいるからじゃない?」

 そう言ってニコッと笑うと、のぞみちゃんは「そうかな」とだけ言って顔を背けた。‥‥照れてるの?


 学校に行くまでは大丈夫でも、さすがに教室の前だとお腹が痛くなる。こ、ここだけはまだ慣れてないみたい。

「大ジョーブ、大ジョーブ!」

 のぞみちゃんはグーサインを出して私を励ましてくれた。よーし! 入ります。


 ガラッ


 教室に入ると、そこにはいつもの風景があった。皆固まって思い思いの事をしている。その中に‥‥美沙がいた。美沙‥‥。

 私が席に行くには、必ず美沙の横を通らなければいけない。私の心臓の速度が美沙に近づくにつれ高まる‥‥。


 ドクン ドクン


 と、通った‥‥。ふう〜。私はあえて美沙の顔を見ないように自分の席についた。美沙の顔を見たら悪い気がして。でも、なんだろう? ‥‥このどこにも行き場がないむなしさは。

「なーに、そんな緊張してんの!」

 のぞみちゃんは横でちょーお気楽な顔をしている。‥‥幸せな人だなー。

「‥‥そのむなしさ、あたしにもわかるから。」

「え? どうして?」

「え‥‥‥忘れたのかよ! あたしはひかり! ひかりはあたし!」

 あ‥‥すっかり忘れてました。

「そういえば、そうだったね。」

 わかるって言われても‥‥私には全くわからない。


 時間が過ぎてお昼休みになった。いつもなら谷岡さん達にパシリにされる所だけど、今日は誰からも声はかからなかった。よかった〜とは思うけど‥‥お昼どうしよう?

「どうしようって何が?」

「思えば‥‥私、いっつも美沙達にくっついてたんだよね。お昼の時も。まあ、それも横で食べているだけで輪の中に入ってる訳じゃないけどさ。だから、こうやって自由なのって初めてなんだよね。」

「ふ〜ん。‥‥あたし、屋上行きたいな!」

 屋上? 屋上ってそういえば行った事ないなあ。

「あたし、屋上行きたいな!」

 さっきと同じ台詞だよ‥‥。まあ、行ってみようか!


「へ〜。屋上っていいとこじゃん!」

 のぞみちゃんが感心したように屋上を見渡していた。確かに、ここはいい所だと思う。景色もおおげさに言うと東京タワーからの景色に引けをとらないほどキレイだ。それに、ここにいると空が広く感じられる。

「寝っころがろーっと!」

 そう言うとのぞみちゃんは地べたに寝っころがって「ふー。」と何かをはきだすようにしていた。私も同じように寝っころがる。‥‥空がプラネタリウムみたいにとっても広い! 空が蒼いなー。雲がゆっくりと流れていく。本当にゆっくり‥‥。

「日向があたってポカポカしていて気持ちいい〜。」

 確かに、暖かいなー。

 あー、なんか幸せだなー。寝ちゃいそう‥‥。

 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥


 ‥‥あれ、私本当に寝ちゃった‥‥。のぞみちゃんなんか、まだ寝てるし‥‥

 ん? 私の上になんか毛布みたいなのがかかってる‥‥。これは‥‥制服!? しかも、男物!?

 急いで起き上がってあたりを見渡したけど誰もいない。階段付近にまだいるかも、と思って行ってみると‥‥いた。だけど‥‥なんでコイツが?? ああ、降りてっちゃう‥‥。

「ま‥‥待って!」

 私が出せる限り叫ぶと、ソイツは立ち止まって振り返った。やっぱり、”アイツ”だ‥‥。

「こ、コレ‥‥。」

 私が高々と制服をあげると、ソイツは階段をあがってきた。うう‥‥緊張する‥‥。そうして私の階まで上がってくると、私に制服を差し出すように手を出した。私はそっと制服を手にのせた。その瞬間、そっと手が触れてしまった‥‥。いやー!

「ありがとね。」

 そう言って私の目を見てかすかに微笑んだ。顔が真っ赤に染まって行く‥‥ん? ありがとねって‥‥これ、あなたが私の上に置いたんじゃない!

「な、な、な、な、な、なんで私の上に制服置いたの!?」

 どうして『!』マークが入るの、私! 私が力んでハズすと、あろうことかコイツは「プッ」と笑った。な、何で笑うのよ! 私がキッと見据えるとソイツははっとして弁解しはじめた。

「あ、ごめんごめん。ちょっと面白くて‥‥。」

「面白いって何がよ?」

 なーんかこの人といると性格がキツく変わってしまう私。どして?

「なんとなく何か言動が面白いんだよね。”ひかり”ってさ。」

 ”ひかり”‥‥。今、ひかりって呼んだよね? 空耳じゃないよね?

「‥‥どうしてここにいるの? お昼ご飯は? 真島君達と一緒じゃないの?」

 真島君とはコイツがいつも一緒につるんでいる人。それ以外にも仲間はたくさんいた。なのに、どうしてここにいるの?

「んー? 何でだろうね?」

 そう言うとコイツはそこに座り込んだ。‥‥帰るんじゃなかったんですか? 仕方なく私もそこに体操座りをした。

「それにしても‥‥こうやって話すの久しぶりだね。」

 コイツは私の顔を見ずに空を仰いでボソッとつぶやいた。そういえばそうだよね‥‥。

「まあ、仕方ないんじゃないかなあ。クラス替えがあったし、中学で同じクラスになっても全く話さなかったからね。」

 私も空を仰いで一気に喋った。なんか、棒読みになってる‥‥。

「だろうね。お前、昔は明るかったのに今はアレだからなあ‥‥。」

 ムッ。アレって何よアレって‥‥。コイツが変にお世辞を言わないのは変わってない。

「人は皆年月がたつと変わって行くものなんだよ‥‥。物も‥‥人も。」

「え?」

 そこでコイツは初めて私を見た。だけど私はコイツを見ずにただ空を見て淡々と話していた。

「だってそうじゃない。昔はすっごく優しくて仲が良かった人でも、今は冷たくて他人同然って事があるじゃない。私、今までずっと変わっていかない人を見た事ないよ。皆、私の存在なんてないみたいにしてるじゃない。誰も私の事を見てくれないよ‥‥。」

 そのとき、我慢していた涙が頬をつたって下に落ちた。また、泣いちゃった‥‥。


 そうだ、私が感じていたむなしさはこれだったんだ‥‥。


 私が記憶を失ったあのクラスに、知っている人がいない訳ではなかった。うちの小学校には私が通っていた幼稚園出身者が数多くいた。当然あのクラスにも。

 ある日、私はその子に声をかけた。

「おはよう、奈々子ちゃん!」

 だけど‥‥その子は私の横を素通りした。無視‥‥私はそう悟った。奈々子ちゃんは幼稚園でも特別仲のよかった子だったのに‥‥。それは、他の子達もみんなそうだった。

 どうして? どうして皆は私を無視するの?

 私にとってその出来事は、楽しかった想い出を全てリセットされたような気がして悲しかった。悲しいよりもそれ以上の気持ちだった。

 きっと私はさっきそれを美沙に感じていたんだ‥‥。


「誰も私を見てくれないよ‥‥。」

 私がその悲痛な思いを吐き出すと、自然と涙が出た。私、泣き虫だね‥‥。いつも泣いている気がする‥‥。そんな私をコイツはただ見ていた後

「そんな事ないよ。」

と言って私の頭に手をのせた。手‥‥暖かくて大きいな。すると突然私の涙がピタッと止まった。緊張からなのかな?

「俺は‥‥ひかりが頑張っているのちゃんと見てるから。」

 そう言って私の目を見てニヤッと笑った。相変わらずの子供っぽい笑顔‥‥あれ? ”相変わらず”? って事は‥‥私バカだ。この人だけは‥‥昔のままの優しい人だったんだ。

「だから、もう泣くなよ。」

「うん」と私は小さく答えた。

「じゃあ、俺そろそろ行くわ。」

 そうやって立ち上がると、コイツは制服を持ってまた階段を降りて行った。

 あれ? どうして? 止まったと思っていたばかりの涙がまた溢れてきた‥‥。

「旭!!」

 自分でもどうしてかわからないまま、私は旭を呼び止めた。旭は再び立ち止まって振り向いた。

「ありがとう!!」

 そう叫ぶと力の限り手を振った。すると旭も笑って手を振って去って行った。


 夢にも思わなかった 自分を見守ってくれている人がいたなんて

 お願い 旭

 あなただけは

 あなただけは どうかそのままでいて




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