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そのままの君で

作者: 百合茶
掲載日:2006/09/18

前作『敗者の勝点』の一ヶ月前の内容となっています。ちなみに今回の主人公はテル。前作を読んでなくても問題はありませんが、前作も読む予定なら、前作を先にする方を勧めます。

俺とあっちゃんは幼稚園からの付き合いで、小学生の頃からずっとサッカーをやってきている。あっちゃんとは不思議なくらい共通点があって、好きな物はカレーとサッカー、クラスは2年連続一緒だし、家は同じアパートで1階と2階の関係だ。ずっと一緒だからお互いの事はよく分かっている。


──そんなある日


放課後、部室へ向かう途中に、あっちゃんが見慣れないマネージャーを発見した。

「テル、見ろよ。物凄い美人!」

「ん?マネージャーさん増えた?」

─どう見ても3年生だよなぁ。なんで今頃から…

「さっそくアピるぞ!」

「何をアピるんだよ?」

俺の問いが耳に入らなかったのか、あっちゃんはもう歩き始めていて、俺は慌てて後を追った。

─『谷口里美』さん。予想通り3年生。規定よりスカートが拳2つ分短い。

「俺の苗字と同じ『口』の字が!これはもしや『運命』?」

─『森口敦』と『谷口…さん』。『運命』と言うよりも『偶然』に近いと思うけど…。そんな事より、マネージャーこれで4人だぞ。辞めた人も合わせたら6、7人…!

「テル?聞いてるか?これは絶対…」

「これは絶対誰かにコクるな。」

「え!?俺をさしおいて先客がいるのか!?」

そう言うとあっちゃんは大袈裟にため息をついた。でもすぐに前を向く。どうやらターゲットを変えたらしい。辺りをぐるりと見回して、ぴたりと動きを止める。

「じゃあ、あっちの二人…」

指さした方向には、キーパーを洗いながら楽しそうにお喋りをするマネージャーがいた。

「またマネ。しかも(アネ)さん。」

「テル、最後のは余計だぞ。…優しそうで俺はイイと思うけど?」

「俺はあんまり…。」

「何だよ、それ。」

─『何だよ、それ。』って言われてもなぁ。

自分でも分かるような分からないような…。

上手く説明できない。皆一様に制服を着こなし、そこから伸びる手足は綺麗な白さで、曲げられたスカートのウエストは華奢に映る。先輩たちと楽しそうに喋りながらも時々見せる女の子らしい仕草…。あっちゃんのように口を半開きにして眺めていてもいいのに、テレビを見ているような気分。

黙っていると、あっちゃんが俺の顔を覗き込だ。

「お〜い、テル?日本語分かるか?『あんまり』って何だよ、あんまりって?」

「そのまんま。よく分からんけど、何かなぁ…あんまり。」

「え〜!?はっきりしろよ。大体、テルっていつも曖昧だよなぁ?」

しつこい。いつもと変わらない、冗談を言うような軽い感じのあっちゃんだけど、この時はなぜか鬱陶しく感じた。

「あっちゃん!」

「うん?」

「俺にだってよく分からん事くらいあるんだっ!あっちゃんこそ鈍感でずうずうしくて、名前の通り『厚かましい』んだよ!」

俺はそのままくるりと背中を向けた。あっちゃんは…何も言わない。そのまま収拾がつかなくなった俺は、

「先、行っといて。」

といい捨てて、元来た道を引き返した。


─言い過ぎた。別にそこまで言うつもりじゃなかった。なぁ、分かるだろ?つい勢いに乗って口走っただけ…。

あっちゃんが黙ったままなんて、今までなかったから、どうすればいいか分からない。

あっちゃんとは不思議なくらい共通点があって、好きな物もクラスもアパートも同じだ。ずっと一緒だからお互いの事はよく分かっているつもりだった。でも、実際は分からない事もある。分かってもらえない事もある。"共通"なんて"偶然"とそんなに変わらないものだ。それを引き合いに出して、分かったつもりになっていただけ…。

あっちゃんになんで苛立ったのか分からないし、確かにちょっと鈍感だけど『厚かましい』なんて、思った事もない。あっちゃんは俺の言った事全てを真に受けてはいないだろうか。


気付いたら教室の前まで来ていた。ここでもあっちゃんと俺は同じ教室に席を並べている。


ガラッ


引き戸独特の音がやけに勢いよく響く。奥の方で人影が動いた。

「梨乃…。まだ居たのか?」

クラスメイトの石井梨乃が、電気もつけずに窓際の机に座って外を見ていた。俺が中へ入ってきても風に揺れる髪以外、そのままの体勢でグラウンドを眺めている。

「なぁ…」

「部活は?」

俺が問うより先に梨乃が鋭く訊いた。

「あぁ…忘れ物取りにきただけ。」

とっさにでた嘘。そう、やろうとも思わない国語の宿題を取りにきただけ…。

「それよりさ、梨乃は何見てたんだ?」

これ以上訊かれたくなくて、話題を切り変える。

「あのね…」

梨乃は呟きながらまたグラウンドに視線を戻した。

「あたし、マネージャーやろうかなーって思ってるの。」

「じゃあ、部活は…?」

「辞める。」

「なんで?」

俺は梨乃の隣まで来ていた。

「なんで、なんで辞めるんだよ?」

─"夏季大会は先輩達と一緒にベスト4入りしたい。"って言ってたの、一体誰だよ?"やりたい事をやらないと学校来る意味ないよ。" と言って、テスト休みでもこっそり自主練していた事も見ていたんだぜ。それを捨ててまでやりたい事かよ?

頭の中で沸々と生まれる怒りのような焦りが、疑問詞となって駆け巡る。

バレーをやってない梨乃は梨乃じゃない。

「あたし、もう駄目なんだよ。怪我してるもん。」

そう言って、地面から宙に浮いた左足に目を落とした。

先週、捻挫したと言う足首には湿布と包帯が巻かれている。

「それに…」

梨乃が別の理由を語るように、グラウンドに向かってため息を洩らす。

「マネージャーなんか、やるな。」

とっさにそう言っていた。

「そんなの梨乃のキャラじゃないだろ。マネージャーってのは、タイム計ったりキーパー作ったり…」

語気に熱が入っている事に気が付いて、何でもないように宙に目を向けながら冗談がましく付け加える。

「あー…キーパーってゴールキーパーじゃねぇぞ?梨乃がゴール守ったら佐川の出番がなくなるからな。」

しかし梨乃は笑うどころか驚いたようだった。口を『え?』の形にしたまま一瞬沈黙が流れた。

「なんで…サッカー部って分かったの?マネージャーなら野球もバスケも募集してるのに…。」

「それは…。」

言われてみればそうだけれど、心の奥では知っていた。梨乃が語ろうとした別の理由も、その言葉を無意識に遮った訳も分かっている。あの時俺は焦った。前から勘付いていた事を事実と認めるのが嫌だった。あっちゃんが興味を持って、俺が関心のない"谷口さん"。梨乃が彼女と同じものになるのを心の奥で拒んでいる…。

「とにかく、マネージャーなんて梨乃には無理だよ。」

梨乃の顔がさっと曇る。

…違う。そんな意味じゃない!

『いつも曖昧なんだよ』と言った、あっちゃんの顔が思い浮かぶ。

曖昧だから伝わらない。真っ直ぐ伝えたいけどそれができなくて、いつも空回り。面と向かうと言えない一言…。

「どんなに傍にいても、良く見せようとしたら、かえって何にも分かってもらえないもんだぜ。」

梨乃があっちゃんが好きな事くらい分かってる。でもあっちゃんは気付いてない。想いに"偶然"なんてないから"共通"することは難しい…。だからこそ丁寧に伝えたい。そのままに伝えたい。

「足、さっさと治して復帰しろよ。バレーやってるのが梨乃なんだし。マネージャーなんかやったら、俺…諦めるからな。」

「何を?」

息を吸って一瞬肺に留める。胸の奥から生まれる熱で、空気は温まってゆっくり出ていった。

「梨乃の事。」

梨乃の頬がさっと赤く染まった。

「俺はまだ諦めたくない。梨乃が誰を想おうとな。」


窓から風が入って、梨乃の香りを運んできた。いつも傍で感じてたレモンライムの香り。


「いつから知ってたの?」

梨乃の想い人があっちゃんだと気付いたのはいつだったろうか…。

「そうだなぁ。梨乃を好きになった時には…。まぁ、小学校時代からだな。」

「一途だね。」

「そっちもな。」

恥ずかしくて照れ隠しに笑う。何だかおかしくて、くすぐったくて。


「テル!」

聞き慣れた声がして振り返るとあっちゃんがいた。

「何だよぉ。怒ってると思ったら楽しそうに…。」

あっちゃんがぐいっと袖を引っ張る。

「パスの相手がいないと部活できねぇだろ。ほら、テル行くぞ!」

「お、おう!梨乃も部活行けよ?」

にっこり笑って頷くのを確認して教室を出た。

そのままの自分でいたいから、俺は今日もボールを追う。

三角関係になってしまいましたね。

真っ直ぐ伝えたい、そのままの想いを伝えたいなら、自分を飾る必要なんてない。と言うこと、どんなに共通点があっても、お互い分からない事は沢山ある。ということ。あっちゃんとテル(梨乃もか?)のストーリーはまだまが終らないのかもしれません。

最後までありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 私の名前があって感激
[一言] 読ませて頂きました。 地の文が硬いからか、読みにくい感はありました。それでもメッセージ性は感じましたね。 まさかテルが……。今後の展開が実に気になるところです。あっちゃんには頑張って欲しいで…
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