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EVOLVE〜エヴォルブ〜

【短編】EVOLVE〜エヴォルヴ〜 Episode 0

作者: 柊梟環
掲載日:2026/09/26

— 環(たまき) —


わたしはずっと闇の中を彷徨(さまよ)うように生きてきた。


親の虐待、いじめや嫌がらせ、冤罪(えんざい)。


信じた人には裏切られ、いつの間にかやってもいない罪を背負わされていた。


誰を信じたらいいのかわからず、心を閉ざし

それでも光を求めて闇を彷徨(さまよ)った。


諦めていた時、ひとつの小さな光に出会った。


その光は、もうひとつの大きな光へと導いてくれた。


大きな光は言った。


「握った手は離さない。」


強くてやさしい言葉だった。


わたしがずっと求めていた言葉。


大きな光と小さな光は

ぽかぽかとあたたかい光を纏(まと)い

わたしを包んでくれた。


そしてわたしは、そのふたつの光に包まれたまま

明るく輝く光の中へと戻っていった。



◇◇◇



― 如月(きさらぎ)柊(しゅう) ―



柊(しゅう)は、穏やかでやさしくて芯が強く、思いやりのある子どもだった。


両親の仕事が忙しく、叔父の家で過ごすことが多かった。

叔父には子どもはいなかったのと、叔父の柊真(とうま)と柊(しゅう)はどこか似た雰囲気があり、気が合うのか柊(しゅう)は柊真(とうま)に懐いていた。

いつしか、柊真(とうま)が憧れの存在となっていった。


柊(しゅう)は両親を気遣い、子どもながらに家事を手伝うような子どもだった。


休みの日には3人で出かけた。

父が運転し、母が助手席。

いつも笑いの絶えない明るい家族だった。


柊(しゅう)が高校を卒業したある日のこと、

出張先の事故に巻き込まれて両親は他界した。

楽しい思い出だけを残して……


柊真(とうま)の妻はずいぶん前に病気で他界していたため

柊(しゅう)は柊真(とうま)と暮らすことに決め、

男同士の2人暮らしがはじまった。


柊真(とうま)は、柊(しゅう)の心に大きな闇があることに気づいていた。

それでも柊(しゅう)は、それを必死で隠して、明るく過ごしていた。


柊(しゅう)は大学へ入り、将来は柊真(とうま)と同じ道へ進みたいと話した。

そして、柊真(とうま)が働く会社へ内定が決まり、新入社員として入社した。


柊(しゅう)は人柄が良く、同期入社の仲間と楽しく仕事をしていた。

面倒見がよく、後輩からの信頼も厚く、入社5年で主任という役職になり、多数のプロジェクトチームに参加した。


入社して7年目となったある日。

社内のカフェテリアの一角で過ごす、ひとりの女性に目を奪われた。

穏やかでやわらかい笑顔。彼女の持つあたたかい雰囲気。

話したことはないけれど、見かけるたびに追ってしまう女性。

彼女が微笑む時にあふれる光に、柊(しゅう)は惹(ひ)かれていった。


いつもの時間、いつもの場所、ふんわりとしたやわらかい笑みを浮かべて過ごす彼女を、少し遠くから見つめていた。


ある時、同期の中里(なかざと)涼平(りょうへい)にそのことがバレてしまい、

涼平(りょうへい)からは、なんとかして話せる状況を作ろうかと提案されていたが、柊(しゅう)は毎回断っていた。

自分のタイミングで声をかけたい。そう思っていたから。


カフェテリアの彼女は、スマホを見ながらふんわりと微笑む。

ティーカップを両手で包むように持ち、やわらかな表情で紅茶を飲む。

柊(しゅう)は、そんな彼女の仕草を見逃さないように見つめていた。


だけど、彼女はときどき、さみしげな表情をする。

柊(しゅう)はそのことが気になっていた。


ときどき、彼女の所属する部署を訪ねると、彼女はカフェテリアにいるときとは違う、キリッとした表情で作業をしていた。

電話応対、書類の整理、キーボードを打つ正確さ、困っている同僚に声をかけ手伝い、後輩から頼られているように見えた。


しかしある時、彼女の上司が彼女にキツくあたっていたのを見かけた。

彼女は強ばり少し震えていた。

上司が去ると呼吸を整えるように数回深呼吸をして、仕事に戻っていた。


柊(しゅう)はその時、声をかけるか迷ったが、彼女の上司と目が合いやめた。


それからときどき彼女の部署を訪ねると、その光景を見ることが増えた。

気になったが声をかけられずにいた。


彼女との出会いから3年が経った頃、ある事件が起こった。

情報漏洩事件。

彼女が犯人とされ、居場所を奪われ、退職した。


柊(しゅう)の叔父である柊真(とうま)はその部署の統括部長だったため

責任をとって辞任を決意。


柊(しゅう)はおかしいと思った。

彼女がそんなことをするはずがない。


柊(しゅう)を慕う後輩、凪(なぎ)陽翔(はると)も柊(しゅう)と同じことを思っていた。

柊(しゅう)は柊真(とうま)に情報漏洩事件を調べさせてほしいと頼み、

彼女が本当に情報漏洩事件を起こしたのかを、

後輩の凪(なぎ)陽翔(はると)と一緒に調べた。


思ったより時間がかかったが、犯人は彼女ではないとわかった。

その時には、すでに彼女は退職してしまっていた。


それからの柊(しゅう)は、口数が減り、ぼんやりすることが増えた。

同期の中里(なかざと)涼平(りょうへい)と、後輩の凪(なぎ)陽翔(はると)は心配して、毎日、柊(しゅう)に声をかけていた。


それから数週間、柊(しゅう)は退職することを決めた。

また、柊(しゅう)と一緒に仕事をしていた後輩の凪(なぎ)陽翔(はると)も、柊(しゅう)と同じ思いだった。


柊(しゅう)と凪(なぎ)は同時に退職し、柊(しゅう)の叔父の柊真(とうま)と凪(なぎ)と一緒に起業した。


「誰も傷つかないシステムを作る」


カフェテリアの彼女のやわらかい笑顔を守れるようなシステム。


アークシステムズを。

ここから先は、「EVOLVE〜エヴォルヴ〜 Season1」へと繋がっていく。


柊(しゅう)は両親が同時に突然の事故で他界し、心の奥に闇ができた。

でも環(たまき)と出会ってその闇が闇ではなくなっていった。


両親が同時に他界してしまう、という経験をした柊(しゅう)は、

大切な人が突然いなくなる、ということに敏感になった。

だから、大切な環を必死に守ろうとする。

もう二度と、大切な人が自分の前から突然いなくなるという経験はしたくない、そう思っている。


いつかこのことを環(たまき)に話すつもりでいる柊(しゅう)。

でも環(たまき)と一緒にいると、過去のつらさが癒えてくる。


つらい過去を思い出すより、環(たまき)といる時間を大切にしたいと思うようになって、話すタイミングが自然と訪れるだろうとムリに話そうとしていない。


それでなくても環(たまき)はたくさんのつらい経験をしてきた。

これ以上、心に刺さる話をしたくないというのも事実。


過去の闇は消えない。

それでも、環(たまき)と過ごす時間は、柊(しゅう)の心を少しずつあたためていた。

だから柊は、もう少しだけ、このやさしい光の中にいたいと思っている。

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