第九話 知らない街の温度
はいちょっと遅れてます!ごめんなさい!
九話です!
最後にお知らせがあります!
名古屋駅に着いた瞬間、空気が変わった。
同じ日本のはずなのに、どこか別の国に来たみたいだった。
天井の高いホーム、止まらない人の流れ、響き続けるアナウンス。
京都からずっと普通列車に揺られてきたはずなのに、その時間が一気に圧縮されて、現実だけが目の前に現れた。
Sが真っ先に声を上げる。
人の多さに圧倒されたようで、それでも楽しそうだった。
ふうは辺りを見回しながら、情報を一つも逃さないように目を動かしている。
こーは少しだけ眉をひそめて、ぽつりと言った。
「これ、絶対迷うやつじゃん…」
その声は、もう遠慮のないタメ口だった。
それを聞いて、なぜか少しだけ嬉しくなる。
駅構内を進むたびに、方向感覚が曖昧になっていく。
地図を見ても、実際の空間が広すぎて、頭の中でうまく結びつかない。
改札を出るまでに、早速一度遠回りをした。
誰も責めなかったし、むしろそれすら旅の一部みたいだった。
外に出た瞬間、熱気が一気に押し寄せる。
湿った空気が肌にまとわりついて、呼吸が少し重くなる。
大阪よりも、京都よりも、明らかに強い夏だった。
「うわ、暑……」
こーが額を押さえながら言う。
Sは笑って、これぞ名古屋だと言わんばかりに大げさにうなずいた。
最初の目的は、昼ごはんだった。
せっかく来たんだから、名古屋っぽいものを食べよう、という流れになるのは自然だった。
地下街に入ると、少しだけ涼しくなる。
でも道は複雑で、同じ場所を通っている気がしてくる。
結局、観光客向けの味噌カツの店に落ち着いた。
完璧な選択じゃないかもしれないけど、今の僕たちにはちょうどよかった。
料理が運ばれてきた瞬間、甘くて濃い味噌の匂いが広がる。
僕は皿を見て、正直な感想を口にした。
「量、多くない?」
一口食べると、思った以上に重くて、それでも嫌じゃない味だった。
Sは目を輝かせて、これは当たりだと断言する。
ふうは黙って食べながら、たまに写真を撮っていた。
同じテーブルで、同じものを食べている。
それだけのことなのに、胸の奥が少し温かくなる。
午後は、特に目的を決めずに街を歩いた。
栄のあたりまで移動して、高いビルを見上げたり、知らない店を覗いたりする。
ふうは街の一角を切り取るように、何度もシャッターを切っていた。
Sは相変わらず元気で、名古屋の街に完全に飲み込まれている。
こーは、朝よりも表情が柔らかくなっていた。
「……来てよかったな」
その一言は、誰に向けたわけでもなかった。
でも、確かに全員に届いた気がした。
夕方、宿にチェックインする。
ビジネスホテルの一室。
狭いけれど、清潔で、妙に落ち着く空間だった。
ベッドに腰を下ろした瞬間、移動の疲れが一気に出る。
長い電車の時間、慣れない街、人の多さ。
それでも、不思議と嫌な疲れじゃなかった。
夜は、近くのコンビニで買ったものを部屋で食べた。
名古屋限定のお菓子や、適当に選んだ飲み物。
窓の外には、知らない街の夜景が広がっている。
光の並び方も、音の距離感も、全部が新鮮だった。
布団に入る前、少しだけ今日一日を思い返す。
京都で合流した瞬間。
名古屋駅に降り立ったときの空気。
笑いながら食べた味噌カツ。
この場所に来られたのは、音楽があったからだ。
それだけは、間違いない。
電気を消して、部屋が暗くなる。
誰かが小さく寝返りを打つ音が聞こえる。
知らない街で迎える夜。
でも、不安はなかった。
この一年の中で、
また一つ、確実に忘れられない日が増えた。
そう思いながら、ゆっくり目を閉じた。
次は、21:00!
「カクヨム」にてこの作品を公開する予定です!
詳細は、次のお話の最後にてお知らせします!




