第八話 合流点
はーい!ちょっと遅くなりました! (1時間以上の遅刻)
「こー」視点〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
玄関の鍵を閉めたあと、しばらくその場に立ち尽くしていた。
いつもなら、学校に行く時間。
でも今日は制服を着ていないし、靴も違う。
リュックを背負うと、少し重く感じた。
中身は大したものじゃないのに、すごく重く感じる。
枚方市駅へ向かう道は、思った以上に静かだった。
同じ年くらいの人たちは、もう学校に向かっているのだろう。
僕だけが、別の時間を生きている。
ホームに立つと、電車の音が遠くから聞こえてきた。
胸の奥が、少しだけざわつく。
スマホが震えた。
S :京都向かってる!!
ふう:今、JR乗ったよ。
優:気をつけて来て
その三行を何度も読み返す。
画面の向こうに、確かに人がいる。
それだけで、足元が少しだけ安定した。
電車に乗り込む。
扉が閉まり、電車がゆっくり動き出す。
窓の外を流れる景色。
見慣れた街なのに、今日は遠く感じた。
——逃げているわけじゃない。
ちゃんと、向かっている。
そう思えたのは、これが初めてだった。
「S」視点〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
朝から、心臓の音がうるさかった。
寝屋川市駅のホームで、落ち着きなく立っている。
周りの大人たちは静かで、僕だけが浮いている気がした。
でも、どうしても抑えられなかった。
今日は、
ネットの中で一緒に音楽を作っていた人たちと、
現実で会う日だ。
S :これ夢ちゃうよな?
送信してから、思わず笑ってしまう。
夢なわけない。
切符もあるし、電車も動いている。
電車に揺られながら、イヤホンをつける。
流れてくるのは、自分たちの曲。
再生回数の数字が、一瞬頭をよぎる。
あれがなかったら、今日もなかった。
京都駅が近づくにつれて、人が増えていく。
音も、視線も、情報も一気に押し寄せる。
——ここで、会うんだ。
そう思った瞬間、
胸の奥で別の感情が芽生えた。
楽しさの奥に、少しだけの緊張。
「ふう」視点〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
カメラは、まだバッグの中。
今日はたくさん撮ると決めている。
でも、最初の一枚だけは、京都駅だと決めていた。
理由はない。
ただ、そうしたかった。
JRに乗った瞬間の、人の多さ。
路線が変わるたびに、世界の雰囲気が変わる。
ふう:京都、着いたよ
送信して、深呼吸する。
改札を抜けた瞬間、視界が一気に開けた。
観光客の声。
転がるスーツケース。
天井の高い空間に響くアナウンス。
——ここで、会う。
画面越しじゃない人たち。
同じ音楽を作った人たち。
胸の奥が、少しだけ熱くなった。
「優」視点〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
京都駅のコンコースに立った瞬間、
世界の輪郭がはっきりした気がした。
人が多い。
音が多い。
でも、その中で探しているのは、たった三人だった。
視線を巡らせる。
最初に見えたのはS。
落ち着きなく動いていて、すぐにわかる。
少し離れたところに、ふう。
周囲を観察するように立っている。
さらに奥に、こー。
人の流れから一歩引いた場所。
——全員、ここにいる。
僕が近づくと、Sが一番に気づいた。
S :優!!
こー:……あ
ふう:やっと揃ったね
それだけの会話。
でも、チャットの中で積み重ねてきた時間が、
一気に現実へと変わった瞬間だった。
在来線ホームへ向かう。
行き先表示は「米原」。
普通列車。
速くはない。でも、それでよかった。
ドアが閉まり、車両が小さく揺れる。
電車が動き出す。
京都の街が、ゆっくり後ろへ流れていく。
——名古屋は、まだ先。
でもこの瞬間、
この一年の中で、
きっと忘れられない一日が始まった。
遅れてごめんなさい!




