第六話 世界
6話〜
予定より早く投稿してるよ。
朝、目が覚めた瞬間から、嫌な予感がしていた。
理由は分からない。ただ、胸の奥が落ち着かなかった。
スマホを手に取る。
通知の数を見て、思考が止まった。
……多すぎる。
一つずつ確認する勇気が出なくて、
とりあえず再生数だけを見る。
数字が、一晩で跳ね上がっていた。
「……は?」
声が、掠れて出た。
夢かと思って、深呼吸をして、画面を閉じて、もう一度開く。
数字は変わらない。
現実だった。
グループチャットが、すでに動いている。
こー:……起きてる? 再生数すごい伸びてるよ。
S :え!? なにこれ、バグじゃね!?
ふう:おすすめにも載ってるよ! 深夜帯で一気に回ったみたい。
指が止まったまま、画面を見つめる。
嬉しい、はずだった。
でも、胸に最初に浮かんだのは、違う感情だった。
__誰かに、見つかった。
そんな言葉が、頭に浮かんだ。
音楽は、ずっと隠してきた。
誰にも評価されない場所で、誰にも触れられないように。
それが、安全だったから。
優 :本当だね…
短く返す。
それ以上、何を書けばいいのか分からなかった。
再生数は、秒単位で増えていく。
知らない誰かが、僕らの音を聴いている。
コメント欄を開くのが、怖かった。
でも、逃げるように閉じるのも嫌で、
一つだけ、読む。
「この曲、夜に聴くと刺さる」
胸の奥が、きゅっと縮んだ。
刺さる、という言葉。
それは昔、
「意味あるの?」と言われたときにも感じた痛みに、少し似ていた。
S :え? 普通に1万いくくね?
ふう:すごいね…
こー:ちゃんと誰かに届いてるんだ
その文を見て、少しだけ救われた。
琥珀は、まだ慣れていないはずなのに、
ちゃんと前を見ている。
羨ましいと思った。
昼前には、数字がはっきり「万」を超えた。
いわゆる、万バズ。
嬉しさより先に、
頭の中で警報みたいな音が鳴る。
__期待される。
__次を求められる。
__下手なことは、もうできない。
優 :……ちょっと、怖いね。
正直に打った。
取り繕う余裕はなかった。
S :分かる〜!
S :でもさ、今の怖さって、ちゃんと"届いてる"怖さじゃん?
その言葉に、返事ができなかった。
怖い理由を、自分でも整理できていなかったから。
音楽室。
誰もいない放課後。
鍵盤に触れる音だけが、居場所だった。
でも、
「それで、何になるの?」
その一言で、全部が裏返った。
音楽は、
“意味がないとやっちゃいけないもの”になった。
だから、
誰にも聴かせない場所を選んだ。
なのに今は、
こんなにも多くの人が聴いている。
ふう:今のところ、最後まで聴いてる人が多いね。
こー:……"ありがとう"って、言われてる気がする
こーのその言葉で、
胸の奥が少しだけ緩んだ。
「ありがとう」
音楽をやっていて、
一番遠かった言葉。
夕方、チャットに新しい流れが生まれた。
S :じゃあ、お祝いに何かしない?
嫌な予感がした。
S :リアルで集まるとかさ
S :お祝い旅行的な!
現実。
外。
人。
一気に距離が縮まる言葉だった。
優 :……急じゃない?
S :世間は夏休みだし!
S :まだ時間あるって!
ふう:場所とか、条件次第では行かなくもないけど…
画面を見つめながら、考える。
会う、ということは、
音楽だけじゃなく、
自分自身も差し出すということだ。
怖い。
でも、
この三人となら、と思ってしまう自分もいる。
S :リアルで話したくね? 実際俺たちチャットでしか話してないし。
その一文が、
胸の奥に、静かに落ちた。
音楽は、
ずっと一人で守ってきたものだった。
でも、
一人で抱えなくてもいいのかもしれない。
優 :夏休みなら、考えてもいい。
送信してから、
少しだけ息を吐いた。
逃げなかった。
それだけで、今日は十分だと思えた。
世界は、まだ怖い。
でも、音がある。
その音が、
僕を、少しずつ外へ引っ張っている。
いや〜旅行!
羨ましいですね!
今日は、暇人なので今日だけで6本投稿する予定ですw




