第四話 音が重なるまで
四話〜
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夜になると、部屋の輪郭が曖昧になる。
カーテンの向こうで風が揺れて、街灯の光が床に落ちていた。
学校に行けなくなってから、僕の一日はこの時間から始まる。
スマホが震えた。
優 :1曲目のデモ、出来たよ。
S :さっすが優〜! 仕事が早いね〜!
イヤホンをつけて再生すると、静かなピアノが流れ出した。
音は少なくて、余白が多い。
春の終わりと、夏の入り口のあいだにあるみたいな曲だった。
この音を聴いた瞬間、心があったかい気持ちになった。
S :おぉ〜! めっちゃいいじゃん!
ふう:なんか夕焼けが合いそうだな
優 :たしかに!
短いやり取りのあと、音楽の話題は自然に具体的になっていった。
Sはリズムの話をして、
ふうは映像の色や光の方向を言葉にした。
優は多くを語らず、でも音で全部を示していた。
僕は、その会話を聞きながら、
歌詞用のメモを開いた。
真っ白な画面。
言葉は頭の中にあるのに、
どれもこの音に対して、少しだけ重すぎる気がした。
――説明しすぎなんだ。
学校のこと。
不登校のこと。
孤独のこと。
全部、本当だけど、
この曲が欲しがっている言葉じゃない。
S :じゃ、ピアノとかつけてくるね〜!
優 :うん。わかった。
少しして、音が戻ってきた。
リズムが加わって、
曲が一歩前に進んだ。
それでも、騒がしくならない。
むしろ、景色がはっきりした。
ふう:じゃあ、MVのコンセプトは「夕焼けと海」かな。
S :それいいじゃん!
優 :うん。いいじゃん
その言葉を見て、
僕は窓の外を見た。
暗いはずの夜なのに、
頭の中には、夕焼けの色が浮かんでいた。
次の日の夕方。
カーテン越しの光が、少しだけオレンジ色になる時間。
僕は机に向かって、ようやくキーボードを叩いた。
学校に行かず、
誰とも話さず、
イヤホンだけが世界とつながっている、この時間。
「一人だったけど、完全に孤独じゃなくなった時間」
それを、言葉にした。
こー:歌詞、途中だけど送るね。
送信したあと、
スマホを伏せて、深呼吸した。
返事が来るまでの時間が、やけに長く感じた。
S :こーってば天才!
ふう:デモともあってるし、いいんじゃない?
優 :うん。すごくいいと思う。
胸の奥で、何かがほどけた。
正解だったかどうかは分からない。
でも、間違ってはいなかった。
そこからは、細かい調整の時間だった。
言葉を一行削って、
音を少し引いて、
機械の声を重ねる。
初めて完成形に近い音源が届いたとき、
僕は何もせず、ただ再生した。
機械の声なのに、
不思議と人の体温があった。
S :よし!曲に関してはこんなもんかな。ふうはMV出来た〜?
ふう:うーん。あと1日ぐらいで終わりそう。
優 :じゃあ、ふうのMVが終わり次第完成かな。
こー:じゃあ、また明日!
S :って!もう2時!?こんな遅くまでやってたんだ…
優 :そうだね。気づかなかった。
学校には行けなかった。
でも、誰かと同じ時間に、同じものを作った。
その事実だけで、
胸の奥が、少しだけ前を向いた。
これが、僕たちの一曲目。
ここから、全部が始まる。
次回もお楽しみに!




