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第二十四話 不協和音

24話!

京都駅のコンコースは、十七時を過ぎても人で埋まっていた。

ガラス越しの光は白く、床に映る影はまだ長い。


僕とふうとSは、中央改札近くの柱の横に立っている。

誰も腰を下ろそうとしない。

動けなくなるのが怖かった。


スマホのスピーカーから、優の声が聞こえる。


「フォルダ、見た?」


「うん。見たよ。」


それだけで、十分だった。

あの音たちが、何を意味するのか。

誰も、分かっていないふりはできなかった。


しばらく沈黙が続く。

アナウンスの声が頭上を流れ、改札の電子音が一定のリズムを刻む。


「なあ」

Sが口を開く。

「もう、言わんの?」


返事はすぐには来なかった。


「今日な」

優が、少しだけ間を置いて言う。

「病院、行ってきた」


ふうの肩が、わずかに跳ねる。


「前から言われてたことやけど」

「改めて、確定した。」


僕は、息を吸う。

嫌な予感じゃない。

もう、知っていた。


「四月までは、」

優は続ける。

「もう生きられへん。」


言葉は淡々としていた。

声も、普段と変わらない。


だから余計に、

その一文が、駅の真ん中で異物みたいに響いた。


ふうが、声を探すみたいに口を開いて、閉じる。

Sは何も言わず、ただ前を見ている。


「余命ってやつやな」

優は言う。

「あと1ヶ月もない」


改札を抜けていく人たちは、

誰一人、立ち止まらない。


「だから」

優は続ける。

「あのフォルダは、ある。」


「完成させる気は」

「最初から、なかった」


「四月以降の自分を想像できんかった」


僕は、

その言葉を、

一つずつ受け取るしかなかった。


「言えへんかったのは」

優が言う。

「一緒におる時間が、変わるのが、怖かったから。」


「優」

僕は、名前を呼ぶ。


「今も怖いで」

優は、笑うように言った。

「でも、このまま消える方が、もっと嫌。」


Sが、低く言う。

「ずるいよ」


「うん」

優は認める。

「ほんまに」


ふうが、やっと口を開く。


「四月まで」

「何も、しないつもり?」


「逆」

優は答える。

「四月までに全部やる」


「音も」


「話も」


「今までみたいに」


僕は、

その“今まで”が、

もう戻らないことを知っている。


「続けてほしい」

優は、僕に向けて言った。

「俺が、四月を迎えられんでも」


逃げ場はなかった。

夕方の京都駅には、

静かな嘘をつく余地がない。


「……分かった」

僕は言う。

「逃げへん」


Sが短く、

「俺も」と言う。


ふうは、

何も言わずに、

強くうなずいた。


通話は切れない。

誰も、切ろうとしない。


京都駅の時計が、

静かに時を刻む。


四月まで。


その期限が、

初めて、

現実になった。

( ;∀;)

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