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第二十三話 途切れてほしくない幸せ

23話!

スマホの画面が暗くなっても、

しばらく僕は、そのまま動けなかった。


電話を切った指先だけが、

微かに熱を持っている。


枚方市駅のホーム。

人の流れは相変わらずで、

発車メロディーの音も、アナウンスも、

全部いつも通りだった。


なのに、僕の中だけが、

決定的にずれてしまった感覚があった。


優の声。

少し間の空いた返事。

笑ってごまかす癖。


今まで何回も聞いてきたはずなのに、

さっきの通話では、その全部が違って聞こえた。


スマホをポケットにしまい、

柱にもたれかかる。


夏の名古屋。

歩くペースが、いつの間にか合わなくなっていたこと。

夜になると、急に無口になったこと。

未来の話をすると、必ず話題を変えたこと。


「気のせいじゃない?」

「考えすぎでしょ」


そうやって流してきた言葉が、

今になって、静かに戻ってくる。


逃げていたのは、

優じゃなかった。


"僕"だった。


スマホを出す。


こー:今

こー:みんな

こー:時間ある?


既読がつく。


S :あるよ

S :どした〜?


ふう:今なら大丈夫。


少し迷ってから、

僕は正直に打った。


こー:さっき優と話した


S:そっか


ふう:どんな?


文章にすると、

途端に輪郭が曖昧になる。


こー:はっきりとは、言われてない。

こー:けど、

こー:理由は分かった気がする

S:俺も正直、

S:思い当たることは、ある


その一言で、

胸の奥が少し沈む。


ふう:名古屋のとき

ふう:写真で毎回後ろだったよね


こー:……うん


S :水族館も

S :途中で

S :ベンチ

S :座ってた


ふう:名古屋城の時も

ふう:階段

ふう:途中で

ふう:待ってた


一つ一つは小さな違和感。

でも、並べると、

はっきりと形を持ち始める。


優は、

無理をしていないように見せるのが、

とても上手かった。


S :なあ俺らってさ

S :優のこと、ちゃんと"見てたつもり"やったよな


返事ができなかった。


「見てた」と

「見ようとしてた」は、

似ているけど、違う。


ふう:見てたけど

ふう:聞かなかった

ふう:聞けなかったって感じ


その言葉が、

胸の奥に、静かに落ちる。


思い返せば、

優は何度も、

“答えの入口”だけを出していた。


でも僕らは、

そこに足を踏み入れなかった。


「大丈夫」

「また今度」

「落ち着いたら」


その言葉に、

甘えていた。


特急に乗る。

七条でバスに乗り換える。


京都駅の改札前。

Sとふうが、いつの間にか隣にいた。


三人とも、

何も言わずに立っている。


「優さ」

Sが、ぽつりと言う。

「俺らに任せるの、好きやったやん」


うなずく。


_曲の管理も

__作曲の段取りも


ふうが続ける。


「全部、ちゃんと整えてから渡してきた」


その瞬間、

ある光景が頭をよぎる。


データの整理。

共有フォルダ。

細かく書かれたメモ。


「もし俺が抜けても回るように」


あの言葉が、

冗談じゃなかった可能性に、

気づいてしまう。


「……なあ」

僕は、喉の奥が詰まりそうになるのを抑えて言う。

「優ってさ」

「見捨てられるのめっちゃ怖がるタイプじゃない?」


Sは、少し考えてから、うなずいた。


「確かに」


その言い方が、

妙に静かで、

現実味があった。


「優が一番怖かったのは、嫌われることじゃなくて、忘れられることなんだと思う:


その言葉で、

点が一つの線になる。


_だから言えなかった。

__だから笑った。

___だから未来の話を避けた。


スマホが震える。


優 :今

優 :少し

優 :話せる?


画面を見つめる。

一瞬だけ、

逃げたいと思った。


でも、逃げたら、

多分もう間に合わない。


通話ボタンを押す。


「もしもし」


「元気?」

優は、いつもの調子で言う。


でも、僕はもう、

その声をそのまま受け取れなかった。


「なあ」

僕は、ゆっくり言う。

「俺らさ」

「聞く準備」

「できたと思う」


一瞬、息を飲む音がした。


沈黙。

長くて、重い沈黙。


「なにそれ」

優は、小さく笑いながら言った。

「こわ」


それでも、

通話は切れなかった。


逃げなかった。

切られなかった。


その事実だけが、

今は、唯一の救いだった。


この夜、

僕たちはまだ知らない。


この通話が、「終わりへの入口」なのかを。

あと2話!

どうなるのかな?

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