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第二十二話 言えなかった理由、言わなかった理由

22話だよ!

冬の夜は、時間の輪郭を曖昧にする。

時計を見ても、何時なのかが実感できない。

部屋は静かで、音が少ないぶん、考え事だけが大きくなる。


僕は布団の上で、スマホを握っていた。

画面には、優の名前。

通話履歴の一番上。


ここ数日、何度もそこまで行って、やめてきた。

電話をかける理由は、もう分かっている。

聞きたいことがあるからじゃない。

聞いてしまったら、戻れないと分かっているからだ。


着信音が鳴ったのは、僕が画面を見つめるのをやめた、その瞬間だった。


画面が光る。

優。


一瞬、指が固まる。

でも、拒否する理由もなかった。


僕は通話に出る。


「もしもし」


優の声は、少し遠かった。

前に話したときより、明らかに弱い。


「急にごめん」

「今からなら、、少しだけなら話せる」


「うん」


そう言うのが、やっとだった。

声が震えないように、息を整える。


しばらく、沈黙が続く。

どちらも、切り出す言葉を探している。


「前にさ」

優が言った。

「何が一番しんどいか、聞いたじゃん?」


「うん」


「ちゃんと答えられなかった。」


胸の奥が、少しだけ硬くなる。

あのとき、僕は深く聞かなかった。

聞かないことで、優しさを選んだつもりだった。


「でも、今なら、言える」


そう前置きして、優は続けた。


「一番しんどいのは」

「期待されることで、」


言葉が、静かに落ちてくる。


「期待されると」

「応えないとって思ってしまう」

「音楽も」

「この場所も」


一つひとつの言葉が、胸に刺さる。


「でも」

「応えようとすると」

「身体がついてこない」


僕は何も言えない。

否定も、慰めも、どちらも違う気がした。


「頑張ると、悪くなる」

「だから」

「元気なふりしてた」


夏が終わった頃から感じていた、違和感。

妙に未来の話を避けていたこと。

「また今度」という言葉が増えていたこと。


「言ったら」

「全部、終わる気がしてた」


「何が?」


問い返す声が、思ったより低くなった。


「音楽も」

「この居場所も」

「俺自身も」


言葉の意味を、頭が理解するより先に、胸が理解してしまう。


「できなくなる理由を言ったら」

「期待されなくなる」

「でも」

「それって」

「ここにいる意味がなくなる気がして」


優の論理は、歪んでいなかった。

ただ、残酷なほどまっすぐだった。


「だから」

「黙ってた」

「ごめん。」


それが、優の結論だった。


僕は、しばらく何も言えなかった。

怒ることも、責めることもできない。


「俺、」

言葉を探す。

「待つの、きつかった」


正直な気持ちだった。


「うん」

優はすぐに答えた。

「それは」

「俺が悪い」

「ごめん。」


その即答が、逆につらい。


「でも」

優が続ける。

「知らないまま」

「期待され続けるよりも、」

「今の方が、良いと思ってる」


正しいかどうかは、分からない。

でも、優は本気でそう思っている。


「ごめん」

「それでも」

「俺、逃げた」


逃げた、という言葉を、優は自分に向けて使った。

それが、すべてだった。


通話が終わったあと、僕はしばらく動けなかった。

スマホを胸の上に置いたまま、天井を見る。


知ってしまった。

理由も、覚悟も。


でも、知ったからといって、楽になるわけじゃない。


むしろ、

知らなかった頃より、

ずっと息が苦しい。


S :今

S :話せた?


こー:話せた

こー:理由は

こー:聞いた


ふう:どうだった?


こー:優

こー:逃げてたんじゃなくて

こー:守ってた


S :……そっか


ふう:それ

ふう:しんどいね…


画面を閉じる。

これ以上、言葉にできなかった。


___冬の夜は、静かだ。

でも、静かだからこそ、

言わなかった言葉が、ずっと耳に残る。


優は、間違っていない。

でも、正しくもない。


そして僕たちは、

もう、元の場所には戻れないところまで来てしまった。


それでも、時間は進む。

冬は、終わりに向かって、確実に深くなっていく___

この物語は、二十五話で完結!

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