第十八話 言えないことの輪郭
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話
だ
よ
秋は、音が乾く。
窓の外で風が鳴るたび、部屋の中の静けさが強調される気がした。
僕は机に向かったまま、画面を見つめていた。
作りかけの歌詞。
カーソルが点滅している一行の先が、どうしても書けない。
「間に合わなくても」
そこから先が続かない。
その言葉が、祈りなのか、諦めなのか、自分でも分からなかった。
スマホが震える。
S :よ
S :生きてるか
こー:生きてるよw
こー:そっちは?
S :元気枠担当なので
S :今日も元気です
軽い言葉に、少しだけ肩の力が抜ける。
でも、その直後。
S :優
S :昨日も浮上なかったよ
こー:うん…
こー:既読はついてる
S:なにそれ〜
S:一番怖いやつやん
僕は返事を打ちかけて、やめた。
怖い、という言葉に、そのまま同意してしまいそうだったから。
ふう:あ、二人とも起きてた!
ふう:今ちょっと話せる?
三人の表示が揃う。
それだけで、胸の奥がざわつく。
ふう:この前
ふう:優から個別で連絡きて
こー:え?
S :まじ?
ふう:制作の話じゃなくて
ふう:体調のこと
指先が、じんわり冷える。
こー:どんな?
ふう:すぐ疲れるって
ふう:前みたいに長時間は無理だって
S :それ
S :前からそんな兆候あったよな
ふう:うん
ふう:でも、
ふう:今はちょっと違う感じした
僕の頭に、夏の記憶が浮かぶ。
名古屋駅のベンチ。
一瞬だけ、優が黙り込んだ時間。
笑って誤魔化していた、あの顔。
こー:それ
こー:俺らに言う気
こー:ないんかな
S :優にも言えない事情があるんじゃない?
ふう:聞くのも
ふう:優には負担かもね
正しい意見だと思った。
だからこそ、何も言い返せない。
でも、胸の奥で別の感情が膨らむ。
こー:待つ側になるの
こー:正直
こー:しんどい
送ってから、少し後悔した。
こんな弱音を吐くつもりじゃなかった。
S :それは
S :そう
ふう:うん
ふう:分かる
否定されなかったことが、逆に重い。
夜。
部屋の灯りを消して、ベッドに横になる。
スマホを握ったまま、天井を見る。
優との個別チャットを開く。
最後のやり取りは、数日前。
「今、ちゃんと向き合える状態じゃなくて」
その一文が、頭の中で何度も再生される。
僕は、知りたいだけだった。
理由を。
期限を。
終わりがあるなら、せめてそれを。
こー:優
こー:今
こー:何が一番しんどい?
送信。
既読。
返事は、来ない。
画面を伏せて、目を閉じる。
怒りはなかった。
ただ、少しずつ、何かが削れていく感覚。
音楽は、まだ続いている。
でも、同じ速度じゃない。
僕たちは、同じ場所にいるはずなのに、
少しずつ、違う時間を生き始めている。
秋の風が、窓を鳴らす。
冷たくて、現実的な音だった。
次も楽しみにね!




