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第十六話 静かな音

16話です!

 秋は、音が少ない。


 窓を閉めていると、外の世界はほとんど聞こえなくなる。

 夏みたいに、何かが勝手に入り込んでこない。


 その静けさが、僕は少し苦手だった。


 スマホを開く。

 通知は、ある。


 でも——

 欲しいところには、ない。


S :今日、少しだけ進めたよ〜!

S :デモ送るね!

ふう:了解

こー:ありがとう!


 秋曲の制作は、進んでいる。

 表面上は、何も変わっていない。


 変わったのは、"優の在り方"だけだった。


 デモを聴く。

 音は、綺麗だ。

 でも、どこか途中で止まっている。


 これを完成させるには、優の判断が必要だった。


こー:優

こー:今のデモ、どう思う?


 送信。


 スマホを置く。

 机に肘をつく。

 待つ。


 __五分。

 ___十分。

 ____二十分。


 既読は、つかない。


S :優、まだ?

ふう:返信来てない?

こー:うん…


 胸の奥が、少しだけ痛む。

 でも、理由は分かっている。


 __ただ、忙しいだけ。

 __ただ、体調が悪いだけ。

 __たまたま、今は見れていないだけ。


 そうやって、いくらでも説明はつく。


 その日の夜。


 もう一度、スマホを確認する。


 既読、なし。


 次の日も、その次の日も、

 優の返事は、来たり来なかったりだった。


 来ても、短い。


優 :いいと思う

優 :任せる


 それだけ。


 前なら、

 「ここ、こうしたい」

 「この音、好き」

 そういう言葉が、必ずあった。


 でも、今は__ない。


S :優、最近来てないね…

ふう:忙しいのかな?

こー:そうかもね


 自分で言っておきながら、

 その言葉を、僕は信じきれなかった。


 ある夜。


 歌詞を書き直していたとき、

 こーは、ふと手を止めた。


 「消えないで」

 「間に合わなくても」

 「今しかない」


 最近、そんな言葉ばかり浮かぶ。


 まるで、

 誰かが消える前提で、

 言葉を探しているみたいだった。


こー:優

こー:最近さ

こー:無理してない?


 送信。


 しばらくして、既読がつく。


 胸が、少しだけ軽くなる。


 でも、返事は__ない。


ふう:既読ついてる?


こー:うん

こー:ついてる


 その事実が、

 胸を、じわじわと締めつける。


 返事が来ない理由を、考えてしまう。


 言えないことがある。

 言いたくないことがある。

 それとも——

 もう、言う必要がないと思われている。


 どれも、嫌だった。


 夜遅く、ようやく通知が鳴る。


優 :心配かけてごめんね。

優 :でも、大丈夫。

優 :少し、間が必要なだけ


 それは、丁寧な言葉だった。

 でも、距離のある言葉でもあった。


こー:どのくらい?

こー:待てるけど


 送ってから、気づく。


 「待てる」という言葉は、

 裏を返せば、

 "もう待たされている"という意味だ。


 既読は、つく。


 でも、返事は来ない。


S :俺さ思うんだけど

S :優、ちょっと怖いよ…

ふう:分かる

ふう:いなくなっちゃう感じがする…


 その言葉に、

 僕は、何も返せなかった。


 否定したかった。

 でも、否定できなかった。


 夜。

 布団に入っても、眠れない。


 天井を見つめながら、

 僕は考える。


 夏は、勢いで全部を埋めていた。

 秋は、空白が見えてしまう。


 その空白に、

 優が、いない。


 スマホを手に取る。

 最後に、もう一度だけ送る。


こー:優。

こー:俺さ、

こー:この曲、好きなんだ。

こー:だから、ちゃんと、一緒に作りたい。


 送信。


 祈るような気持ちで、

 画面を見つめる。


 既読は、つかなかった。


 秋の夜は、静かだ。


 静かすぎて、

 いなくなったものの音が、

 はっきり聞こえてしまう。


 こーは、その静けさの中で、

 初めて思った。


 ——もしかして。


 このまま、

 何も言われないまま、

 終わってしまうんじゃないか、と。

次回もお楽しみに〜

寒いよ…

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