第十二話 保存期限
はい十二話です!
夜。
机の上には、まだ温かいままの紅茶と、閉じられたカーテン。
今日も、外には出なかった。
でも、不思議と息は苦しくなかった。
スマホが震えた。
優 :今日は集まれる?
S :おっ、来た!
ふう:行けるよ〜
こー:大丈夫
「集まる」という言葉が、もう少しだけ現実味を持つようになっていた。
顔を合わせなくても、声を出さなくても、
この四人は、確かに“同じ場所”にいる。
S :じゃあ次の曲、方向決めよ!
S :前のやつより、ちょい明るめで!
ふう:夏終わったけどね笑
S :関係ねぇ!心は年中夏!
こー:陽キャすぎ
S :褒め言葉だろそれ!
画面越しに、Sの声が聞こえる気がした。
文字だけなのに、うるさい。
優 :明るいの、いいと思う
優 :テンポは少し速めで
ふう:歌詞はだれがする?
こー:俺やるよ
ふう:私も少し書くね
S :最高じゃん!
いつの間にか、役割を確認しなくなっていた。
それが当たり前になっているのが、少し怖くて、少し嬉しい。
S :てか優
S :最近返事早くね?
S :秒じゃん
ふう:確かに
こー:言われてみれば
優 :そう?
優 :たまたまじゃない?
その「たまたま」が、やけに整いすぎている気がした。
いつも同じ時間帯。
いつも同じリズム。
ふう:スケジュールきっちりしてそう〜
優 :まあね〜
S :意外〜
S :俺なんてさっき起きたもん!
こー:今22時だけど
S :細けぇことはいいんだよ!
笑いの流れに乗りながら、
こーは、画面の端に表示された時刻を見る。
22:07。
そして、優のメッセージは、22:07、22:08、22:09。
まるで、刻まれているみたいだった。
こー:優ってさ
こー:いつ寝てんの?
S :急にどうした
ふう:確かに謎
優 :ちゃんと寝てるよ
少し、間があった。
ほんの一瞬。
でも、こーは見逃さなかった。
S :怪しい…
S :絶対夜型だろ
優 :違う
ふう:じゃあ朝型?
優 :どっちでもない
その答えが、一番よく分からなかった。
S :なにそれ哲学〜?
ふう:笑
こー:まあいいや
こー:曲の話戻そ
流してしまった。
流せてしまった自分に、少しだけ引っかかりを覚えながら。
優 :デモ送るね。今日中に。
S :今日中!? いま22時だよ!
ふう:無理しないでね。
優 :大丈夫
その「大丈夫」は、
誰かに言い聞かせるみたいだった。
数分後、ファイルが届く。
S :はっや
S :てか完成度えぐ
ふう:綺麗……
こー:すご
言葉が、それ以上出てこなかった。
完成しすぎている。
勢いじゃない。
削るところも、残すところも、全部決まっている。
S :これさ
S :最初から全部見えてた?
優 :うん
優 :終わりまで
その言い方が、なぜか胸に残った。
「曲の終わり」だけじゃない気がして。
ふう:タイトルどうする?
こー:仮でいいなら
こー:「保存期限」
送った瞬間、少し後悔した。
重いかもしれない、と思った。
S :え、良くね?
ふう:私は好き
優 :いいね
優の返事は、短かったけど、否定じゃなかった。
優 :今のうちに
優 :残しておこう
まただ。
その言葉。
こー:なんで?
S :哲学第二弾?
ふう:笑
優 :なんとなく
優 :消えるものもあるから
誰も、深掘りしなかった。
でも、全員が、
少しだけ画面を見つめる時間が伸びた。
S :ま、消える前にバズらせよ!
ふう:前向きすぎ
こー:それでいいか
それでいい、はずだった。
優 :今日はここまでにしよ
優 :続きはまた今度!
S :了解!
ふう:おやすみ
S :おやすみ〜!
こー:おやすみ
チャットが静かになる。
画面を閉じても、「保存期限」という言葉が、頭から離れなかった。
期限付きなのは、曲なのか。
この場所なのか。
それとも__
答えは、まだ、来ない。
今日も昨日みたいな感じで投稿するかもです!




