第八話 親孝行
「お嬢様お目当てのお飲み物はこちらです」
俺は自信を持ってそう言うと、
フリィアちゃんが瓶を一本持ってリルメスお嬢様に手渡した。
「ふーん……見た目は悪くないわね」
興味深そうに瓶を見るリルメスお嬢様。
恐らくだがこの執事、いやグラバさんは、
この柑鮮がユユジュからできてることを知っている。
「お嬢様、先に私めが毒味させていただきます」
「いやよ! あたしが飲むのっ!」
おうおう、アホ毛がぴょこぴょこ揺れてる。
つくづく思うが生意気なわがままお嬢様だ。
「お嬢様っ!」
リルメスお嬢様は瓶の蓋を開けて口に入れてしまった。執事のグラバさんは肝を冷やしただろうな。
「お嬢様!? お嬢様! 大丈夫ですか!?」
でも安心してくれグラバさん──
「……なによ。こっれぇ……美味しい!!」
ウチのジュース、バカ美味いんで。
「お嬢様……?」
「美味しいわっ! これ美味しすぎるわよ!!」
リルメスお嬢様は一気飲みした。
品性が欠けるレベルの飲みっぷりだが、
余程美味かったんだろう。不機嫌そうな顔はパッと明るくなって、可愛らしい笑顔を浮かべてる。
「グラバさん。貴方も飲んでみませんか?」
「えぇ……よ、よいのですか?」
俺はフリィアちゃんに瓶を手渡しさせた。
「で、では──」
グラバさん。あんたお疲れだろ?
効くぜ。このジュースは骨まで染みるぞ。
「うまっ……! なんだこ……ん″ん″
美味しいですね……一体どうやって?」
敬語が崩れるレベルか、ふふふ嬉しいな。
「それは企業秘密です」
「ねぇ、これ美味しすぎるわ! いっぱい買って!!」
「そ、そうですね。これは常備したい……
ケルエタ様、あと何本ありますか?」
ハマったな? 貴族だって商売じゃ対等な客だ。
「それが一本限定でして……」
「えーっ!! なんでよ! お金なら払うわ!」
案の定、お嬢様はめちゃくちゃ不機嫌になった。
「……ケルエタ様。非常に下劣ではありますが、
金銭面での支援を致しますので我々に──」
「あぁ売りますよ! 支援ありがとうございまーす!」
あ〜〜。これこれこれェッ!!
待ってましたそのお言葉!
「……ということは制限は?」
「なしですよグラバさん! 在庫を補充したら優先的に送りますし、制限なんてあるはずがないです!」
執事のグラバさんはホッとしてた。
多分、わがままなお嬢様がこれを逃すわけもなく、
たくさん買えなかったら一生文句祭りだったはずだ。
「では……毎月、白金貨6枚はいかがでしょう?」
え、そんなくれんの?
「白金貨6枚……6枚? ろくみゃい……?」
フリィアちゃんがバカになってる。
「ふぇえ、そんなにくれるんですかぁ……?」
俺もバカになった。
日本円で30万円。こんな簡単な商売で?
「ですが、見合った商品を提供してくださいませ。
大金です。責任が伴うことをお忘れにならずに」
お堅いこと言っちゃって〜。
うへへへ、30万円。毎月30万円確定?
うっは〜、最高すぎだろこれ〜!
「ねぇグラバ、この二人″屋敷に住まわせましょ″」
「え?」「ふぇ?」「は?」
お嬢様以外の三人全員、耳を疑った。
「だって、屋敷だったら作ってすぐ飲めるでしょ?
空き部屋ばっかなんだしそうしましょ!」
「で、ですがお嬢様、こちらの方々は貴族ではっ」
「うるさいわね〜あたしが良いって言ってるの!」
……マジで?
* * *
マジだ……
今、俺とフリィアちゃんは別荘の中に入ってる。
普通に生きてちゃまず入れない空間だ。
執事の人がいっぱいいて、ザ・メイドって感じの女性も多い。それに鎧を着た人もたくさんいる。
「あの……私たち場違いなんじゃ?」
「……お嬢様の決定ですので。
忠告しておきますが危害なんて加えようものなら、
これから先の人生は短くなることになりますよ」
しませんしません。なんなら守る対象です。
それにしても廊下はピッカピカで綺麗だ。
日差しが窓から入り込んでて暖かい。
「……その、フリィアちゃんにおばあちゃんがいるんですけど、その人も一緒に住むことって……?」
「無理です……さすがにこれ以上は……」
ですよね……フリィアちゃんは今の言葉を聞いて、
ちょっとだけしょんぼりしてた。まあ、会えないわけじゃない。
「その……このあと外出って」
「部屋を紹介しましたら許可しましょう。
基本的に自由としますが屋敷内は見張りをつけます。
少々不快だとは思いますが、我慢なさってください」
俺とフリィアちゃん用の部屋はデカかった。
良い旅館の一室みたいな……いやデカいな。
フリィアちゃんが住んでたボロつきあげた小家、
あれが丸々入るレベルでデカい部屋だ。
「……ここで基本的に生活してもらいます。
ケルエタ様、あの柑鮮という飲み物は、
常に五本以上は維持していただきたい。
それさえできていれば自由としましょう」
楽な仕事すぎる〜……一日で生活変わったな〜。
「では、お出かけするようですので、
私めはこれで。私はお嬢様の部屋におりますので、何かあればご報告くださいませ」
フリィアちゃんはまだ状況が理解できてなかった。
もちろん俺も若干夢現だ。
「あぁ、それとこれは前払いです」
フリィアちゃんの手がグラバさんに開かれ、
白金貨6枚が手のひらの上に置かれた。
キラキラだ。宝石みたいですげぇ綺麗だ……
そうして固まってる間にグラバさんは部屋を出て行って、廊下を歩く足音が遠くなって行った。
「……ケルエタさん」
「なんだ?」
「わたし、お金持ち?」
「あぁ……かなりな」
フリィアちゃんは子供らしい声にならない声で、
しっかりと6枚握りしめたまま足踏みした。
「やったやったやったぁ!!
おばあちゃんとご飯行きたい!!」
「あぁ、私もそれは言おうと思ってた。
行こう。商売大大大成功記念でな」
* * *
てことで、ステーキを食べに来た。
この世界でもステーキっていう名前だった。
「美味しそ〜……」
「こんなご馳走をフリィアから貰えるなんて……
ばあば、涙が溢れて前が……うぅっ、うぅうっ」
親孝行。いやフリィアちゃんの両親は亡くなってる。
でもおばあちゃんはフリィアちゃんのたった一人の身寄りだ。
幸せそうだ。どっちもな。
「ケルエタさん……あぁりがとうございますぅ」
おばあちゃんは深く頭を下げてくれた。
机に並ぶステーキ二枚の前で深く頭を下げてた。
……感謝。思えば感謝されることは増えた。
「いえいえ、いいんです。
礼は長生きでお願いしますよ?」
「老いぼれになってもこんな幸せを……いんやぁ、
なんて良い人生なんでしょうかぁ……」
親孝行……稼いだ金でフリィアちゃんは……
俺はそういうのしたことなかったな……
母さん。俺の母さんは一人で俺を育てあげてくれた。
いつだって母さんは味方だった。
『喧嘩負けた』
『じゃあ強くなっちゃう?』
『テスト……部屋開けないで、寝るから』
『ケンちゃん……あっ』
『大学落ちた……ごめん』
『いいのよ。お金は出すから大丈夫よ』
『母さん。今年も帰れないと思う』
『そう……頑張ってるもんね。
母さんは大丈夫だよ』
親孝行……俺、最低だ。
親より先に死んだんだ。
いや……なに思い出してんだ。
もう関係ないだろ。忘れろ。
俺はもう異世界の住人なんだ。
「ケルエタさん……?」
「ん、あぁフリィアちゃん。なんだ?」
「その……ケルエタさんに改めて感謝したくって。
命も救ってくれたし、こうやってお金だって……」
……そう、そうだな。
「ありがとうございますっ!
わたし! ケルエタさんのおかげで″幸せ″です!」
あぁ……なんだ?
感謝、されたことがないわけじゃない。
でも……心の底からの感謝だ。
俺は、親不孝者の最低野郎だ。
だけど……必要とされてるんだ。
こうして俺は生きてるんだ。
……悪くないな。
母さんごめん。親孝行はできない。
でも……俺、この世界で本気で頑張るよ。
主人公じゃなくてもいい。
誰かに感謝されるような……立派な人になる。
「あぁ……どういたしまして」
【十二歳、戦争に巻き込まれ死亡】
乗り越えさせよう。俺は異世界案内役なんだ。
第一部 第一章 貧乏少女編 -完-
次章
第一部 第二章 天才お嬢様編
* * *
ここまで読んで頂きありがとうございます!!
第一章いかがでしたでしょうか?
次章の第二章はフリィアとリルメスの深掘りです!
明日も【8:15】【18:15】に投稿です!
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