第四十九話 移動開始
不帰の大森林に入ってから2週間目。
この日で俺の姿が見えるようになって、
声だっていつも通り出せるようになる。
2週間はグラバさん頼みだったが、
やっぱこの人がいるだけで桁違いに生存率が上がる。
ダグンドの奴らは森には入ってこなかったが、
おそらくというか確実に待ち伏せしてるだろう。
そんな中でこっそりと森から抜けて、
陸からどこかに行くのは不可能。
なので、俺の作戦としてはこうだ。
不帰の大森林内を一気に突っ切る。
北部は現在だとダグンドに侵略されてるが、
南部は逆にダグンドの戦力が少ない。
そう、全勢力を北部に突っ込んでる今こそが、
この大陸から脱する唯一の超チャンスなんだ。
「久しぶりです。みんな」
俺はそう言ってみんなの前で姿を取り戻した。
いつも通りパッと光り輝く球体の俺、
みんなは俺を見て驚きもせずに只々(ただただ)──
「ケルエタさん……!」
「……遅いのよ! 待ちくたびれたわ!」
嬉しそうに再会を喜んでくれた。
フリィアちゃんは安心したように嬉しそうで、
リルメスは少し怒ったようでありながらも、
素直に喜ぶ姿を見せたくないのかツンツンしてる。
グラバさんは息をついてホッとしたようで、
ルダクルやメアラは素直に嬉しそうだった。
シルフさんは俺と同じで顔はない、
だからどう言う感情かはわからなかった。
「これでやっと事が進められますね」
グラバさんの言う通り、やっと話が進む。
「これからってどうするんですか?」
俺が出てくれば多分一番聞きたかったことだろう。
ルダクルがそう聞いてくれば、
俺は2週間考えたこれからの動きを話し始める。
「結論から言えば不帰の大森林の中を突っ切って、
南部に行きそのままダグンドの港から隣の大陸、
ルサナン大陸に行きソラニテ王国を目指します」
反対多数。
「ダグンドの港からぁ!? むむむりですよ!!」
「そうですなの! ダグンドの港ですなの!」
「ケルエタさん……わたしも無理だと思う」
「ケルエタ……見ないうちに頭おかしくなったの?」
まあ、そりゃそうだろうな。
パッと聞いただけじゃイカれてるだけだ。
「ケルエタさん。考えがあっての発言っしょ?」
シルフさんが珍しく話してくれた。
そうそう、ちゃんとわかってくれてるじゃないか。
「そうです。今、ダグンドの戦力はここ、
グロワールが支配する大陸北部に集中している。
となれば、奴らとしても王都に戦力を残すだけで、
その他の町や村には戦力が多く残せないはず……」
ダグンドは戦争を余力など残した状態で、
グロワールに勝てるほど圧倒的に差をつけてない。
「そこを利用して港からこっそり逃げ出します。
ソラニテ王国はデエス帝国の配下……おそらく、
ダグンドが追ってくることもないでしょう」
そこまで言った時点でグラバさんが、
俺の作戦に対してかなり良い反応を見せた。
「悪くないというより……
むしろそれ以外考えられないですね」
そう言われると嬉しい気分になる。ただ、一つだけ、
グラバさんから俺の作戦に訂正が入る。
「ですが港から渡るという点……
王都から離れていようと船には戦士がいます。
戦士自体には戦力で勝てたとしても、
戦闘が起きて大陸から出られなければ詰み……」
……そう、そこなんだ。
そこだけが不安なんだ。
「堂々と船に乗ってもバレるでしょうし、
そもそも通貨すら持っていません。
ので、一つ提案なのですが──」
グラバさんが解決策を思いついたらしい、
やっぱりこの人は頼れるな……
「賊船を制圧し船を奪いませんか?」
……え?
「一般の船を奪えばそれは兇徒ですが、
兇徒の船を奪おうが大義名分になります。
ですから、立場を利用して力づくで奪いましょう」
なんだか……価値観の違いを感じる。
でもまあ、その案自体最善と言えるな……
兇徒でグラバさんに勝てるやつなんて、
まずこの大陸なんかにいるわけがない。
かなりというか……強みを理解してるなグラバさん。
ってよりも……もうなりふり構わない感じが、
今がどういう状況か俺に再認識させてくれる。
「フリィ……二人は何を言ってるのよ……?」
「よくわかんないけど……物騒なお話だね」
「ケルエタ様、少々手荒ですがいかがでしょうか」
「……それで行きましょう」
流れは決まった。
とりあえずは最南部にあるダグンドの港を目指す。
不帰の大森林を抜けたら天星山脈を縦断……
天星山脈縦断はあれだな……ルートと運だな。
大前提、山脈には黒白竜っていう竜がいる。
等級は一体で大体英級から準俊級。
群れになったら俊級上位の危険度。
深くは語らなくてもとりあえずヤバいんだ。
死のリストにも食い殺されるなんて運命もあるし、
出来ればというか絶対に出会いたくない暴野。
正直、ダグンドの奴らより竜族の方が怖い、
なんてったって死ぬ可能性が高いからな。
とまあ、そんなことを思いながらも、
早速行動を開始して歩みを進み始める。
不帰の大森林内を歩く中で、
大きなトラブルは特に発生しなかった。
全知脳で得た知識じゃ、
ここは確かにめちゃくちゃ危険な森だ。
だけど俺は正直、この大森林に脅威を感じてない。
というよりは、今いる場所自体浅いんだ。
不帰の大森林は奥に行けば行くほど危険度は増す。
そもそも浅めのところじゃ普通の森。
昔、フリィアちゃんとリルメスが立ち入ったのは、
森の中じゃ浅めの中の深め……って感じ。
とにかく危険ではあるが、
噂ほどの危険度じゃない。
そんな環境の中、俺たちは南部へと向かった。
* * *
俺が光を取り戻してから1週間。
不帰の大森林から抜け出せた。
山脈の麓だから少しだけ待ち伏せが怖かったが、
普通に考えればこんなとこにいるわけがない。
近くには村も町もなければ道だって見えないし、
本当に人の気配がまったくしない。
「グラバは天星山脈って登ったことあるの?」
「リルメスお嬢様が生まれる前に一度ほど……
ですがそれも縦断とは言えませんし、
本格的に登るというのは初めてです」
黒白竜って竜は山頂で見られる。
山頂の標高は2300m程度、
大体2000m辺りから姿は見え始めるはずだ。
普通の奴らなら山脈をバカ正直に登って、
黒白竜に怯えながらビクビクと移動するが、
俺には少しだけ秘策がある。
「……黒白竜は大丈夫なのか?
さすがにウチらじゃ一体倒すのも苦労だろ」
シルフさんがそう言えば、
俺は自身の秘策を伝えた。
「そこはお任せを。
実は一つ抜け道を知ってます」
そもそもダグンドが山脈を越えて来れた理由、
それは山脈の間に存在する一つの谷……
そこを通って攻め込んで来た。
本当ならそこを使いたいがリスキーすぎる。
ので、俺は全知脳をフル発動して、
山脈を地上からじゃなく──
″地下″から行くルートを探し出した。
「抜け道なんてあるなの?」
メアラの問いへと俺は上下に身体を動かした。
「聞いたことありませんが……」
グラバさんも知らない道。
そりゃあそうだ。なんてたって山脈内で死亡した冒険者の手帳由来の情報なんだからな……
先人には感謝してもしきれない。
全知脳は文字として残っている情報は全て得れるし、記載がなくても大雑把な説明はしてくれる。
一切の説明がない時はそれだけ未知ってこと。
この大雑把な説明はそのうちレベルが上がってく、
なんせ、昔にレベルがアップしたからな。
「入口は極めて狭い洞窟ですが、
内部は巨大で南部まで道が続いてます。
もちろん、暴野なども多いでしょう」
しかし、暴野が多かろうが問題じゃない。
黒白竜の群れじゃなきゃこっちは負けないんだ。
だってこっちにはグラバさんがいる。
「日が暮れる前には登り始めたいですし、
早速洞窟の場所に向かいましょうか」
俺がそう言えば反対意見はなく、
皆と共に山脈を登るため前に進み始めた。
戦争から3週間程度、
ダグンドは大体グロワール王領付近まで攻め込んだ。
王領付近じゃ激しい戦闘が起きてるはず……
とっとと港に行ってこの大陸から抜け出す。
悩むのは俺で良い……
戦争が起きてからみんなは暗い顔が多いし、
本当ならもっと笑っていてほしい。
大陸から抜け出した時には、
少しだけで良いからみんなの笑顔が見たい……な。
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