第四十八話 徒手による撲殺
* *【グラバ視点】* *
幾度も戦闘など行ってきました。
その中で自身が知らないことを容易く行う、
未知的な力を使う敵もたくさん見てきましたが……
死からの完全再生……どの文献にもない力。
樹霊族自体、こんな力はないはず、
確かに自然的な再生能力は高めですけど……
「ゴギギア」
おそらく眼前に立つこの存在は、
明らかに生物の域を逸脱している。
特殊個体……と考えるしかなさそうですね。
こちらは依然として視界が奪われたまま、
「!」
速い! 先の速度よりもずっと!
形状的に木の根を伸ばして攻撃してきているのか、
一度でも先端で貫かれれば勝ち目は薄まりますね。
魔力量だけじゃ等級は英級上位……
ですが、こうなってくるといよいよわかりませんね。
身体能力自体は準俊級?
ですが先ほどまでは英級以下の動きだった。
不帰の大森林自体独自の生態系があると、
様々な学者が言っていましたが、大正解ですね。
完全復活に加えてパワーアップ。
一度敗北することを本能で予知している……
目の見えない状態では魔法の使用は困難。
大きな隙が出た際に使うのはアリでしょうが、
今のこの樹霊族に対しては願わぬもの。
まあそれでも……本当に良かった。
私は常々思っていることがあります。
「ゴギャア!」
「まだ私には追いつけないようで」
魔法のみに頼る戦い方じゃなくて良かった。
魔力を全身に纏わせ、相手の魔力を頼りに位置を把握し、私は飛び蹴りを喰らわせた。
魔力を纏うことが可能とする攻撃の回避、
それに加え……この樹霊族に対して、
最も優位な倒し方は──
徒手による撲殺……!
* *【ケルエタ視点】* *
グラバさんは元々星焉大陸生まれで、
魔法に幼い頃から触れてきた人だ。
魔法大学とかは卒業してないが、
この人自体、そう大学に入る必要はない。
おそらく、長年戦場に身を置きながらも、
考え抜いて最適解を選択し続けてきたんだろう。
だから……というか……はは、つっよ。
俺が見ている光景では、
亡樹の霊が一方的にボコられてる。
木の根が下から上へと伸びても、
それをすらりとかわして拳をぶち込む。
グラバさんは視覚情報がないとは思えないほど、
ラッシュを決めながら攻撃を避けていた。
一発一発が重たいのか亡樹の霊の身体は、
そこら中にクレーターのような痕が出来始めてる。
衝撃波が大量に発生して辺りの静寂の中には、
打撃音と木が弾ける音が響き続けてた。
本来連打攻撃ってのは弱攻撃の連発、
だからここまでの有効打になることは異常なんだ。
「ふんッ!」
拳戦者は名の通り拳で戦う。
剣士と魔法使いが二大巨頭な世界で、
拳戦者だとかはあまり存在していない。
その理由は分かりやすい。
拳の殺傷能力は圧倒的に剣に劣る。
現にあのラッシュの中でグラバさんがもし、
短剣だとかを持っていたら三回は殺せてる。
「ギギアアアア!!」
ただ、拳戦者は意地も兼ね備えている。
そう……つまりぶっちゃけ剣を使ったりするなら、
それは剣士で良いしなにより──
ダサいって認識が浸透しているんだ。
だからグラバさんも剣は使ったりしない。
拳による攻撃を身体に受けた続けた亡樹の霊は、
地面から大量の木の根を上へと向けて生やし、
強制的にグラバさんを後方へ追いやった。
「……?」
グラバさんは体勢を直して立ち上がる。
亡樹の霊は大量の木の根を背中から生やして、
パキパキとそこら中から音がし始めた。
「まさか……」
【全知脳発動】
マジか……こいつ、そのレベルの敵か……!
「ギシャギギアスギ」
辺りの風景が一気に変わった。
花園のような風景、薄暗い森の中だってのに、
太陽みたいなのが燦々(さんさん)としている。
結界魔法の最上位とも言える技術。
それは風景ごと変えてしまうような結界だ。
結界魔法には三段階のレベルがある。
・閉じ込める結界と閉じ込めない結界。
・結界内や結界上で何かしらの効果を付与する結界。
・風景や地形などを生成してしまう閉じ込める結界。
閉じ込めない結界じゃ風景の生成はできない。
つまり、今のこの結界は閉じ込めるタイプだ。
結界魔法に特化しすぎだろこいつ……!
「視覚が戻った……」
結界内のデバフは無くなったみたいだ。
それもそうだ。この風景がある状態の結界は、
攻撃型か自己に大量のバフを与えるのみ。
亡樹の霊は案の定姿が変わっていた。
「それが最終形態ですか?」
身長はグラバさんと同程度。
かなりシュッとした体格になって、
見るからにスピードタイプ。
「ギギア」
「先手は譲りますよ」
勝負は一瞬だろうな。
互いに近接タイプ、そして亡樹の霊は今、
結界を構築して維持している。
魔力の消費は洒落にならないだろう。
「ギアァアアッ!!」
グラバさんの挑発で戦闘が始まる。
初っ端、先手となった亡樹の霊が、
とんでもない速度の踏み込みで距離を縮まらせた。
俺はそれがほとんど見えなかったが、
グラバさんは拳で亡樹の霊の拳を砕き、
体勢を低くして腹部に肘を打ち込む。
強烈な一撃をもらっても尚、
怯むことなく亡樹の霊は腕を振り上げた。
ブレード状に尖った腕の木が、
上から下へと振り下ろされる。
「!」
グラバさんはそれを横に転がって避け、
花が散る中、手から一気に火の魔力を放出。
魔法じゃなくてただの魔力放出、
それは亡樹の霊の意表を突いて、
左半身を燃やすことに成功した。
自身の身体が燃える中で焦る亡樹の霊、
それに対して迫るは硬すぎる拳。
勢いよく速度をつけ、身体強化魔法で強化した拳が、
亡樹の霊の腹部を貫いた。
途端、結界が崩壊して決着が告げられる。
「ギ……ギア」
「敗因はたった一つ。
私に身体能力で勝負したことです」
それを聞いて亡樹の霊は絶命した。
死のリストが黄色文字だった理由がわかる。
あの規模の結界魔法を使いこなせるやつなら、
洞穴の中にいるみんなに攻撃だってできる。
それをあえてしなかった亡樹の霊は、
暴野ながらも少し……武人みたいなやつだ。
黄色文字……と言っても薄め。
限りなく死ぬことはなかった運命だ。
もし、少しでも奴が勝ちを優先していたら、
グラバさんとてかなり苦戦していたはずだ。
わざわざグラバさんの得意分野で戦ったのは、
なんというか……うーんやっぱり武人すぎるな。
「……ケルエタ様、残り3日程度ですが、
ご心配はいりません……私がいるので」
そんなことをグラバさんが言ってくれた。
姿は見えてないだろうが俺が近くにいることを、
この人は信頼してくれてるんだろう。
なんだかちょっと嬉しい……
いや、こんなことを言うってことは、
ちゃんと今後のことを考えておけって言う、
遠回しの頼み事だ。
よし……もう一回今後のことを練り直そう。
俺はこの時気が付かなかったが、
グラバさんは結構ざっくり肩を斬られてた。
後から治癒魔法を使ってるのを見て知ったんだが、
グラバさんがあんな傷負ってるのは初見だ。
……亡樹の霊、等級はどれくらいだったんだ?
ここまでお読みいただきありがとうございます。
第六章残り四話で第一部共に完結です!




