第五話 異世界転生二週間目
二週間経った。
声も出せず実体も透明な状態の二週間。
地獄……なーんてことはない。
驚くほどフリィアちゃんが死にそうなタイミングがなかった。やばかったのは最初の熊と触食族だけだった。
この有り余る時間の中で俺は超賢くなった。
魔法から地理、言語に食文化。
あとはまあ、一般常識とか?
普通に教師レベルほどの知識はある。
当たり前か、だって全知脳があるもんな。
さて、ついに俺のお披露目だ。
とりあえずフリィアちゃんと仲良くなるのが目標。
「っー……あ」
身体が熱くなったと思ったら声が出せた。
よし、光も戻ってきた! キタキタァ!
俺は飛び回ってフリィアちゃんの家から飛び出した。
この時間帯、フリィアちゃんは外で火を起こしてる。
「っふー……点いた」
火を起こしが終わったフリィアちゃん。
俺が名乗る名はもう決めてある。
″ケルエタ″。特に意味なんてないが、
呼びやすいだろうしサカタってのも嫌な話だ。
……話しかけるぞ。大丈夫だ……うまくいく。
「……」
「ん″ん″!!」
「っひ!?」
やば、咳払いの音大きくしすぎた。
「もしかして……妖精さん?」
「ちゃんと名前はある。″ケルエタ″だ」
「ケルエタさん……やった……やっと会えた!
助けてくれてありがとうございます!」
……良い子だな。ちなみに俺は子供なんて嫌いだ。
だって、子供ってのは良くも悪くも純粋無垢。
生意気で泣けば許されると勘違いする奴だって多い。
だから嫌いなんだ。うるさくて手に負えない。
だってのに……フリィアちゃんは子供なのに、
全然そんな感じはしなかった。
いや、そんなことはわかってる。
二週間も見てきたんだ。わかってるさ。
でも……良かった。幸せにしたいと思える子だ。
「ふふふ……まあ礼はいらないぞ。
お……私にとって最大の利益は君が生きることだ」
俺なんて言ったら高圧的だよな。
私でいこう、賢そうだし。
「わたしが生きること? それってどういう……?」
少し怯えてる目だ。表面上じゃ感謝してくれたが、
やっぱりまだ得体の知れない俺を警戒してるな。
「あー……その、私は君を幸せにする業を背負っている。深くは言えないが、とにかく幸せになってもらう」
「……そ、そうなんですね。
なら……もうわたし幸せですよ!」
あ〜っ……この子は優しすぎる。
フリィアちゃんは良い子すぎる。
どう考えても今の生活は幸せじゃない……
気を遣って俺のために──
「わたしは……ただおばあちゃんが幸せなら、
大きなお家も贅沢な食事も要らないんです……
おばあちゃんは幸せだってよく言ってくれます!
わたし、だから幸せなんです!」
……俺は、なに勘違いしてるんだ。
幸せの形は人それぞれだろうが。この子の幸せに裕福な生活が入ってるなんて断定できるわけないだろ……!
でも……それが幸せなら尚更──
【十二歳、戦争に巻き込まれて死亡】
……言いたくないさ。七歳の女の子にこんなこと、
絶対に言いたくない……俺だって良心はある。
「フリィアちゃん……落ち着いて聞いてもらえるかな」
「はい……! なんですか?」
「大体5年後、この国は戦争状態に入る」
「え?」
「その戦火はおそらくここを呑み込む。
その時、私が何もしなければ確実に″君は死ぬ″」
言ってしまった。半ば強引に言い切った。
この世界で七歳の子供の精神が、どれほど強いのかは知らない。ただ、これを言わない以上、俺はこの子に頼られることもできないんだ。
幸せにするには俺が頼られるのが絶対条件。
「そ……そんな」
フリィアちゃんは俯いて声が震えてた。
「……その、確実に死ぬとは言ったが──」
「でも、ケルエタさんは助けてくれるんですよね……?
熊も……あの川の時も助けてくれた……」
はっ……なかなかどうして──
「そうだ。私がいれば君は死なない」
強靭……精神だけで言ったら元いた世界の大人より強いかもしれない。こんなの半分余命宣告だ。
しかも怪しい光の球が次も助けるだなんて、
どこに俺が助けられる保証があるんだ。
それなのにこの子は……ふ、ふっふふ。
「驚いたよフリィアちゃん。泣くと思ってた」
「な、泣きません!!」
うまくいったぞ。導入は完璧だ。
こっからは親しくなれば良い。
と言っても……俺は親しい友達を作ったことがない。
常に誰かの優先度じゃ一番じゃなかった。
べつにそれで良いと思ってたが、まあ実際後悔したし、今思うともっと本気で関わるべきだったな。
親しい関係になるには……相手のことを知るんだよな? 仲良くなる過程なんて様々だが、俺的には好きなことに共感してもらえた時、相手に好印象を抱く。
頑張ろう。これは俺のためでもあるんだ。
二度目の人生のために……今を頑張ろう。
* * *
俺は浮き、フリィアちゃんは倒木を椅子にして、
第一回フリィアちゃん知りましょうの会。開催だ。
ちなみに会長は俺だけだから会じゃない。
「フリィアちゃん。夢はあるか?」
早速だが初っ端自分に返ってくる問いを投げかける。
「その……ないです」
夢……ないよなぁ、わかるわかる。
なんだか申し訳ないという顔だが、
気にしないでほしい、俺だって答えられない。
「気にすることはない。私も聞かれたら答えられないからな。そうだな……ないなら一つ提案だ」
フリィアちゃんは黙ったまま真剣に聞いてくれてる。
「魔法か剣……どっちかを極めよう」
「でもわたし……身体弱いし怖いですよぅ……」
ま、だろうな。
「そうさ、フリィアちゃんは身体が弱くて、
気も弱いから戦うことなんてできない。
でも、フリィアちゃんにはこの私がいる」
とにかく強調しよう。
俺が有能だって知らしめるんだ。
「ケルエタさんがいれば……大丈夫なんですか?」
「当たり前だ。私は妖精族なんだ。
フリィアちゃんを強くする方法くらい知っている」
知らない。そんなことは全く知らないさ。
ただ、全知脳がある限り俺の知識量は最強。
かつて伝説になった戦士の知識だって、
一度紙などに記されてれば手に入るんだからな。
「フリィアちゃんは、どっちになりたい?」
フリィアちゃんはすごい悩んだ。
どちらも極めるなら難しい道。
ある程度知識は得たので、
俺は極めることの難しさを痛感している。
「剣……わたし剣士になります!」
剣士か、意外だ。魔法使いだと思ってた。
「剣士、なるほど変えはなしだぞ?」
この世界の戦士は基本才能ゲーって認識だ。
生まれた時点で魔力量は決まっていて、
身体が成長すると共に少し量が増えるくらい。
でも、その一般常識は間違っている。
剣士も魔法使いも関係なく、
子供の頃からそれらに触れ続けていると強くなる。
魔法使いは魔力の底を叩くたびに魔力が増え、
剣士は剣を振り続けていれば強くなっている。
もちろんめちゃくちゃ単純化した言い方だ。
でも、適切な方法で力を伸ばしたら、
凡人だって強くなれると知識に入っている。
つまりフリィアちゃんを5年後までただ守るんじゃなく、俺はこの子を少しは戦える剣士にするんだ。
「それで……最初は何をすれば?」
「簡単だぞ。私が指定する果実を取るんだ」
「果実……剣士に関係あるんですか?」
「当たり前だ。フリィアちゃんは貧乏すぎる。
ので、まず最初は一般的な生活をできるほどの、
財力……いや″お金持ち″になってもらう」
剣士は身体作りが一番の基礎。
食生活も変えなきゃいけない。それに子供は栄養をたくさん取れば取るほどデカくなる。
それに、剣士なら身体が強くないといけない。
「お金持ち……そんなどうやって」
「その果実を飲み物にして売り出すんだ」
まずは金銭面の問題を解決する。
任せろフリィアちゃん。君にはこの、異世界版ネット検索を脳に持っている″ガイド″がいるんだからな。




