第四十二話 必然となる不確定要素
今の状況には二つの謎がある。
まず、俺たちはなんで本来三日程度はかかる道を、
こんな短時間で駆け抜けることができたのか。
そして今、俺たちの前に立ちはだかる男女ペア。
こいつらは首都レクセトにいたはずだ。
三日程度かかる道を俺たちより早く移動して、
ここにいること自体不可能……
村の崩壊具合からしてこいつら以外もいたはず、
そうなると時系列がぐちゃぐちゃになってる。
「……貴方たちはなぜここに?」
「……? 三日間かけてこけー来ただけや」
は? 三日間……?
「リルメスお嬢様、
私たち三日間もトンネルにいましたっけ……?」
「何言ってるの? 私たち三日間歩いたじゃない」
「メアラたち頑張って歩いて、
リルメス様が持つ食べ物とか食べましたよ」
二人はあの一瞬が三日間に感じてる……?
なんだ……なにかおかしい。あのトンネルおかしい。
「もうええ? こっちもそんなもたつきたくないし、
殺されるか捕まるかどっちか決めてや」
大阪弁の女が急かしてくる。
……全知脳も発動しないし、
今はとりあえずこのことは忘れよう。
どんなことよりも今はこの状況がマズい。
「ど、どうするのよケルエタ」
リルメスが心配そうに俺に聞いてくる。
あぁ……どうしようか。
「……わかりました。大人しく投降しましょう」
「ちょっとケルエタ!!」
……九州弁の奴は絶対に近接型。
ってか剣士って言ってたしな。
それに顔付近に怪我したのか包帯がある。
エルメットさんがもし死んでいたとして、
こいつにだってかなりダメージは入ってるはず。
もう″あれ″を使うしかないか……
「なんや意外、絶対断ると思いよったわ」
「二人とも、全力で屋敷に走って」
「え?」
二人にだけ聞こえる声量でそう言えば、
二人は困惑したように俺を見てきた。
「グラバさんにもしかしたら会えるかもしれない。
あの地下通路から出たところまで走って」
そこまで言うと二人は困惑しながらも納得した。
「なんかごちゃごちゃ言いよーごたーばってん、
わいら何話しよっと?」
九州弁の男……確か名前はエンヌ。
そいつはゆっくりこっちに歩いてきた。
一回限りのチャンス。
失敗すれば全てが終わりだ。
「いやいや、なんも」
近接を潰せば残るは遠距離のみ、
リルメスだって抵抗の余地がある。
「……」
まだ、もっと引きつけろ。
確実に当たるとこまで……!
今!!
「二人とも走ってッ!!」
俺の声と同時に二人は屋敷の方へと向かって走った。
二人の走る方向には弓を持った女が立ってる。
「やっぱそうすると思うたっさバカども!!
逃しなしゃんなやマテラ!!」
まあ、ある程度予想はされてた。
だけど──
「おいお前」
「あぁ?」
「一発もらってくれよ……!!」
二人の方に振り返ったエンヌは、
俺から一瞬目を離した。
そりゃそうだろう脅威なんて微塵もない。
そんな常識があるから油断したんだ。
「なんや、何する気とね」
俺は全身の光が一気に強まった気がする。
未だにこの魔法の発動方法はわからない。
ただ、絶対に出来るという確信はある。
異世界転生して二度目の俺の奥義。
これは一種の賭けにもなる……!
『誰であろうと気絶させる魔法。確絶魔法。』
久しぶりにあの眼球の声を思い出したよ。
……本当にもっと便利な魔法が欲しかったなぁ!!
「どりゃあああああ!!」
俺は全速力でエンヌの背中へと突進した。
もちろん俺の身体自体に威力はない。
ただコツンとぶつかった瞬間──
「あ? ぁっ、ァアアガァアアアアッ!?」
エンヌは爆発音と共に身体の中央を中心にして、
めちゃくちゃな速度で後方に吹き飛んだ。
地面を転がりながら仰向けになって倒れるエンヌ。
マテラって名前の弓女は固まってた。
「嘘やん……エンヌ! エンヌどないしてん!」
「ヵッ……ァァ……」
エンヌは白目を剥いて一発KO。
すげぇ威力だ……死んでないよな?
「ちょっとなんで起きへんの! たった一発やろ!」
マテラはエンヌの肩を激しく揺さぶるが、
俺の確絶魔法の前じゃそれは無意味だ。
「…… くっ……許さへん。絶対ぶっ殺したる!!」
マテラはそう言って俺がいた方を見るが、
もう透明状態になってしまったので姿はない。
「ならっ……!!」
マテラの弓がリルメスたちの方に向いた。
こっからは完全に賭けだ。
リルメスは戦士としても戦える。
あの矢を回避できるか……頼むできてくれ!
「ここで死にぃ!!」
矢が飛んだ。
月光に照らされた矢は輝きを帯びていて、
真っ直ぐとリルメスの心臓に向かって飛んでる。
決して避けるのは容易じゃない一撃、
それに加えて矢から一気に光が放出されて、
矢の全体を直視できなくなった。
眩しくも命を射止めるその一撃を──
「大体ここら辺でしょ……!!」
『リルメスお嬢様はフリィア様と常に一緒にいて、
稽古にまで混ざってしまいますよね』
『魔法使いなのに剣士みたいな動きもしますし、
私としてもこれは意外でしたね……グラバさんは?』
『意外……というより、だろうなと……
リルメスお嬢様は自主的に頑張るのではなく、
誰かと一緒に頑張るのが大好きですから……』
リルメスはフリィアちゃんと常に一緒だ。
魔法使いに本来必須ではない動きだってできる。
『……リルメスお嬢様は、それでも魔法向きですね』
『えぇ、私もそう思います』
フリィアちゃんは反応速度がかなり速い、
それは稽古のおかげでもある。
そこにはいつもリルメスもいたんだ。
パシッ、そんな音が聞こえた。
「嘘やん!? ウチの矢を掴んだ!?」
リルメスは矢を掴んで地面に投げ捨てた。
「ふっ……ふぅっ! 行くわよメアラ!!」
「すごいですリルメス様!!」
「当たり前よ! あたしは天才なの!!」
やって魅せてくれた。
はは……天才というより稽古混ざってたからでしょ。
それにしても嬉しすぎる……!!
信じてはいたが、本当にやってくれた!!
【*死のリストが更新されました。
黒文字の運命が削除されます】
俺はそれを聞いて死のリストを開いた。
全部真っ赤、でも黒はない。
てことはいけるぞ。
このままいけばいける……!!
走れリルメスとメアラ……
生きてくれ! フリィアちゃんを連れて生きて!!
「矢を掴んだからなんや……! もう一発!」
矢をもう一発放とうとしたマテラ、
だが、それはリルメスたちが視界から消えたことで、
叶わない攻撃になった。
「クッソ……!! 待ちぃ!!」
リルメスたちは見事、屋敷の中に入ったんだ。
俺も透明ながら二人についてく、
マテラって女も絶対追ってくるだろうな。
俺はこっから2週間透明で声も出せないし、
ここから1年間は魔法が使えない。
ただ、俺は保険を作ってある。
確か8月らへん。
俺はグラバさんに全てを打ち明けた。
『私はこの世界の存在ではないんです』
『それはどういう……?』
『元々この世界とは違うところで生まれ、
そこで死に、生まれ変わるとこの世界に。
それと私は、役目みたいなのを与えられたんです』
眼球のことは伏せた。
ただそれ以外はほぼ全て言った。
完全記憶のこと、全知脳のこと、確絶魔法のこと。
死のリストのこととかも、
二人を幸せにしなきゃいけないことも、
これから確実に戦争が起きることも。
『……そうでしたか』
『疑わないんですか?』
『疑う要素が……ケルエタ様の今までの行動は、
どう考えても超常現象的なもの……二人の危険予知もですし、圧倒的な知識量……記憶力の高さ』
グラバさんはその時言ってくれた。
『信頼してくれたから言ってくれたんですよね?
ならば私も信頼していますよ。
貴方様なら、その役目を果たしてくれる。
そのためになら……私は尽力しましょう。
さて、本題は戦争についての相談ですよね』
俺が透明になった時、
グラバさんに全てを託すようにしてある。
はっきり言ってあの人がいなきゃ詰んでる。
グラバさんだけが圧倒的に強くて、
圧倒的に信頼できるこの世界の″大人″なんだ。
「あっ……!!」
リルメスの声が廊下に響いた。
俺がこの状況下でもなんで安心してるかって?
確かに、グラバさんだとかが来る保証はない。
ただ……ただ! 絶対にあの人は来る!
だって強いし地下通路絶対知ってるし、
変に他を優先する人でもない!
来る来ないで悩むなんて作戦には不要!
来るって思うしか、そう考えるしかないんだ!!
だから──
「お待たせいたしましたリルメスお嬢様……」
「……遅いのよ″グラバ″!!」
来てくれたんだ!!
グラバさんに加えてエルメットさんも、
だいぶ重傷だがテグトトさんも……
それにシルフさんだって、まさかのルダクルもいる!
「ふふ、本当、遅くて申し訳ないです」
はは……なんだこれ、この人仕事出来すぎ。
すごいんだから……
「グラバ、ケルエタが──」
「えぇ、わかっています。ここからは、
ケルエタ様の代わりとなりましょう」
戦争、生き延びるためへのクライマックス。
頼みましたよ……生きて幸せになるために……!




