第四十話 黒幕上がれば舞うはオカマの光
* *【テグトト視点】* *
ウルルド・ユバルトラーマ。
ダグンド王国三大将軍の一人、
単独での天星山脈横断をこなしたバケモノ。
俊級の中でも上澄み……
おそらく三将軍の中じゃ最強の存在じゃ。
それが……それがここに?
俊級以上の等級は天級のみ、
じゃが……それじゃあ俊級の層が厚いのじゃ。
だから皆は天級に近い俊級をこう呼ぶ。
異名持ち俊級戦士、または準天級とな。
「かなしいなぁ……ゴスエトくぅん」
このウルルドはまさにそれに当てはまるんじゃ……
″浮天のウルルド″我なんかがどうにかできる相手なわけないのじゃ……!
「いやぁ国王様もひどいよぅ。
元々私たった一人でグロワールに対抗してたのに、
いきなり俊級をドカドカ入れてさ……」
「なんじゃっお主……挑発か」
「違うよ死にかけさん……
ダグンド王国の勝利宣言をしてるだけ、
三大将軍は私を含めて今は俊級しかいない。
つい、二日前に代替わりしたんだ」
……だからこう攻めてきたのか。
俊級三名、それだけいれば仕掛ける理由も納得じゃ。
「今、緑峰大陸の歴史が変わろうとしてる。
君らグロワールが負けて大陸はダグンドのもの、
どうやったって無理、戦力じゃ差がありすぎるよ」
黙って聞いておればごちゃごちゃと……
こちらが負けるだとか騒がしいのう。
「テグ……ウチ」
「シルフ、お主は逃げろ。
黙っておられるか……!
我はこの国を愛しておるんじゃ!」
我は血に塗れた膝に力を入れ、
無理矢理立ち上がってみせた。
「さすが鉱髭族、タフさんだね」
「譲れんものがあるんじゃよ」
「命を捨てるのは正直、褒められないかな」
ウルルドは我に杖を向けてそう言った。
……準俊級を倒したんじゃ、
誰もここで死んで文句はないじゃろ。
ただ悔いがあるとしたら……
シルフは我がいなくなっても大丈夫じゃろうか。
……。
悩む暇はないのう。
「さよなら、国のために戦った英雄さん」
目を閉じてしまえば死ぬと思っていた。
なのに、それは何かを蹴りつける音と共に、
真っ向から死を覆されたのじゃ。
「あたいのお仲間になにしてくれてんのよう!」
「? ……げ、すごい見た目だ」
アルトレ殿……?
「テグトトサァんあたいに任せなさい♡
このバカちんはあたい″たち″が相手するわよん!」
アルトレ殿がウルルドを横から蹴って、
我から大きく距離を離してくれたのじゃ。
それに……誰です。このたくさんの人は。
「遅れましたテグトト様、
……″ルダクル″様、テグトト様を連れて、
ケルエタ様の方へと向かってください」
グラバ殿、無事だったのじゃな。
「いきなり増えたなぁ……
ただ、君たち全員でかかっても私には勝てないよ」
「んなのわかってるわよん。
でもねい……あたいたちは生憎、
仲間を見捨てられないのよねん!!」
……ダメじゃ、意識が持たん。
血を流し過ぎた……ちと眠るしか
「バカバカしいね、そう言うの無駄死にじゃない?」
「あんた……仲間見捨てて明日起きた時、
目覚めも朝食も気持ち良く感じるの?
残念あたいたちはそうは感じないのよん。
あたいたちは明日生きる自分を好きでいたいの」
「なんでこっちに投げキッスしてきたの……?
はぁ……まあいいや、戦うなら来なよ」
我の意識はそこを最後に途切れてしまったのじゃ。
* *【アルトレ視点】* *
テグトトサァンを助ける数分前、
空から降ってきたグラバサァんを見つけたわん。
魔法塾にいたあたいは驚いたわよ。敵もね。
襲ってくる奴らが多くて、
城の方には行こうにもずっと行けなかった。
でも、グラバサァんが来てから戦況は一変。
敵がバッタバッタ倒れてくし、
規格外にこの人は強かったのよ。
魔法塾には生徒と先生が何十人かいた。
あたいたちは何人か先生を残して、
実力のある人だけがグラバさんについてったわ。
それで今に至るってわけ。
相手は異名持ち俊級魔法使い……
グラバサァんでも大敗しそうな敵よん。
悔しいけど……ここで時間を稼いで死ぬだけね。
あたいたちは奇襲戦争を仕掛けられて、
貴族の子どもたちも逃げる暇がない。
王国が滅ぶ理由は貴族が滅亡してから、
民側が侵略を受け入れてしまった時よん。
だから、リルメスチャんだとかは、
あたいたちが絶対に生かすべき存在。
「ならやってやるよォ!! 炎堂回!!」
ウルルドってこの魔法使いが挑発したせいで、
あたいの魔法塾の同僚が魔法を放っちゃったわん。
「どうしてそれで勝てると思うの? 空防・逆」
ウルルドはこの大陸だけじゃなく世界で有名、
どんな魔法を使うかなんてみんな知ってるわ。
ただ、それで情報をこっちが持っていても勝てない。
だって──
「っ……ぁあ?」
強すぎるのよ……空間を反転させる魔法、空防・逆。
よく知られるカウンターの魔法だってのに、
ウルルドはそれの精度と速度が高すぎる。
あたいだって魔法くらい避けられると思うわ。
でもね……元より遥かに加速した魔法なんて、
凡人じゃどうやったって止めきれないの。
全員が息を呑んだ。
あたいの同僚は右側の顔と肩を吹き飛ばされたの、
自分が放った魔法を強化されて返されてね……
「さぁ、次は誰が来るのかな?」
あたいはこう言う状況に覚えがあるわん。
昔、まだ二十歳になったばかりの頃、
あたいは″冒険者″として旅をする存在だったわ。
あたいが冒険者の頃は今ほど強くもなかった。
今も上級っていう強さだから、めちゃくちゃ強いってわけでもない。
でも、今より圧倒的に戦士として弱い。
あの頃も格上の相手と出会っては、
仲間を助けるためにこういうことをしてきた。
「……グラバサァん。貴方はここを離れなさぁい」
「な、何を言って、相手は俊級ですよ
……!」
「だからこそよグラバサァん」
あたいはね、自分の命はいつだって捨てられるわ。
自分が嫌いだとかそう言うわけじゃないし、
あたいだってまだ生きて楽しく生活したい。
でもねん。物事には優先順位があるの、
あたいの命とグラバサァんの命……
どうやったってあたいの命は優先度低いのよ。
この超強い魔法使いと戦って、
グラバサァんがここで死ぬなんてダメよん。
やるならあたい。あたいがこいつを引き受ける。
「早く行ってあげなさいグラバサァん。
あの子たちには貴方が必要なのよん!」
「……っ、アルトレ様」
そう嫌そうな顔しないで、
大丈夫よ。だってあたいはこう考えてるから。
「……決めるなら早くしてほしいんだけど、
もう私、動いてもいいですかぁ」
「わざわざ待ってくれてありがとうねん」
グラバサァんはあたいが振り返らなくなったのを見て、自主的にその場から離れてくれたわ。
残ったのは何人かの魔法塾の先生とあたいだけ。
「やっと決まった? 再開してもいいですかー?」
「ええいいわよん。あたいたちはもうバッチリだから」
もしまた会うならその時は笑顔で会いたい。
あたいは、いつだって幸せなのがいいの。
「あんたは強くておっかない敵だけど、
所詮、男女にしか区別されない存在……
男は最強、女も最強、じゃあオカマは──」
明日を生きるために、今日あたいは死ぬ。
「超ッ最強!! かかってこいやァア!!」




