第三十九話 完全詠唱
* *【グラバ視点】* *
ゴスエトの代償召喚にて生まれた召喚体、霊玉華。
私はそれをテグトト様の戦いから遠ざけるため、
あえて正面から殴りつけ場所を変えました。
ある程度殴り合ってわかりましたが、
この召喚体、完全な近接特化……
意図的にどちらかを潰すように作られた存在。
相手としても腕の一本を使った召喚だけあって、
力、速度共に英級上澄みほどの強さ。
テグトト様もお強いですが相性が非常に悪い、
ですから好都合というところでしょうか。
それに私はこの召喚体より確実に強い。
……そう言えば、
あの二人からもよく質問されましたね。
『グラバってなんでそんなに強いのよ』
『わたしもそれ気になります!』
いつの日か、リルメスお嬢様とフリィア様からの、
何気ないたった一つの質問。
『……そうですね。ただ意地っ張りなだけです』
『なによそれー、期待はずれだわ!』
『グラバさん。意地っ張りって……?』
私はこの48年間の半分を戦いに捧げた。
その中で得た知識はどれも今に活きています。
『絶対にこれだけは譲らないという意志ですよ』
私はなにも最初から強くもなければ。
才能などもないと思っていた。
しかし、意外に私の全身には、
才能と呼ぶべき力が多く秘められていた。
これでもし、見切りをつけて諦めていたら──
『何事も一度最後までやってみるべきなのです。
魔法であれ剣であれ未来の心配などせずに、
ただ前を向いて歩く。それが私の意地ですよ』
多くの才能は開花しないままだったでしょう。
これは私の持論ですが、
″大人″になるとは、物事の果てを見る決意です。
結果がどうであれそれを直視する勇気、
絶望も幸福も味わう覚悟がある者だけが、
″大人″という存在へと立場を足を踏み入れるのです。
この戦争自体、正直どうなるかはわからない……
ですが……限りなく幸せからは遠ざかっている。
それでも……私は直視する覚悟が出来た。
全てが終わった先でたとえ、
血に塗れた仲間の屍を背にしたとしても──
……。
もしここに二人がいるのであれば、
ぜひこれを教えて差し上げたかった。
これが″大人″になること……
だから私は強いのです……!!
「ッォアアア!!」
私は霊玉華の腹部目掛けて拳を突き刺しました。
真っ白な身体に私の拳が突き刺さると、
波の様に肉を押して後方へと吹き飛ばしたのです。
家屋へとその巨体は衝突しましたが、
霊玉華もすぐさま体勢を直してきました。
ですが──
「呼応せよ火の悪魔よ。
その赫燿なる力を我が身に宿せ。
火炎片球……!」
私が下級魔法の中途詠唱を行うには、
あまりにも大きすぎる隙なのですよ。
この魔法自体、決して強力ではありませんが、
今、この状況下で下手に高難度な魔法を扱うより、
下級魔法に全ての技術を詰め込む方が強い……
「ッウォゥオオア!」
等級では英級程度。
確かに魔法使いと近接型の戦いでは、
魔法使いに対して圧倒的に近接が有利。
ですけど、私、近接もいけるのです。
……圧倒的な優位、なのに違和感がします。
なんというか……この召喚体は単純すぎる。
もちろん召喚魔法の召喚体は基本単純、
それでもこの個体は代償召喚にて生まれた存在。
ここまで一直線な動きしか出来ないわけがない。
「……なんだか危ない気がしますね」
純白宿すその巨体は変わらず私に向かって、
ただただ、方向を変えるわけでもなく猪突猛進。
「!」
その時でした。
霊玉華は私の目の前で身体中の赤い花を枯らし、
一気に赤い光を辺りに放った後に爆発したのです。
「っぐ」
咄嗟に腕で身体を守ってはみせましたが、
やはり初動では明らかにこちらが遅れた。
違和感。
それはこの召喚体が私を倒すためではなく、
ゴスエトからどれだけ遠くへ離せるかが目的。
爆風によって動くこともできず、
背中の向く方にある空へと向かって吹き飛びました。
……最速で戻ったとしても5分以上。
召喚体が消えたと言えどしくじりましたね。
* *【テグトト視点】* *
「なにコソコソ話してるのさ、
随分と呑気で驚きだよ……!」
ゴスエトも魔法を放つ速度は上がり続けておる。
このままじゃいずれ負けるのは我ら。
この状況下で我がこの者に勝つ方法、
それは、我の一番の魔法を完全詠唱で放つこと。
「おしゃべりはそんなに嫌いかのう?」
「ウチら実はすっごくおしゃべりなんだよね」
相手は準俊級という我の人生最大の強敵。
あやつの魔法をこの目で見て対処する時、
何度も走馬灯が過ぎるんじゃよな……
我は魔法大学である魔法使いから聞いたことがある。
『魔法戦はどこまで自由になれるか。
それが、私が魔法使いで生きていられる理由』
その魔法使いは、こう考えているから強い、
そう自身で確信していたのじゃ。
……我もその考えにはかなり納得しておる。
魔法戦じゃ、いつだって頭が良い奴が勝つ、
剣士の戦いよりも圧倒的に知で勝つんじゃ。
この今の我の状況、まさに頭の使い所。
完全詠唱をキメテこの者を正面から負かす方法……
「……? 君、なにしてんの」
「逃げるんじゃよぉ!」
「はぁ!?」
「テグ、逃げるってマジ!?」
我は背を向けて思いっきり走って逃げ始めた。
もちろん、あやつもそんな我を逃すわけない。
「呆れた……頭おかしくなっちゃったの?」
「失礼な奴じゃなぁ!」
そう言われてもしょうがないとは思うが、
もちろんこれも策のうちじゃ。
完全詠唱は基本的に長い詠唱が必要。
じゃから走りながら詠唱して迎え撃つんじゃ。
じゃが、敵もバカじゃない。
杖に魔法陣が見えた瞬間、
この逃げが攻撃体勢だとバレる。
だから前傾姿勢で杖を隠しながら走っとる。
「おいテグ!! なにやってんだよぉ!」
シルフの叫び声、場を埋める大きな声じゃ。
じゃがこれも実は策の一つ。
詠唱の声をかき消してもらうために、
シルフにデカい声で叫んでもらう。
「白水刺!」
追ってくる中でも魔法は飛んでくる。
これをどれだけ避けながら詠唱できるかが賭けじゃ。
「いつまで逃げるつもり……!」
我はすでに魔法の詠唱を六割終えておる。
今回放つ魔法は英級雷魔法の魔雷。
我の最も得意で大好きな魔法じゃ。
中途詠唱でも十分強いこれを、
我は今回完全詠唱で放つのじゃ。
【雷狂の悪魔。
西方の大地に降り立ちし茈雷よ。
その身には暴れ狂う雷が宿っている。
その身に刻まれし怒り狂う雷撃を顕現せよ。
狂うのならば狂わせてくれたまえ、
我はそう願っている。汝もそう願っている。
その瞳を見せてみせろ悪魔よ】
ここまで詠唱は済んでおる。
しかしこっからはシルフの声ももう頼りにならん。
こやつももう気がついているはずじゃ。
「っ……そう言う作戦なんだっ!」
「テグっ……ヤバいよ!」
じゃが……もう手遅れじゃぞ準俊級。
「皆は言う、悪魔は狂っていると、
しかしその悪魔はいつだって天へと向かい、
電撃を宿し続け悪魔はその度に自我を失っていく」
「斬水群!」
背後から迫る大量の水の斬撃、
我は後ろへと振り返ってそれを直視した。
「ッ……ッゥグウ……ならば救ってみせよう。
我が熱を与えし悪魔よ」
「なんで直撃して……!」
我は水の斬撃にほとんど直撃した。
身体強化魔法がなければバラバラだったじゃろうな。
しかし、傷は深過ぎた。
それでも、詠唱はやめん。
全身の皮膚にダラダラと熱い感覚が広がってくる。
それでも、我はやめんぞ。
「我の熱にてその閉ざされし欲を放て」
完全詠唱にて放たれる魔法は一つの欠けもない、
完璧で最高の状態、それは中途詠唱の一歩先をゆく。
この勝負、我の勝ちじゃな。
「魔雷……!!」
「っ星水ッ……!!」
100%の我の全てを賭けた一撃。
それをゴスエトは真正面から直撃しおった。
回転しながら雷の光線がゴスエトを呑み込んで、
数秒後、腹を貫かれて火傷を多く負ったゴスエトが、
我の光線が消えた後に姿を現した。
「……顔は火傷しなかったよ」
「そうか、よかったのう」
「ッチ……さすがに治んないか。
泥臭……僕の負けだよ」
幽霊族、さすがにこれは再生できんか。
ゴスエトは負けを認めて地面に倒れおった。
「……テグ! 今すぐその肩治さなきゃ……」
「まぁ待て待てぇ……勝ったんじゃ喜ばしいわ」
「怪我のこと気にしなって!!」
勝てたんじゃ。
本当に……? いや勝ったんじゃぞ。
しかし、強かった。今回は本当にヤバかったのう。
「グラバ殿ももうすぐ戻ってくる……
シルフ、我ちょっと戦線離脱しても良いか」
「ウチに聞いてどうすんのさ!
早く治療受けいくよ!」
そうやって歩き始めようとした時、
悪寒が走ったんじゃ。
「……ゴスエトくぅん……しんじゃったか」
「……シルフ」
「わかってる……わかってるって」
音がしなかった気配もなにも……
「あ、ごめんなさい。音出せばよかった。
初めましてグロワールの人、
私は″ウルルド・ユバルトラーマ″」
一難去っては大災難。
俊級魔法使いのお出ましじゃぁ……




