第三十七話 矜持 後編
「エルメット、お前また剣を触ったな!」
「ごめんなさいお父さん!」
俺は小さい頃、剣に好奇心が惹かれ続けてた。
「いいかエルメット。剣はな、剣士の魂だ。
お前のか弱い手でこの俺の剣を触る資格はない!」
俺の父親は剣士というものに誇りを持ってた。
いつもは優しい父でも剣だけはかなりうるさかった。
「……ただエルメットよ。
そこまで剣を使いたいならやってみるか?」
「え……いいのお父さん!?」
「ただし、辞めることは許さん。
泣き言が聞こえたら追い出すからな!」
今じゃあれだけ厳しかった父さんが、
優しい存在にしか見えない。
剣を持つことはつまり、
戦場にいずれ出ることを意味する。
戦死は誇らしいが父さんの心の奥底じゃ、
俺が剣士になることは怖かっただろうな。
それでも父さんは俺に剣を持たせてくれた。
父さんはもういない。ただ、俺はできるだけ長く、
剣士をやりながら生きていたいんだ。
父さん。俺、今強い敵と戦ってるよ。
だけど、まだそっちには行かない。
見てて、俺は絶対に勝つから。
* * *
こいつの剣の振り方は複雑だ。
二つ剣を持ってるだけあって変幻自在、
型に沿って動いてるんだろうが予測できない。
足捌き、剣筋、気持ち。全てこいつはできてる。
あの表情がなおさら感じさせてくるぜ……
俺には絶対に勝てるって自信をなッ!
「ずぅっと思いよったんや……
なんでおいより強か剣士は強かとか」
こいつの動きはどんどん加速し続けてる。
クッソマジ速え、ギリギリ防げてるが、
このままいったらデカいのもらうな……
「そいつらはみんな言いよった。
弱か奴は剣に全てば賭けられとらんってな」
あぁ、そうだよ。弱い奴の剣はその通りだ。
「今のわいはまさしゅうそれや!!」
エンヌの剣を俺が防いだ瞬間、
俺の腹に思い切りエンヌの足が突き刺さった。
蹴りの威力に速度が乗ってすげえ痛い……
でも、安心したよ。
お前……俺が手抜いてるってわかってないな!
「そがんわいが、なしておいに勝てるばい」
「っふ……ぐ、はは、目が腐ってるのか?
俺は剣に全部を捧げてきた……こいよ。
お前の剣の全部と俺の全部、比べようぜ」
俺はあえて挑発した。
そしたらあっちも乗り気だ。
「真っ向勝負ってわけか。よかたい」
日差しが差し込む城内の廊下。
外からは色んな音が聞こえてたが……
俺の耳はたちまちそんな音は拾わなくなった。
「エンヌ……!」
「……? ちょっとタンマ。
ユレケオ先輩、邪魔せんでくれん……?
まぁ…… ちょうどよかか、あん先に貴族がおる。
ちゃちゃっと殺してしもうてくれんばい?」
こんな時に……いや、まあ強いけど弱いな……
あのレベルならフリィアちゃんたちには勝てない。
見逃しても余裕で大丈夫な敵、ラッキー。
「っ……あぁわーったよォ。
それよりあいつは倒せんのか?」
「ユレケオ先輩、アホやなかやろ? 負くるわけ」
「はっ、あぁ悪かったなァ」
そう言ってユレケオって奴は去ってった。
「ごめんな。再開しようか」
「あぁ今回だけ許してやるよ」
「ははっ何様とね」
……邪魔は入ったが再び一騎打ち。
ここで勝負が決まる。
溜めに溜めたんだ。
俺は勝つ。この天才を倒してやる。
息を呑めば全身の筋肉がほぐれた。
なんだか緊張しないんだ……妙に落ち着く。
……まだ。
……まだまだ。
まだ……。
……今ッ!!
俺とエンヌの動き始めは揃ってた。
エンヌの飛び出しに合わせて俺が床を踏み込み、
上から下へと振り下ろすように構えた剣。
それを完璧なタイミングで振り下ろす。
ただ、俺はあえてそこで動作をやめた。
二度の踏み込み、これで相手のペースは乱れる。
「なっ……!」
若干斜めに前へと跳んだ際、
エンヌは俺に向かって剣を投げつけてた。
「ドアホ! バレバレばい!!」
バレてた。
俺は騙してると思ってたが、
実は俺が騙されてたんだ。
この一本勝負に持ち込んで想定外を突く作戦、
それを見事にやり返されたんだ。
「……」
「ずぅっと顔に出とったで! てことで終いや!!」
エンヌの勝ち誇った表情が、
俺の死を確実にさせるように首へと剣が近づく。
……。
……ふっ。
「騙されたなバァーーッカァ!!」
「!?」
魔力放出は身体から行うと制御ができない、
それに加えて自身に反動でダメージまでくる。
だから魔剣化が強いんだ!
俺は風を纏わせた剣から一気に魔力を放出し、
反動ダメージを無くして一気に横へと移動する。
剣を媒体にした風による位置の変更、
なぁ天才、これも想定内だったのかよッ!
「なんやとォッ……〜ッ!!」
その余裕が崩れたな……!!
俺は風を思い切り剣から放出したせいで、
剣が手から離れて飛んでったが……問題ない。
俺は再び接近して、エンヌの両肩をがっしり掴んだ。
「俺はな……父さんのような剣士じゃないんだ。
誇りだとか……そういうのは考えてない!」
必死に闇属性で剣を操って斬ろうとしてるが、
もう間に合うわけないだろ。この勝負、俺の勝ちだ。
「俺の剣ってのはな……この身体だァアッ!!」
「ゴバァッアァッ!」
頭突き。
特大の頭突きをこいつの鼻にぶち込んだ。
「剣だけじゃないんだよ……
俺たちはなぁッ!!」
もう一発。
「ゴッヴェッ!」
「剣士以前に戦士なんだ!
勝利は全身使って勝ち取るものだろ!!」
もう一発……!
「カッァ!」
鈍い音が響いてエンヌの血と涙が辺りに飛び散る。
俺の額だって痛えさ。でもやめない……お前が、
お前がくたばるまでやめねぇぞ……!!
「ッハァッ……まっ、ゴベェアア!!」
しっかし頑丈すぎんだろ……!
全力で身体強化魔法も使ってるのに、
こいつの顔、まだ全然ぐちゃぐちゃになってない。
「待てないな。俺はせっかちだから……!」
多分四発、まだだ。
徹底的に潰す……ここで俺がやるんだ。
「こんイカれ野郎っ! ブッボォアア!」
「っ……おいおい、随分とパンチが弱いなぁ」
必死の抵抗、それは俺の腹へのパンチ。
だが、弱すぎて全然痛くなかった。
「だぁあああッ!! 離せやクソ野郎ォッ!!
こがんところで終わるわけにはいかんとや!!」
「離さねえよ天才! 俺でお前は行き止まりだッ!
ここでお前を終わらせるのが俺なんだよ!!」
俺とこいつに今、プライドや誇りなんてない。
ただ、どっちが先に折れるかの勝負。
城内の廊下に響く俺たちの叫び声。
自身のために発せられる応援歌……
ははっ、なんだこれ、初めてだ。
こんなの初めてだ!
俺は今……人生で一番面白い戦いを味わってる!!
「ッカァッ!?」
と思ってたら……いきなり俺の口が何かに貫かれた。
「エンヌ、逃げるで」
加勢……! グラバさんが……?
いや違う……あえて迂回して入ってきたのか……
叫んでたから歯だとか舌は怪我なし……
ただ口を貫かれただけだ。まだ戦える。
でもまあ、クソ、加勢に来た奴は弓使いか、
矢を放たれたせいで離れるしかなくなった。
俺は後ろへと跳んで距離を取る。
「あまるなや…… 何ば言いよっと!」
エンヌの横に立つ弓使いの女の子。
逃げるとか言ってたな……俺から追撃しても、
この状況じゃさすがに勝てない……
「ウルルドさんからの命令、黙ってはよ逃げるで」
「ッ…… わかった。逃げればよかとじゃろ」
ウルルド……あのウルルドだよな?
俊級の魔法使い……じゃあ町にある結界も。
「そこのあんた。ウチのエンヌボコすなんてやるやん」
弓使いの女の子がどれくらいの強さかはわからない。
種族はおそらく悪魔族……なんだが少し変だ。
多分何かとのハーフなんだろうな。
それより……あの目、俺が追ってきたら、
容赦なくお前を殺せるぞって目だ。
……変に命を捨てるより、治療して戦う方が良い。
「まあな、俺からすれば余裕よ」
「なんやとッ!! 待っとけや次会ったら殺す……!」
「ごめんだね。もう若者にはついていけね〜っす」
エンヌは不機嫌そうだった。
鼻血の止まらない鼻を押さえて、
弓使いの女と一緒に城内から出て行ったんだ。
あいつらがどうなったかはわからない。
ただ……これは勝ちというより引き分けか?
再戦はしたくないな。次は俺が負けちまう。
「……頭いてぇ」
ケルエタさんたちは大丈夫か……?
さっき見逃した奴なら多分、
フリィアちゃんたちを倒せる奴じゃない。
それでも……心配だな。
行くか、それに……
リルメスお嬢様に治癒してもらいたいし。




