第三十六話 矜持 前編
* *【エルメット視点】* *
「そう言えばおいは名乗ったけどわいは?」
「エルメット・ラクセラルド」
「へーありがとう」
エンヌ・ロワルデルド。
俺はこいつのことを元々知ってた。
ダグンド王国で有名な剣士。
十四歳で英級になった蒼剣流剣士だ。
名乗られて初めて知ったけど、
こいつ顔も結構カッコいいなぁ……
「名乗ってくれて嬉しかけん、
先手は譲るばい。かかってきな」
ナメられてんな。
まあ良い好都合だ。
ここで一気に勝負を決めたっていいからなッ!
地剣流は五つの流派で一番シンプルな流派、
そのせいか斬り方だとか動き方が予測される。
だけど、それを予測されてちゃ俺はダメだ。
俺はシンプルなこの流派を扱う中で、
とにかく足の踏み込みを意識してる。
これはフリィアちゃんにも教えた。
俺流剣術基本三原則、足捌き・剣筋・気持ち!
踏み込み重視の俺が出すこの動きを、
お前は果たして予測できるかな?
「っ!?」
俺は接近することもなく、
剣で斬りつける以前の問題とも言えるほど、
エンヌから離れた場所で剣を振り上げた。
そんな俺の姿にエンヌは苦笑いしてたが、
俺が一気に床を踏み込んでひび割れを起こすと、
間合いは一気に縮まり切先がエンヌの顔面に触れた。
二つの剣で咄嗟に防がれたが……
頬を薄く斬ることはできた。
「わい、すごかねぇ……
そこまでやるるとは思うとらんかったわ」
エンヌは俺から距離を取って、
頬の血を袖で拭ったらそう言ってきた
「はははっ、結構マジ斬りだったんだけどな」
仕留めれなかったのは惜しいが、
まあ、俺の強さはわかってくれたっぽいな。
「じゃ……次はおいん番」
エンヌの容姿は悪魔族らしい見た目で、
曲がった角に翼に細い尻尾、全部が真っ黒だ。
めちゃくちゃ強くて才能もあって、
顔面も整ってるこいつを見ると──
羨ましいぃ〜っ……!
と、思ってたら。
「投げた……?」
エンヌは俺に向かって剣を一つ投げてきた。
そんなの余裕で避けられるがその隙に接近してきて、
俺に向かって3回、剣を振るった。
強みである手数を捨ててまでそうする意味……
待て……もしさっきの剣まで策の内だったら?
「!!」
俺は勘で後ろに身体を倒したら、
眼前を一つの剣が通り過ぎてった。
「マジか、普通気づくかよ」
「っぶね……」
「ばってん、隙だらけばい」
ただまあ、この姿勢だ。
上から剣を突き刺しにくるよな。
俺はその剣を避けるために地面を転がって、
ステップしながら立ち上がった。
「ははーん。闇属性か」
「ピンポーン、ばい」
闇属性でさっき剣が帰ってきたのは、
最初から剣に闇を付与して手で吸収しただけか。
闇属性は際限なく吸収する性質……
こいつ、上手いように扱ってるな。
「なん止まっとーったい?」
エンヌは走ってこっちに向かってきたら、
今度は二つの剣を空中に投げたんだ。
そんで本人は拳で俺に殴りかかってきた。
「っ!」
こっちも腕で防いだり、剣の面で防ぐが、
どうもさっきの二つの剣が気になりすぎる。
「余所見注意や」
「ゴバァ!」
なんだこいつの拳!
グラバさんのお手軽腹パン並みだぞっ……!
「詰みや」
このタイミングで剣を飛ばしてきやがった……
『これでまた死にましたねエルメットさん』
『強すぎ……俺じゃ勝てないっすよグラバさん』
グラバさんはよく言ってた。
『エルメットさんは考えが消極的なのです。
意外に人というのは限界を知りませんよ』
『それってどういう……』
こんな時に思い出すってことは──
『つまりですね。思いつきはやってみろってことです』
「すらごとやろ!?」
「大マジだよ!!」
俺は向かってくる剣に向かって剣を投げた。
そしたら剣はぶつかり合って一つは撃墜。
もう一つはこの体勢からじゃ避けられない。
ので! 俺はガラ空きの両手を使って、
その剣を一か八か手で挟んで止めてみた!
「うぉおあああ!? できたぁあ!!」
俺は喜びに身を委ねる隙もなく走り出して、
地面に落ちた自分の剣を拾って一気に床を踏み込み、
エンヌに向けて上から下へと剣を振り下ろした。
「くっ!」
闇属性で防がれたがこっちもダメージは入れたい。
「まさかっ……!」
俺は剣を闇で防がれたので手を離し、
俺の身体に宿る風属性の魔力を解放。
歴史上最古の武器、拳。
俺は風魔力で一気に加速した拳を、
エンヌの腹に向けてぶちかました。
「ぶっはァッ!」
エンヌはそれを受けて後ろに吹き飛び、
城内の壁に叩きつけられた。
「はは……やっぱ慣れないことはしない方がいいな」
あいつも大ダメージだが、
俺も結構ダメージを受けてる。
なにせ身体強化魔法を忘れてたせいで、
拳が素の硬さだから拳が割れた。
「っひゅ……かぁっ、のぼすんなや」
血をダラダラ口から吐いてる様子からして、
あいつ、内臓か骨が完全に逝ったな。
まぁ俺も右腕プルップルだけどな……
「…… これじゃ治せんやんけ」
エンヌはそう言って腰の袋から瓶を取り出した。
小さい瓶だ。中には緑色の液体が入ってる。
「……回復ってことかよ」
「ははっ……正解」
まあ、治液は常備してるか……
俺も持っておけば良かった。
ただ、その回復じゃ内臓のダメージは消えない。
和らぐだけで依然苦しいはずだよな。
「っく……っふ、わいのパンチ効いたわ」
エンヌは液体を一気飲みして、
口元を袖で拭ったら闇で剣を回収。
再び両手に剣を持ってこっちに歩いてくる。
「剣士やめて拳戦者なったらよかかもな」
「うるせ〜俺は剣士一択だね」
しっかしまぁ……体力切れとはいかないが、
さすがにこの歳になると息が上がるな。
来年で三十か……長期戦はもうできないな。
「悪いが大人気なく行くぜ」
「構わんで」
俺は剣の刃に人差し指を当てて、
下から上へとなぞれば血が刃に流れる。
そこから一気に風が剣に纏い始め、
俺の身体は驚くくらいに軽くなり始めた。
「わい、等級なんや?」
「上級」
「冗談キツかばい。英級顔負けじゃろ」
魔剣化。
まあ確かに、この技術は英級以上がやってる。
上級剣士でこれをできるやつはほぼいない。
「ばってんおいも出来るっさな。
そっちがそん気ならおいもするしかなかよな」
エンヌの方も右手の剣の刃に向かって、
左手の甲を押し付けて上から下になぞった。
そしたら一気に血が黒く変色して、
元々白い剣の見た目が真っ黒に変わった。
「両方は勘弁してな? まだ慣れとらんばい」
「ま、勘弁しといてやるよ」
戦闘の再開。
先手は俺だった。
風の魔力のおかげで俺の動きは加速し、
さっきとは別人みたいに速い。
それでもこいつは攻撃を防いでくるだろうな。
「速いなぁ!」
俺は踏み込みで一気に接近して、
流派特有の斬り型に沿って剣を振るう。
もちろんそんな剣は防がれるさ、
こいつは剣を二つ持っていて手数は2倍。
それが蒼剣流の強みなんだしな。
「なんや? いきなり単純になったな」
「そう言う流派なんだよっ!」
剣を振っても防がれて避けられて……
つくづくこいつはすごいなと思う。
俺も一応上級上澄み、英級レベルなんだけどな……
「じゃあおいには勝てんぞ」
エンヌの剣が俺の首にいきなり向かってきた。
俺の全力ラッシュの隙を突いてきたんだ。
驚いたし普通に死ぬかと思ったが、
反撃されて死ぬような俺じゃない。
「あぁわかってるよ……だから考えてる」
エンヌの剣をギリギリで避けては反撃。
でも、やっぱり二つの剣を持っている奴に、
俺が優位に立てる状況は訪れない。
だが。
この戦いでの勝ち方はもうすでに決まってる。
十四歳で英級になったこいつは、
俺とは次元の違う才能の持ち主……
だけど動き方を見りゃわかる。こいつの弱点は──
圧倒的な自信によって見える経験の浅さ……!
こいつは十四から十七まで無敗だったんだろうな。
圧倒的すぎて周りが勝てなかったとかだろ?
普通の英級剣士には俺はもう負けてるよ。
地剣流はシンプルさが弱点だが、
それは強みでもあるんだ。
父さんはいつも言ってた。
当たり前は最大の油断、だってな。
言わば今のうちだ。
今しか凡人がこいつに勝つ術はない。
その矜持を真正面から破壊してやるよ天才ッ!




